返り討ち
返り討ち
夜も更けて警備の冒険者達にも疲れが見え始めた頃、売店の男は招き入れた賊と一緒に女子供を人質にしていく。
「おい 黙って言うとおりにしろ!」
「んむむむー」(口を押えられている)
闇にまぎれて盗賊3人が女子供を縛り上げ倉庫へと静かに移動する。
「それで終わりか」
ガバナムと店員は砦の裏にある倉庫へ4人の人質を押し込めた、まるで何時もの様に手慣れたものであった。
そう この砦の責任者ガバナムが実は賊のリーダーで、事前にこの場所を通る商隊が分かっており、保険として金を払った商隊だけ無事に通し断った商隊は仲間の賊に襲わせて金品を奪うという狡猾なやり方でお金を絞り取っていたのである。
賊の悪だくみも今日で終わりだとは、露程も思ってはいないだろうけどね。
どこからか狼の遠吠が聞こえる「ウォウ~」
(攻撃の合図かな…)
砦の入口正面ではギラルが冒険者たちに声をかける。
「全員戦闘準備」
矢がそこかしこから飛んでくるが気功防御術を全身に巡らせた私には何の障害にもならない、ハイドシステムをオンにしたまま、表門を後にすると裏門へ移動する。
まずはお店の店員を無力化そして落ち合うはずの賊達を無力化すると小屋の中にいる人質達を解放し今後の指示を説明する。
「ミラルちゃんこいつらを縛って小屋へ閉じ込めておいてそれからしばらくは皆でここにいてね外は危ないから」
「はい 任せておいてください」
ミラルちゃんはそう頷くと他の女性たちと縄を手に取り賊を縛り上げて行った。
裏門の草むらにはすでに6人がのびており縛り上げられているのは最初に合流するはずの賊4人と店員1人、この時点で立場はすでに逆転していた。
その後ジェシカは一人だけ賊の襟を掴むと裏門からハイドシステムを利かせたまま正門へ歩き出した。
パッと見はうなだれた賊が一人で歩いているように見えるが、実は気を失っていてジェシカが首根っこをつかんで歩いているという状態だ。
「おい、おまえら今すぐ引かないと人質がどうなっても知らないぞ」
正面から攻撃してきた賊の一人が言い放った。
「女子供の姿が無いぞ」(ガバナムがこれ見よがしに叫ぶ)
正門を守る冒険者たちが騒ぐとその後ろからジェシカが賊の襟をつかんだままハイドシステムを解除し正門へと歩いていく。
「人質ってこれの事?」
「なんだ なんで奴が捕まってんだ?」
「あなたたちの仲間は全て捕まったわよ降参しなさい」
「クソ!馬鹿がしくじりやがって」
逃げ出そうとしたガバナムのみぞおちへジェシカの長い脚が食い込む。
苦悶の表情で腹を抱え悶絶するガバナムの襟をつかむジェシカ。
「あら 醜いわね この子が首領かしら」
「まずいぞ 親方が捕まったぞ」
「逃げても無駄よ」
そう言うとジェシカはハイドシステムを使い正門の敵へと一瞬で迫る、ジェシカの蹂躙劇が始まった、表門を出た辺りの林からドカッ バキッと言う音だけが聞こえる。
賊はジェシカの攻撃に手も足も出なかった、数秒後ジェシカは賊の襟首を持つと表門の前へと賊を放り投げる20人いた表門の賊はぐったりとしたまま次々と冒険者たちの目の前に積みあがっていった。
「グエッ」
ハイドシステムを解除したジェシカが手をパンパンと叩く。
姿が見えていれば何をしているかは分かったのだろうけど、まさかこの美女がこれほど強いとは誰も思わないだろう。
「はい おしまい じゃあみなさん 後は宜しくね」
「よし賊をふん縛れ」
まるで漫画のようだった、その後倉庫小屋へ行くとミラルちゃんと人質になっていた女性達に説明。
裏門で捕まえた賊も表門へと運び、砦の中は結局捕縛した賊だらけになってしまった。
討伐が終わった後50人もの賊をどうするか話し合われた。
「誰か奴隷紋の契約魔法使える人はいないか?」
この世界には奴隷制度がある。奴隷の種類も色々で犯罪者から売られてきた者まで様々だが、奴隷の取引をするにはそこそこ大きな町の市場で奴隷紋の魔法術式を取得している商人に頼むしか方法が無い。
