その5、持山
「いねぇな……」
突如現れたモンスターに襲撃を許したのは、迂闊だったと言うほかない。
しっかり周囲を警戒はしていたはずし、白一面だった視界に変化はなかった。
ただ、横からの風がわずかに和らいだかと思った次の瞬間、重い荷物を背負っているにもかかわらず衝撃と共に吹き飛ばされた。
なんとか受身を取ったおかげでダメージは少ないものの、相当な距離を吹き飛ばされたこともあり、決して楽観できる状況ではない。
───肉体的にも、精神的にも。
「姫竜、……無事でいてくれ──」
恋しい娘の名を呼び、後半は祈るように、絞る様に吐き出す彼の名は持山。
彼は火に属する魔力を持っているが、基本的にはその身軽さを鎧に、素手に近い武器で戦う。
敵の襲撃とすさまじい吹雪に襲われ、すぐ側の仲間を守ろうと剣を取った彼女を思い、ぐっと目をつぶる。
持山が吹き飛ばされたのは、姫竜の足元がふらついたのを見て、支えようとしたその時だった。
「姫竜……」
彼女も同じように吹き飛ばされたのだろうか。
だとしたら立ち位置からしても、自分と同じ方角に転がったはずだ。
衝撃はすさまじかったが、そのせいで意識を失っていたという記憶はない。
すぐに身体を起こしたのだから、人が一人雪に埋もれるほどの時間はたっていないはずだ。
それにもかかわらず、元居た場所の方を見るも、人の陰はおろかモンスターの姿すらなかった。
「くっ……」
冷え切った手のひらをぐっと握って、彼女の感触を思い出そうとする──が、指先の感覚が既に殆どない。
彼女が体調を崩していたことが、ひどく気になる。
最後に見た彼女の顔色は悪く、肩で息をしながらふらついていたことを思うと、胸が締め付けられる思いがする。
「目的地についていさえすれば……」
──そう、目的についていさえすれば、誰かがいるはずだ。
仲間の誰もがまだついていなかったとしても、宿屋で休むことができる。
そのための金も、幸い、ある。
雪原で倒れ、埋もれてさえいなければ、何も心配することはない。
「そうだ、これだけ見回って誰もいないなら、皆目的地を目指してるはずだ」
なんとか雪を漕ぎ、急いで元の場所に戻ったときには、誰もいなかった。
襲い掛かってきたはずのモンスターの姿もなければ、荷物のひとつも落ちていない。
声を張り上げて叫ぶも、誰からの返事もなかった。
「……よし、ならば俺も──行くか」
この周囲に誰もいないのは、確かだ。
それならば、皆取り決め通り、それぞれ目的地に向かっているはずだ。
念のためにもう一度仲間の名を呼び、周囲を見回す。
それに対し、何の反応もないことを確認すると、小さく頷き、歩き出した。