謳騙-uta-kata-
沈む
背後から腕を回し
抱きしめるように
躊躇いがちに
ゆっくりと
でも 確かに
意思もたぬ四肢
抗うことなく
ゆるやかな力に
ただ付き従う
誘う水底
まだ見えずとも
迎える泡沫
酷く優しく
水面散らす光
受け止める瞳孔
拒むことなく
その全てを写す
いずれ遠ざかり
二度と還らない
知っているから
瞼は閉じない
身体撫でるように
浮き上がる水泡
名残惜しむ指の
指す光に融けて
深く
深く
揺蕩うままに
吸い込まれていく
望まれるがままに
静か
閑に
全て閉ざした
境界を越え
同じ温度で
沈む
僅かに丸めた背を
抱き止めるように
まとわりつく水を
代わりに押し上げながら
沈む
たった一息だけ
飲み込んだまま
冷たい重石を
抱き込んだまま
底は終着点
背中押されて
跳ねるがままに
知らず吐き出した息
ぷかり 立ち上ぼり
弾けて消えた
誰の耳にも
届かず消えた
こういう詩を書くときの方が、意外と元気という矛盾