ここから賊を運ぶにも商隊は3つ、しかも1つの商隊は真逆の方向へ行く予定でとてもでは無いが賊を役人に引き渡すのは無理ではと、話し合いは難航するところだったが。
奴隷にしてしまえば契約で縛り逃げ出すことが出来なくなるらしく、この場で奴隷契約が可能な者を探すことで意見が一致した。
ニクルの町で商人をしているアルフレッド・カミンガムの妻サーラが名乗り出た。
「私で宜しければ可能ですが…」
「頼めますか」
「ハイ」
話し合いの結果50人もの盗賊は万が一の事を考えて契約主は全てジェシカが請け負う事になった。
倒したのも全員ジェシカだからと言われると、断る理由も無かったので仕方なく引き受ける事にした。
奴隷紋の契約はそんなに難しくなく契約術を取得している者が奴隷一人一人の血を使い体に紋章を描くことで完了する契約主はその描かれた紋に指を触れるだけ。
指を触れると空中に光の輪と文字が浮き上がる。
「文字が浮かんで来たら左の文字が主として契約するという文字ですので指を触れてください」
ジェシカが指を触れると光がはじけ奴隷になった賊の体に奴隷の紋章が刻まれる。
「これで賊は全て貴方の奴隷となります」
50回同じことを繰り返した。
「サーラさんお疲れ様です」
「いいえ、全てジェシカさんに任せても良かったのですか?」
「私でしたら、何の問題もございませんわ」
奴隷になると主人の言う事に逆らえず、逃げようとしてもそう思うだけで激痛がするらしい。
だが万が一のこともある、複数でいっぺんに襲われれば無事というわけにはいかないだろう、まあジェシカならば気功術で10倍近い防御力があるのでその点は安全だ。
最初何人かが逆らおうとして地べたをのたうち回る羽目になったが、時間が経つと賊は皆大人しくなっていた。
一応面倒を避けるため最初に奴隷全員の前でジェシカが一言いっておくことにした。
「私から50m以上離れないでね 殺しちゃうわよ」と
ニコっと笑うジェシカを見て賊たちの大事な部分は充血する事なく縮み上がった。
この路線で良いのか?魔女かそれとも魔王誕生か、できれば賢者の方が良いのだが…忘れかけていた中身は60歳のおじさん美容師だが外見は金髪美女だということを。
2つの商隊は次の村レド村へ1つの商隊はこの砦に赴任してくる次の代理を待つことにした、出発しても安全を確保できそうにないためである。
確かに賊は退治したが、盗賊は地方へ行けば行くほど増えてくる、この地区の盗賊はいなくなっても先へ進めば違う盗賊が又現れるだろう、ならば数日待って安全を確保してからでも遅くはない。
2・3日すれば他の商隊も訪れる、他の商隊からこの先安全かどうかが分かればその方が安全だし、我々が次の村で現状を役人に説明すれば次に赴任する管理官からの情報も得られるだろう。
夜が明けて商隊は80k離れた最初の村へ出発した。
奴隷達には速足の魔法をかけて歩かせる、速足の魔法をかければ走る速度は魔力にもよるが大体3倍ぐらいまで速度を上げることができるらしい。
途中猪の群れと遭遇し野生の猪を10匹ほど冒険者と共に狩ると、その後はウサギや蛇さらに鹿2匹という具合に狩りをしながら順調にレド村への道を進んだ。
この星の猪やウサギは地球の動物より大きい約2倍はある、強さも2倍以上あると思っていい。
「ジェシカさんも冒険者なんですか?」
今まであまり話しかけなかったナザンが話しかけてきた、もしかして警戒されていたのかな?それとも女体もとい大人の女性に免疫が無かったからなのか。
「いいえ 違います」
「冒険者じゃないのにその強さは、体術とかは何処で?」
「軍 いえ王国近衛隊の父から教わったのよ」嘘だがまあ同じようなものだ。
「しかも その剣は…」
「ああこの剣は伝説の剣のひとつビームソードって言うの素敵でしょ」
伝説の剣、嘘のようなホントのような話であるが。
まあこのぐらいの嘘なら想定内でしょう。
この世界ではまだ早いテクノロジーだけど、そう言っておかないと説明がつかない。