その3、砂流
「くぅぅぅぅぅぅぅ……せめてアメでももっていたらっ……」
盛大にため息をつく彼の名は砂流。
はちきれんばかりの筋肉は分厚い鎧に隠されていても尚、その体格の良さが際立つ。
その背に背負った巨大な剣が表す通り、砂流は小柄な人間一人分はあろうかという重さの剣を振るって敵をなぎ倒す、大剣士である。
「あったかいスープ……肉と野菜がたっぷり入ったやつ……」
はぁ、とまたため息をつくが、そうしたところで事態が変わるわけもなく。
剣士の魂である剣を背中に背負って風雪避けにしてはいるせいか、この寒さで大剣が凍り付いたのか、とにかく寒いを通り越して痛い。
あまりの空腹に耐えられず、吹雪にむかって口を開けなんとか腹を満たそうと試みたが、ただただ冷えるばかり。
顔面をひたすら氷雪に強打され、口に入った分を咀嚼して飲み込むも、体が冷えてさらに飢えがひどくなった。
「しかし、よく生きてたもんだよなぁ……」
襲撃を受けて反撃をしようとするも、向かい風の吹雪で鈍った剣筋をあざ笑うようにあっさりとかわされ、くらった一撃に追い風。
「俺とか結構重いはずなんだけど、あんなに簡単に転がるなんて思わなかったぞ」
大剣の面と、広がったマントが吹雪を受け、ものすごい勢いで雪原を転がり飛んだ。
なんとか元の場所に戻った時には、仲間の姿も、敵の姿も、荷物すらも、なかった。
「皆はぐれたのか……それとも、俺、もしかして存在を忘れられてる……?」
正直に言えば、元の場所に戻ったつもりでも、自信はない。
なんせ辺り一面真っ白の雪原で、追い風で散々転がされた。
「足跡……も消えるよな、そりゃ」
目を開けているのも辛い、激しい吹雪。
一人、目的地を目指し歩いているが──
「いや……うん、そこ考えると怖いからやめておこう。自分を信じるって大事だからな。よし……俺は間違ってない!」
目的地に着いたら、仲間が待っている。
そう自分に言い聞かせ、大きく一歩踏み出した。