その6、姫竜
熱い……ちがう、冷た……い…?
ふと、体が熱いような、冷たいような妙な感覚に襲われて目を開けるのは、姫竜。
身動きがとりにくいと感じたのは、背負ったままの荷物事倒れていたからのようだ。
ただ、その上に雪が降り積もりつつある。
このままでは埋もれてしまうだろう。
なんとか上半身を起こし、そこではっとして腰の辺りに手をやり──
「……っかっ、げほっ! ごほごほっ……」
自分の武器である中剣が無事であることに安心して、ほうっと溜息をついた弾みに、冷たい空気を無防備に吸ってしまい、むせてしまう。
「う──げほっ……」
ゆっくりと呼吸を整えて体を起こすと、ひどい眩暈と息苦しさ、あちこちの痛みに顔をしかめる。
どれほど倒れていたのかはわからないが、何とか指も全て動く。
じんじんと痛むが、感覚がない場所はない。
幸い、凍傷は免れたようだ。
全身を襲う倦怠感に、このままここで眠ってしまいたくなる──が、そうするわけにはいかない。
「ええと……」
辺りを見回すが、ただただどこまでも果てしなく白く、吹雪くばかり。
仲間の姿は見当たらず、敵の姿もない。
「とりあえず、目的地行かなくちゃ……皆、無事かな……」
まるで世界中で自分ひとりしかいなくなってしまったようで心細くなる──が、泣いているわけにもいかない。
泣いたところで何ひとつ事態は好転することなく、ただただ体力を消耗するばかり。
うっかり感情を暴発させて魔術を発動させてしまえば、そちらでも消耗してしまう。
「早く、皆と合流しないと……」
グローブの中でかじかんだ指先を何度か動かし、首から下げた方位磁石を確認する。
「──あっち」
皆で確認した方角は、北北東。
その方角を方位磁石と合わせて指差すと、ゆっくりと静かに深く息を吸い、のろのろと立ち上がる。
仲間の無事も定かではなく、自分でも体力や精神力が危機的状況であることがわかる。
だからこそ、早く進まなくては。
もし、目的地に到着しても誰もいなかったら、改めて探しに行けばいい。
皆で決めたルールだからこそ、皆が同じように考え、行動しているはずだ。
「──…っ、……ふう」
咳が出そうになるのを、ぐっとこらえる。
フードを深くかぶり直し、首をすくめてゆっくり息を吸い、吐く。
ここで咳き込めば冷気に刺激され、ますますむせるばかり。
できるだけ体力の消耗を防ぎ、前に進むことを考えなくてはいけない。
「ふう……、よし、いこっ」
ここは温もりなど何一つない、氷と雪に埋もれた土地、サシュラン。
未だ目的地はまだ見えないことに小さくため息をつくと、姫竜はゆっくりと一歩、足を踏み出した。