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ダリ、とは、一つ前に立ち寄った村の名前である。
隣の国への関所となっているため、そこで手形をもらわなければならないのだが、最近流行りだした伝染病で村中が壊滅的な被害をうけ、まともに手形を発行してもらうどころではなかった。
──まず、人がいない。
健康な者はは看病に走り、そのうちの何人かが薬を求めてデルフォを目指すも、この吹雪に阻まれて成果はあがらず。
それどころか寒さの中無理をしたことで体力が落ち、伝染病にかかってしまったり看病される側に回ったりと踏んだり蹴ったりになっている。
「まぁ、人助けだと思えば仕方ないわよねー? やっぱり冒険者として困っている人を見過ごすわけにはいかないわ」
「お、竜香が珍しいこと言ってる!」
煽る砂流にじろり、と睨みを聞かせて、
「当然でしょ、世の中世話になったら恩がえしって言うじゃない? ここで村の助けになりましたーとかいったら、手形はタダ、当然宴会くらいは開いてもらえるってもんでしょ?」
「あまりにもひどい……なんて女だ」
ふふん、と鼻を鳴らす竜香に、呆れ顔でため息をつく牧義。
よくもそこまで美しくない考えができるものだ、と格好をつけながら言うのを聞いて、
「でも、牧義も、弱った女はなんだかそそるって言ってなかったっけ?」
さくっと言うのは遊希。
「ちょ、ちょっとあんた、それで最近姫竜の部屋にしょっちゅう行ってたわけ!? 弱ってる女に襲い掛かるとか、サイッテー」
「……ほう、牧義。そういう目で見てたのか?」
冷ややかな目で牧義を見る持山。
炎がくすぶっているような、今にも吹き出しそうな危険なオーラが感じられるのは、気のせいではないだろう。
「いやっ、違う! 確かに弱っている女にはそれはそれで魅力があるが、仲間が弱っているときにそんな邪な美しくない考えをするはずがないだろう!? そう、俺はただ看病でもできたらと思って──」
「……」
「へー、そうなんだー? 看病って、ナニしちゃうつもり?」
牧義の言葉を受け、無言の持山に心底楽しそうに茶々を入れる竜香。
「俺は何もしていない! ここは断言させてもらおう!」
「……看病に行って何もしないで帰ってくるって、本当に何をしに行ってるんだ?」
いつもならこういう場合面倒なことになるのは自分だが、今日は違うのがうれしいのだろう。
さりげなく砂流が話に混ざる。