死にたい理由
荒れ狂う魔物達は、逃げ惑う村人を捕らえては、簡単に体を引裂き
内臓を啜り心臓を取り出して、美味そうに食べていた。
それを目の当たりにした、村人達は逃げるのを無理だと諦めて
殆どの住人は、鍵を閉めて家の中で震えながら、立ち去るのを祈った。
だが魔物達は、外に飛び出した村人を喰らい尽くすと、今度は家を壊し始め
人を見つけ出しては、喰らい始めた。
そして村長に蹴られて、地面に這いつくばった僕を
魔物がジッと見ていた。
「うわぁ〜」
目が覚めるとベッドの上だった。
「あ あれ・僕は 一体・・・」
重い瞼を、必死で開くと、スキンヘッドで、頭に入れ墨のある
目付きの悪い男性が、覗き込んだ。
「お、もう目ぇ覚ましたのか!」
「うわっ」 「そ、そうか今から殺されるんだね」
すると男は眉を顰めて、右手を額に当てると、首を横に振った。
「あ〜」「ちょっと待ってろ」
男が部屋を出て、暫くすると今度は大柄の女性が入ってきた。
「よう」「目ぇ覚めたか」
その女性は、僅かに口元を歪めてニヤリと笑い
長い髪を両手で後ろに手繰り寄せて、ゴムで結ぶと
椅子の背もたれを、前にして両腕を組んだ。
そのシャツの袖から伸びている鍛え上げられた両腕は、
筋肉で盛り上がり、それは自分の体より太いのでは
無いだろうかとさえ思える程に逞しかった。
「あ、あの」「僕は肉付きが悪いので、美味しくないかもしれませんが
すいません」
すると女性は一瞬、呆気に取られてそして大声で笑い出した。
椅子の背もたれを叩きながら、笑う女性を見て
子供は驚き、そして戸惑った。
どうして突然笑い出したのか、それが分からなかったからである。
「あ〜悪いね」「ってか、食う訳ないだろ!」
「それに魔物と一緒にされたら、傷付くだろうが!」
「僕はてっきり殺されると思って…」
「そうか」「私は ミルセ・ジェイス」「お前、名前は?」
「僕はセルアルと呼ばれてました」
「セルアル」「お前は死にたいのか?」
ミルセの問いに暫く間を置いて、セルアルはコクリと頷いた。
「セルアル」「その体の傷は…」「いや、いい」
まだ幼いコイツに、辛い事を思い出させるのは、酷だろう。
あえて聞かなかったミルセの、優しさに触れた気がしたセルアルは
自ら、答えて語り出した。
「僕の両親は僕が産まれて、間もなくして、狩に行ったきり
帰らなかったそうです」「そんな僕を引き取り
育ててくれたのが村長でした」
「でも、厄介者を拾ったと、殴られたり蹴られたりの毎日で
村の人達も、汚い物を見る様な目で、僕に辛く当たりました」
「ある日、村の人達が剣の試し切りだと・・」
言葉は途切れ、ガクガクと激しい痙攣を起こして、額からは汗が流れ落ち
セルアルは両手で頭を掻きむしりながら、叫び出した。
「うわぁ〜〜〜もうやめて〜痛いのは嫌だ〜もうやめて〜〜〜」
「お、おい」「落ち着け!」「大丈夫だ!」
「もうお前に酷い事をする奴は居ない!」
「大丈夫」「怖くない」
ミルセが抱き締めると、徐々に震えは止まり
胸の中で、静かな寝息をたてて、眠り始めた。
「大丈夫」「もう心配しなくていい」
何度か、頭を撫でるとセルアルをベッドに寝かせた。
顔色も悪く、痩せこけた頬のセルアルの寝顔を見て
ミルセはギュッと拳を握り締めた。
何故、こんな幼い子供が辛い仕打ちを、受けなきゃいけないのか
何故、こんな酷い事が幼い子供に出来るのか
絶対に許せない。許しちゃいけない。
その時、扉が勢いよく開いて、手下達がドサドサと、部屋の中に
雪崩れ込んだ・・・
「なんだ、お前らも気になって来たのか」
「す、すいやせん」
「それにしても、酷すぎですぜ」
「ちょっと話がある」「全員集めてこい」
ミルセはそう伝えると、セルアルの寝顔を見て、部屋を出て行った。