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第2話 異世界の魔王サマ

 

 休日出勤を終えて、やっとの思いでワンルームのマンションに帰宅すると、知らない男が部屋に居た。


 見た目は私と同じ二十代前半で、日本人離れした二メートル近い身長。そして恐ろしく整った顔。


 あんな知り合いはいないし、会ったこともない。


 いや、実際には見たことがある。ただし、それは夢の中で。



「あの頬の傷……黒髪なのに日本人離れした整った顔。何より、あのコスプレじゃなきゃ着ないような鎧姿。間違いないわ……」


 某国民的有名RPGで闇落ちした長身のソルジャーみたいな男、この現代日本で見たことない。


 出来ることなら幻覚であってほしい。連日の激務で自分の目は疲れているのだ、きっと。



「……でも声も聞こえたんだよなぁ。もう一度入ってみよう」


 スマホを左手に握り、再度部屋へと戻っていく。スマホの画面は、ワンタップで緊急電話が繋がる状態にしてある。



「失礼しまぁす……」


 何故か自宅に入るのに敬語になってしまう私。


 そろ~っとドアを開けてみると……。



「あれ? 居ない??」


 さっき男が座っていたリビングのソファーには、誰も居なかった。


 お高めのワインも、テーブルの上から無くなっている。代わりに、キッチンのコンロの上に置いてあったはずの土鍋が消えていた。

 昨晩食べた水炊き鍋があったはずなんだけど、一体どういうことなのかしら。



「なぁんだ~、私の勘違いかぁ! そっか、そうだよねぇ~」


 疲労と悪夢のせいで、遂に精神が病んできているのかもしれない。やっぱり今日はビールを飲むのはやめて、さっさと寝よう。


 まるで狐につままれた気分だが、兎に角危機は去ったようだ。


 良かった。これでひとまず安心して眠ることができる。


 私はほっと胸を撫で下ろすと、スーツ姿のままベッドへと向かったのだった。



「待てぇええい!!!! おかしいでしょうが!!」


 そう叫ぶと、私は掛布団をめくりながら飛び起きた。



「ん、もう目覚めたのか我が姫よ。随分と浅い睡眠なんだな?」

「だ、誰!?」


 真横から聞こえるのは、聞き覚えのある声。


「うるさいぞ。あまり大きな声を出すと、近所迷惑になるだろう」

「ギャアアアアアッ!?」


 ――居た。


 居たのだ。あの男は。


 まるでゴキブリのGさんのような言い方だが、黒髪のアイツは確かに存在していたのだ。


 いつの間にかベッドに腰掛けていたその男は、浴室に繋がる廊下の方から千鶴に話し掛けてきた。


 そして手にはワインボトルが握られている。やはり、さっきの光景は幻などでは無かったようだ。


 すっかりビビってしまった私は、布団をかぶってしまう。



「ひっ……だ、誰なのっ!?」

「む、やはり記憶は無いか。まぁそれは想像の範疇だし、仕方ないか……」


(この人、私を知っている!? す、ストーカー!? と、とにかく逃げなきゃ!!)


 布団を被ったままナメクジが這うようにして逃げようとするも、あの男にガシッと掴まれてしまった。しかも物凄い力で、ビクともしない。


 おそるおそる布団を持ち上げてみる。



「おい、どうして逃げるんだ姫よ」

「姫って誰!? どうしてって、そりゃ自分の家に不審者が居たら当たり前でしょう!?」


 不審者……? と不思議な顔をしているが、本人は自分が不審者だとは思っていないらしい。


 私は夢の中の男が出てきたという恐怖でいっぱいになのに。


 なにしろ、この男は夢で何の躊躇もなく人間を殺していたのだ。自分に対して何も害をなさないとは言い切れない。



「俺はお前をずっと探していたんだ。お前が死んでから、ずっと」

「は……? え、死んだ? わたしが……??」



 そうだ、と言い掛けたところで、カーテンをした窓越しに赤いライトが近付いてくるのが見えた。


(あれ……警察? ってビックリした衝撃でスマホが誤作動しちゃった!?)


