その4、遊希
「うう、もう寒いしいやだ……」
ずっと振り払えずにいる眠気がますます強くなり、大きく首を振るのは遊希だ。
寒さのせいで強張った頬を軽く叩き、何事か呪文を唱えると彼の周りだけわずかに吹雪が和らぐ。
「さっきの、何だったんだろう」
小一時間ほど前、吹雪でかき消されかけてはいたが、誰かの足跡らしいものを見つけた。
その主が人間である事を祈る。
さらに欲を言うのならば、しっかりと装備を整えた善良な熟練冒険者集団で、親切にも自分をソリなどに乗せて目的地まで連れて行ってくれることを。
──が、この猛吹雪の中好き好んで旅をするような人が自分たち以外にいるとは思えない。
「いやだなぁ、僕、体力ないんだよな……」
呟いて、仲間の顔を思い出す。
砂流のように力強い筋肉があるわけでもなく、姫竜や牧義のように剣が得意なわけでもない。
いくら軽いとはいえ金属の剣である以上、自分が持っている杖より重いのは確か。
習いたいと言えば快く教えてくれるだろうが、そんな疲れることはしたくない。
とはいえ持山のようにほぼ素手に近い状態で戦うなんてもってのほかだ。
至近距離で戦わなくてはいけないということは、一撃必殺、あるいは防御の術も備えておかなくてはいけない。
「……って、竜香あたりも敵と遭遇したらまずいんじゃ?」
彼女は回復はできるが、直接攻撃になるような魔法はほとんど持っていないはずだ。
目的のものにまず当たらない弓矢は、荷物になるからと砂流の荷物に括り付けてあったのを見た覚えがある。
びゅうう、と吹いてきた吹雪に背中を押され、首をすくめる。
どうやら魔法の効果が切れたのだろう。
ふう、とため息をつくともう一度唱えようとして──やめる。
軽い魔法だとは言え、目的地までどのくらいかかるのかわからない今、むやみやたらと消耗してしまうのは避けるべきだろう。
「いっそ、目的地まで一気にいける魔法とか、ないかなぁ……」
これだけ激しく風が吹いているのなら、その力に便乗するのはそう難しいことではなさそうだ。
……とはいえ、風が吹く方向が目的地方面とは限らない。
ただでさえ白一面の雪景色。
風に身を任せて勢いをつけて飛んだはいいものの、見当違いの方向にひとっとび、という可能性も十二分にある。
「はぁ……やっぱり歩くしかないよなぁ。さっきの足跡が敵じゃないといいんだけど」
雪の中を歩くだけで大変な肉体労働なのにこの上敵とかどうしようもないじゃん、なんて口に出してみるが、吹雪にかき消される。
再びはぁ、とため息をつく──が、それも吹雪にかき消された。