見解の相違
治療室に運ばれた獣人の女の子の安否を、廊下の椅子で
セルアルが祈りながら待っていると
カルラが王宮で行われていた会議から、早足で戻ってきた。
「獣人の娘を、連れ戻ったそうね」
「本当なの?」
「はい、実は…」
スハノの話を聞き終えると、カルラが右手で顔を覆って
溜息を吐いた。
「成る程、本当だったのね」
「あのカルラ様、何かあったのですか?」
「ああ、ちょっと王宮で会議があってね、
その時騎士団の奴らが騒いでたのを小耳に挟んだのよ」
「騎士団の方々が?騒いでた?何故ですか?」
「騎士団には、獣人に偏見を持つ者が多いからね」
「悪しき獣を捕らえろとか言ってたわ」
「そ、それでカルラ様、やっぱり引き渡すのですか?」
「獣人の娘を見てからじゃないと、何とも言えないわね」
「あ、あの」「獣人の女の子は大怪我でそれでも必死で、
この王都まで辿り着いたけど、だけど誰も助けなくて
だから…」
「分かったから、落ち着いてセルアル」
「もしも人に危害を加える様なら、引き渡すのも仕方ないかと
思ったけど、まぁ考えてみれば危険な獣人をスハノが
連れ帰って、治療はしないわよね」
「仰る通りです!カルラ様!」
「それに、ご覧になれば納得されると思います」
「そうね一先ず治療が、終わるのを…」
カルラが言いかけた時、治療室の扉が開いて
冒険者の女の子が汗を拭いながら出てきた。
「あの子は助かったか?」
「どうなりましたか?」
セルアルとスハノに言い寄られて一瞬、戸惑ったが
女の子は笑顔で答えた。
「深い傷が幾つかありましたけど、応急処置のお陰で
命に別状もなく、大丈夫ですよ」
「セルアルさんの応急処置のお陰ですね」
「いえいえ、でも助かってよかった」
その時、冒険者の女の子がカルラの存在に気付いて、慌てふためいた。
「ギ、ギギギギルドマスター!」
「おおお疲れ様です!」
「あ、ああ・・・」
「ところで、貴女は獣人の娘を治療するのに、抵抗は無かったの?」
「え?は、はい無かったです」
「即答か」「ロビーに居る冒険者達は、獣人だからと断ったでしょう?」
「それなのに何故、そう言い切れるの?」
「怪我人に、人間も獣人も関係無いですから」
「私の両親の受け売りですけど」
「成る程ね」
「貴女の様な冒険者が、これからは必要となるわ」
「名前を聞かせてくれるかしら」
「名前を告げるのが遅れて、申し訳御座いません」
「カーシェ・ハカトと申します」
「そう」「カーシェこれからも宜しく頼むわよ」
「獣人の娘は寝てるのかしら?」
「はい、治療も終わり薬でグッスリ眠ってます」
「ちょっと寝顔を見てもいいかしら?」
「勿論で御座います!」
「有難う」
「それじゃあ、私はこれで失礼致します!」
「あ」「ちょっと待ってくれる?」
カルラは、ステータス画面のアイテムボックスから
何本か小瓶を取り出すと、カーシェに手渡した。
「今の手持ちは、マナ回復薬とハイポーションしか
無いけど受け取って」
「えええ」「でも、こんな高価な物受け取れませんよ!」
「いいから、今回の報酬だと思って、受け取って」
「で、でも…」
「カーシェさん」「カルラ様の好意です」
「それに今回の報酬に、相応しいと私も思います」
スハノの言葉にセルアルも頷いているのを見て
カーシェは、小瓶を受け取った。
「分かりました」「有り難く頂きます」
「どうも有難う御座います」
カーシェは深々と頭を下げると、軽い足取りで
冒険者協会を後にした。
そして、獣人の女の子の寝顔を見てカルラは、固まっていた…
なによこの生き物!可愛いじゃない!これが本当に獣人なの?
もっと恐ろしい獣の姿かと思ってたけど、これは…
「如何ですか?カルラ様」
カルラの後から、治療室に入ったスハノの問いに
グルリと凄い勢いで振り向いて、拳を自分の顔の高さに持ち上げた。
「騎士団の連中なんかに、絶対渡さない」
「協力して死守するわよ!」
「はい!カルラ様の、仰せのままに!」
「有難うございます!カルラさん!」
「貴方達に聞くけど、獣人ってどんな印象がある?」
眉を顰めてセルアルとスハノに問いかけた。
「私の知る限りでは、力は人間と比べ物にならない程強く
とても凶暴で人間の町や村を襲っては、家畜を喰らうと…」
「俺も、同じ様なことを、聞きました」
「そうなのよね」
「でもそれはあくまで、噂もしくは人伝いに聞いただけで
真実とは限らない」
「現に目の前に居るけど、とてもそんな風には思えない」
「カルラ様の仰る通りです」
「はい」「とても思えないです」
「でも、騎士団の連中がこの子を見てそんな風には、きっと思わない」
「凶暴な獣」「もしくは化け物として処分するでしょうね」
「そんな…」
「所謂、見解の相違ってやつね」
「じゃあどうすれば、いいのでしょうか…」
「実は最初、助けるのに反対でしたが今は違います」
「この子を助けたいと心から思ってます」
「俺は最初から助けるつもりでしたから、この子が助かるなら
なんでもします」
「二人の気持ちは分かったわ」「実は私に考えがあるの」
「少し強引なやり方になるけど、それにはこの子の協力が不可欠だから
話をしなきゃだけど、今は薬で眠ってるから、明日かしらね」
「分かりました」
「じゃあ私は一旦帰って、また明日の朝来ます」
「そうね」
「じゃあ俺も部屋に戻ります」
そしてカルラとセルアルは、冒険者協会の自室に戻り
スハノは自宅に帰ったのだった。