 スーツのポケットに入れておいたスマホを取り出すと、通話済みとなっていた。勝手に繋いでしまっていたのかな? どうやら警察が事件性を感じて、私の家を逆探知してくれたようだ。


(た、助かった……)


 警察がこの殺人鬼に敵うかはさておき、味方が自分一人じゃなくなることの方が大きい。


 そう思えば自然と心にも余裕が出来てきた。先ほど恐怖に染まった顔から一転し、口角をニヤリと上げた。



 バタバタと廊下を数人が歩いてくる音も聞こえた。思えば慌てていたせいで、玄関の鍵も閉め忘れていたみたい。


 よしよし、あとはこの部屋まで来てくれればチェックメイト。日本の警察の優秀さに感謝をしながら、私はその時が来るのを待った。



「すみませーん。白鷲さん、どちらにいらっしゃいますかぁ? 警察です~、白鷺さんの通報で来たんですが~」


 よし、勝った。

 いや、何に対して勝ったのかは分からないが、取り敢えずもう安心しきっていた。

 今の自分はヨレヨレのスーツと涙に濡れた顔という、かなり情けない格好になってしまっているが、見られたって構うものか。


 警察が来たことに驚いているのか、その場で立ちつくしている男の脇を高速ハイハイで通り抜ける。そして寝室のドアをガチャリと開け、救世主を迎え入れた。



「有難うございますっ、助かりました!! あのっ、不審者が私の部屋に「妻が帰ってきた俺を不審者だと勘違いしましてね。いやあ、お騒がせしてすみません」……えっ? ちょ、ちょっと」



 警察官のオジサンの脚にしがみ付きながら事情を説明していたら、私の台詞を遮って男に割り込まされてしまった。


(何を急に!! ていうかお前がその不審者だよっ! しかし馬鹿め、警察の人がそんな子ども騙しの言い訳なんて信じるわけが……)



「そうですか! まぁ何事も無かったのなら我々も良かったです。奥さん、次からは気を付けてくださいね?」


「え? あ、はい……いや、いやいやいや!? 違うんです、見間違いなんかじゃっ……!!」


「すみませんでした……コイツにはしっかり言い聞かせておきますので……」


「いや、だから何で……」


 おかしい。警察の人は全然私の話を聞いてくれない。



「ははは、可愛い奥様じゃないですか。しっかり守ってあげてくださいよ?」


「はい、もちろんです」


「ちがっ、私この人の奥さんなんかじゃ――モゴッ!? もごもごもご!!」


 まったく自分の話を聞かない周囲に反抗するも、後ろから男に口を塞がれてそれ以上喋れなくなってしまう。


 その間に警察官は笑いながら帰って行ってしまった。



「ど、どうして私よりアンタのことを信じるのよ!?」


 男の手を振り払い、私は叫んだ。本当の夫婦か確かめようともせずに、あそこまでアッサリと引き上げちゃうなんておかしいわ。何かおかしなことをしたに違いない。


 だが男は少しも悪びれる様子も無く、こう言い放った。



「それは俺が洗脳魔法を使ったからだ」

「洗脳魔法!? って魔法って何よ!?」

「ん? 魔法ぐらい簡単に使えるだろう。なんたって俺は魔王だしな!」

「ま、魔王!?」


 なによコイツ、本当に頭がおかしいんじゃないの!?


 そうだ、もう一度警察に電話しよう。

 そう思ってスマホを取り出そうとしたが、男によって阻止されてしまう。そのままベッドに押し倒されてしまい、馬乗りになられた。



「忘れたのか? 俺は魔王。異界よりお前を妻に(めと)りにきた、魔王ゾディアスだ」



(2/13話)

次の投稿は18:30頃を予定しております。(*´ω`*)

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