第9話 砂漠の蟻の王と女王
アイアンアントの王に寄生していた魔物は、砂で握りつぶした。これで彼も正気を取り戻すはずだ。
今、王はイシスの魔法で治療を受けていた。慎重にやったから脳にダメージは残っていないだろうけど寄生されている間に大分体力も消耗しているだろうし、僕の砂鉄人形を相手して全く無事だったわけでもない。
アイアンアントの強さはかなりのものだったから手加減する余裕もなかったしね。だからこそイシスがいてくれてよかったと思う。
「う、うん? ここは?」
「良かった。気がついたのですね」
「む、に、人間だと!」
「キャッ!」
アイアンアントの王が飛び上がり、距離を一旦とって身構えた。槍は念の為奪っておいたけど、かなり警戒している。
「おやめなさいアイアンアントの王!」
「む、お前は、ハニーアントの女王? 何故ここに?」
「え~とそれは――」
とにかくこのまま誤解されたままというわけにもいかないから、僕や女王からこれまでの経緯を説明した。
「そうだったのか……まさか頭を魔物に支配されていたとは」
僕たちの説明を受けて、アイアンアントの王がうつむき加減に答えた。話は信じてもらえたようだ。彼自身ここ最近の記憶がないようで、それで受け入れてくれたわけだ。
「不覚! この我がそのような魔物に後れを取るとは!」
近くの壁を叩きつけ、随分と悔しがっている。王として不甲斐ないと思っているのかも知れない。
「仕方ないですよ。寄生していた魔物は気配を消すのも上手で、僕も砂感知で調べていなければ気づけなかったでしょうし」
「――そうか。しかし世話をかけてしまった。まさか人に助けてもらえるとは思わなかったが、本当に感謝する」
アイアンアントの王が深々と頭を下げてきた。ハニーアントの女王が言っていたけど、確かに話のわからない蟻ではないようだ。
「そなたも魔法で治療してくれたそうだな。本当にありがとう」
アイアンアントの王はイシスににもお礼を言ってくれた。
「ンゴッンゴッ」
そして何故かラクが気にするな、みたいな空気を出している。だけどなんとも憎めない。
「それにしても、これだけの真似をしてしまい、女王には何かお詫びを、そしてそなたには救ってもらった礼をせねばならないな」
「いえ、そんな気にしないでいいですよ」
「そうはいかん! アイアンアントの王として、恩義に報いねば!」
「それは私も同じ気持ちです。是非とも礼を尽くさせてください」
どうやら蟻はアイアンアントにしろハニーアントにしろ、かなり律儀な性格なようだね。
「それなら、あ、そうだ! よかったら砂鉄を少し分けてもらうことは出来ますか? 女王様には前も言ったけど蜜を分けてもらえると嬉しい」
「何? 砂鉄をか? そんなものでいいのか?」
そんなものと王は言うけど僕にとっては重要だ。やっぱり鉄があると違うし。
「ホルスは城を一つ所持していて、その強化に砂鉄が必要なんです」
するとイシスが王に答えてくれる。うん、まさにそれだよ。それに他にも鉄は色々と役に立つ可能性が高い。
「何と城を! そなたは人の王であったか」
「いや、王と言うほどではないのだけど……」
「私の世話をしてくれている蟻から聞きましたが凄く立派な城を所有しオアシスまで所持しているそうなんですよ」
「何とオアシス! そ、それは真か!」
するとアイアンアントの王が随分と喰い付いてきた。
「え、えぇありますけど、それがどうかされましたか?」
「そ、それならば、是非水を分けてはもらえぬか? その助けて頂いておいて誠にもうしわけないのだが……」
「え? 水?」
どうやら随分と切羽詰まっているようだね。
「そういえば、アイアンアントはわれわれよりも更に水が大事とされる蟻です。けれど、この辺りは小さいながらも川が通っていたのでは?」
「へぇ砂漠にも川が通るんだね」
「条件次第では……ただ量は多くないのです」
そうなんだね。ただ、アイアンアントの王はどこか心苦しそうだ。
