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救われた命




  王都から西の方角にある大きな村に、僕は住んでいた。

  両親は僕が物心つく前、森へ狩に出掛けて

  そのまま、帰って来なかったそうだ。

  両親が居なくなった僕を、村長が面倒見てくれる様になったが

  とても辛い毎日だった。

   

  食事は残り物の、夕食一回のみで、お風呂は三日に一度。

  酒に酔ったり、機嫌が悪かったりすると、直ぐに暴力を振るわれた。

  

  「誰のお陰で、生きてられるか、分かってんだろうな!」

  お決まりの台詞だった。

  

  生きる為には、我慢するしかなかった。耐えるしかなかった。

  そう思いながら、過ごす日々だったが、何時しか『死にたい』

  もしくは『こんな奴、死ねばいいのに』そう思う様になっていた。

  

  そんなある日の朝。

  『ゴンゴンゴ〜ン』

  緊急時を知らせる為の、村の見張り台の鐘が、

  高らかに鳴り響いた。

  もしもの為に、作った見張り台の鐘。

  今迄に一度も鳴った事は無く、今では飾り同然だった筈の鐘。

  それが、鳴り続けて村中に響き渡るのを耳にした村人達が、

  何事かと、家から飛び出した。

  「魔物だ〜」「魔物が攻めて来たぞ〜」

  見張り番の村人が、一人でも多くの人に、知らせようと

  懸命に声を張り上げた。

  

  その声に反応して、空を飛んでいた魔物が、見張り番の体を鋭い嘴で

  貫くと、見張り番の男は体勢を崩して、見張り台から、地面に落下した。

  「キャ〜ッ」

  「魔物だ〜」

  悲鳴と叫び声が、入り混じる中、逃げ惑う村人達を

  魔物は、容赦無く片っ端から、殺していった。


  誰もが、自分が助かる為に、必死だった。

  当然と言えば、当然である。

  他人を押し除けて、我が先にと走った。

  醜い本性を曝け出した、人間達を、せせら嗤う様に魔物達は、

  一人、また一人と、人間を捕らえては、喰らっていった。


  その内魔物達は、家の中で隠れてる村人達を、探し始めた。

  一軒ずつ順番に入り、僕達が隠れてる村長の家の前に、やって来た。


  村長が、ガタガタ震えながら、僕の腕を掴むと、外に連れ出した。

  「お前!ワシが逃げる時間稼ぎをしろ!」

  「親の居ないお前に、ただ飯を食わせて、育ててやっただろう」

  「その恩返しをしろ!」

  僕は、勢いよく背中を蹴られて、地面に倒れ込むと

  魔物がノッソリと近付いて、ジッと僕を見た。

   

  死ぬ。ここで死ぬ。

  そして、思った。

  僕は一体、何の為に産まれたのだろう・・・と。

  「ハア」

  溜息が溢れて、僕は目を閉じた。

  死を覚悟して・・・。


  その隙に、村長はでっぷりと太った体で、懸命に走っていた。

  

  これで、助かる。村長はそう思っていたが、実は、そうでは無かった。

  骨と皮の様な、子供の体と、肉付きのいい、太った村長を

  見比べた魔物は、僕に構わず、村長を追いかけたからだ。


  「ひいい〜どうして〜」「こっちに来るな〜」

  

  魔物に食べられる村長を、遠目で見て僕はニヤリと笑っていた…

  まあ、少し遅くなっただけで、次は僕の番だけど。

  

  その時だった。

  村の入り口の方から、轟音が響いて魔物達が、一斉に入り口へと向かった。


  「え?」「何々?何が、起きた?」

  子供がゆっくり、起き上がると目の前には、信じられない光景。

  二メートル近い魔物達を、百八十センチに満たない女性が、剣を振り回して

  最も簡単に、倒していたからだった。


  「どうなってんだよ!」「この村は!魔物の村かよ!」

  叫んでいる女性に、魔物が爪で襲いかかると、身を翻して一刀両断にした。


  「カシラ」「笑えねぇです」

  

  「悪かったな!」

  そして、カシラと呼ばれた女性が、倒した魔物から落ちた

  魔石を拾い上げると天に突き上げて、大声で叫んだ。

  「お前ら〜金だ金だ〜」「ガンガン狩るぞ!」


  「お〜!」


  村人達が、なす術もなく逃げ惑った魔物達を、次々と薙ぎ払い

  百体以上の魔物を、僅か十人であっという間に、殲滅したのだった。

   

  

  「ふ〜それにしても、酷いな」

  カシラと呼ばれた女性が、辺りを見渡すと

  まるで、地獄絵図の様だった。

  牛や馬などの家畜の死体に、血だらけの村人達は、一目で死体だと

  分かる程に、酷い状態だった・・・

  こりゃあ、生き残りは、居ないかもしれないな。


  「カシラ〜」「子供(ガキ)が、一人生き残ってました〜」

  「ほう」「生き残りが、居たのか」

  その子供に覇気は全く無く、虚な目つきで、フラフラと立ち上がった。

  「良かった」「これで、死ねる」

  そして、フッと意識を失い、子供はカシラに抱き抱えられた。


  カシラは、子供を抱きながら、唖然となった。

  痩けた頬に、少し力を込めれば、折れそうな細い手足。

  そして、破れた服から見えている、体の所々にある傷痕。

  まだ、幼いのに、この子供は、今迄にどんな仕打ちを受けてきたのか。

  だからこその、『良かった』『これで、死ねる』・・か

  溢れる涙が、こぼれ落ちない様に、必死で堪えた。


  「カシラ」「どうしやすか?」

  何時の間にか、手下達が揃い、哀れな目付きで子供を見ていた。

  

  「見捨てる訳には、いかないだろう」

  カシラは、子供を抱えて立ち上がったのだった。

  

  

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