王都に向けて
翌朝、騒がしい声で目を覚ましたマイカが、窓から外を覗くと
門の方に向かいゾロゾロと、移動している町民達の姿を目にした。
なにかあったのかしら?
マイカが念の為に剣を手に取り、表に出ると団員の一人と鉢合わせした。
「よかった」「丁度、団長を呼びに行こうと思ってたのです」
「なんの騒ぎ?まさか、また魔物?」
「安心して下さい」「魔物じゃないですよ、こっちに来て下さい」
「そっちは、町の入り口よね?」
「はい」「まあ来れば分かりますから!」
「ボロボロの門を見たって、仕方ないでしょう」
すると団員達が、意味ありげにほくそ笑み、マイカは首を捻った。
一体、なにがあるって言うのよ?
町の入り口付近に着くと、そこには町民達で人集りが
出来ていて、マイカが来たのに気付いた子供達が走り寄ってきた。
「ねぇ見て〜」「セルアルお兄ちゃんがね、門を作ってくれたよ〜」
太い丸太を格子状に組み合わせたのを、二重にして外側の部分には
鉄でコーティングした立派な門が、出来上がっていた。
「凄い」「これをセルアルさんが、たった一人で?」
「そうだと思います」「朝起きて、念の為にと町の中を見回りに出たら
立派な門が出来ていて、セルアルさんがほらそこに」
団員が指を差した方に、視線を送ると門の柱にもたれ掛かり
眠ってるセルアルの姿があった…
何故この町の為に、そこまでしてくれるのだろう?
やっぱり、ここが王都だと思ってるから?
だとしたら私は、この人に酷い事をしてる。
今度のは、許されない嘘。
「団長」「ここが王都じゃないと、やはり正直に言うべきでは?」
ボソッと小さな声で囁いた、団員に即答した。
「そうね」
王都のギルマス宛の、紹介状を持ってる事自体普通じゃないし
これ以上この町に引き止めるわけにもいかないわね。
「ンガッ」
突然セルアルが目を覚ました。
「あ」「マイカさん、おはようございます」
「おはよう」「セルアルさん」「実はね…」
「あ〜セルアルお兄ちゃんだ〜」
「おお」「セルアルさん、立派な門を有難う」
「これで安心して暮らせるわね」
マイカは打ち明けるタイミングを逃したのだった…
「本当に有難う〜」
「セルアル」「セルアル〜」
「セ〜ルアル〜」
何故かセルアルコールが、湧き上がり
「団長」「言わなくていいんですか?」
「セ〜ルアル〜」
そしてマイカもセルアルコールに、混ざっていた…
王都じゃないと、打ち明ける事が出来ないまま
二週間が過ぎたが、その間魔物が襲ってくる事もなく
町は以前の活気を取り戻しつつあった。
「セルアルさん、本当に有難う御座います」
「町の皆さんも、貴方に感謝してます」
「いえいえ」「でもよかっです、お役に立てて」
「あの、実は言わなければならない事があって…」
マイカがそう言いかけた時だった
「もしやと思ったが、やっぱりここに居たか」
「あ!ミルセ姉さん、どうしてここに?」
「どうしてじゃない」
「王都に行った筈のお前が、どうしてこの町に居る?」
王都じゃないのが、バレた。しかもミルセ・ジェイス本人。
ヤバイ。私が騙したってバレたら、ヤバイ。
なによ、あの太い腕は人間の域を超えてるでしょ…
どうしよう・・・
ミルセの名前を耳にした団員達も、後退りしていた。
だが、それを聞いたセルアルは驚く事もなく、淡々と話し始めた。
「いや〜実は…」
一切動揺しないセルアルにマイカは、唖然となった…
セルアルさんは、ここが王都じゃないって知っていた?
じゃあ知っていながら、この町に滞在して力を貸してくれていたの?
私の嘘に気づいていながら?
セルアルの話が終わると、ミルセはマイカに視線を向けた
「成る程ね」「魔物を倒す為に、力を貸していたと」
「は、初めまして、マイカ・クルシェと言います」
「この度は、セルアルさんをお引き止めする様になり、誠に…」
言葉の途中で、ミルセがマイカに近寄ると、肩に手を乗せて小声で言った。
「どうやら、私の事は黙っててくれたみたいだね」
「感謝するよ」
「この町には暫く私が居てやるから、セルアルは王都に向かいな」
お前が早く行かなきゃ、金貨が貰えねぇんだよ!
「え?ミルセさんが?」
思わずマイカが叫び、団員達が騒ついた。
「なにか、不満でもあるのかい?」
「いえ決してその様なことなど、なあお前達!」
団員達の方を見ると、コクコクと首を縦に振った。
「分かりました」「準備して向かいますね」
「セルアルお兄ちゃん」「行っちゃうの?」
「この町に居ればいいじゃんか〜」
「お兄ちゃんは、王都に行かなきゃいけないんだよ」
「この町の人達の様に、魔物に苦しめられている人を
助けなきゃいけないんだよ」
「また来てよね」
「ああ、絶対にまた来るから」
「セルアルさん」「本当に色々と有難う御座いました」
「これ、道中で召し上がって下さい」
そして、弁当を受け取ったセルアルは今度こそ、
本当の、王都に向けて旅立ったのでした。