「その川も最近枯れてしまい、我々も水を求めて探索したりしていたのだ。思えば我の記憶が途切れたのも水を探し求めた辺りからであった」
そうか。その間に寄生魔物にとりつかれたんだね。
「しかし、王自ら出て水を探したりするのですね」
「当然である。水がなければ兵が死ぬ。そのような大事なものだからこそ、我が自ら探さねば示しがつかぬ」
そうか。仲間思いの良い王様なんだね。
「それでどうだろうか? 勿論水を分けてもらえるならここの砂鉄を全て譲ってもいい!」
「えぇ! いやいやそこまでは別にいいですし、水も好きに持っていってください」
「な、何! いいのか!?」
「勿論ですよ」
オアシスの水には余裕があるからね。困ってる彼らを放ってはおけないし。
「恩に着る! 本当にありがとう!」
「あはは、あ、それなら、良かったら今から城まで来ますか? オアシスを見てもらって判断頂ければ」
「何といいのか!」
「えぇ、あ、勿論体調面で厳しければ後日でも」
「いや、ならば今行こう! すぐにでもいこう!」
アイアンアントの王が行きたがりハニーアントの女王も着いてきてくれるようなので、僕はまた皆で砂の波に乗って移動した。
「おお! こ、これはまたすごいな」
「慣れると快適ですね」
アイアンアントの王はびっくりしていたけど、やっぱり砂の波に乗って移動すると早いんだよね。
そして僕たちは無事城にたどり着いた。
「何と砂でできた城であったか。しかも屈強そうな兵までこんなに!」
「まぁ兵と言っても僕が作成した砂の人形ですし、この城も魔法で作ったものです」
「いや、これだけの兵と城を魔法で作成したのが凄いと思うのだが……」
え? そうなの? どうも国では砂魔法なんて使い物にならないって馬鹿にされ続けたから実感がわかないんだよね。
そして僕はオアシスに蟻の王を連れて行った。
「み、水だ! しかもこんなに沢山! ほ、本当にいいのか?」
「はい。どうぞお好きなだけ」
「な、なんということだ――」
アイアンアントの王は僕を振り返り、そして深々とまた頭を下げて感謝してくれた。こう何度も頭を下げられるとかえって申し訳ない気がする。
「水一つでそこまで頭を下げなくても……」
「とんでもない。我は人という連中はもっと強欲で傲慢な生き物だと思っていた。考えを改めなければな」
感慨深そうにオアシスを眺めながらアイアンアントの王が言った。
「う~んでもこんなに喜んでくれたなら悪い気はしないよね」
「はい。それにホルスは立派だと私は思います。いくら困ってるからと言っても、やはりそうそう貴重な水は渡せるものではありません」
イシスがそう言って微笑んでくれた。そう、なのかな? だけど僕としては余裕があるからそう思えているだけなのかも知れない。
「は! ホルス様! もしやあれはナツメヤシでは!」
すると今度はハニーアントの王女が興奮気味に指をさした。
「ナツメヤシが好きなの?」
「はい! 私達は果物にも目がなくて。食べた果実でもまた蜜の味に変化が生まれたりするんです」
なるほど。聞くにどうやらナツメヤシなどを摂ることでより美味しい蜜が作れるんだとか。
「なら、あれも持っていっていいよ」
「いいのですか!?」
「うん。その代わりこっちも蜜を貰うし美味しくなるなら嬉しいしね」
「あ、ありがとうございます」
ハニーアントの女王にも随分と感謝されてしまった。
「――決めたぞ!」
「え? 決めた?」
突然アイアンアントの王が声を張り上げ拳を握りしめた。決めたって何をかな?
「ホルス王よ。どうか我をそなたの配下に加えて貰いたい」
「え? ええぇえええええええ!」
「そ、それでしたら私も、どうかお願い致します!」
「女王様まで!」
ま、まいっちゃったなぁ。急な申し出でどうしていいかわかんないよ――
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