第68話 皇帝と将軍
新章開幕です!
「えぇい! モルジアはまだ見つからんのか!」
玉座の上に座る男が一人憤っていた。マグレフ帝国が皇帝シャフリヤル・マグレス、追放したホルスとそしてその妹であるモルジアの父である。
もっともその二人ともに今この帝国にはいない。
ホルスに関しては皇帝や兄弟の手によって追放されたが、モルジアに関しては自ら城を抜け出しそして帝国からも出ていきホルスの下へ向かった。
だが、皇帝はそのことを、モルジアが一体どこに逃げたかまでは知らない。
「貴方、やっぱりあの子。あの屑の後を追ったのでは?」
眉を顰め皇后が自分の考えを述べた。だが皇帝は納得が言っていない様子である。
「馬鹿な! 確かにあの砂などという碌でもない属性持ちの落ちこぼれに唯一構っていたのはモルジアだが……」
ふと、皇帝は思い出す。最後にモルジアがこの謁見室に来たのは、追放した虫けらごときの為に抗議をする為だったということを。
そしてそれを最後に城からモルジアが消えたこともだ。
「だが解せん。空間魔法で逃げられないように対策は取っておいた筈だと言うのに……」
モルジアが消えたことは皇帝にとって頭の痛い問題でもあった。所詮は戦闘には役に立たない力などと下に見ていたがいなくなって初めて気がつくこともある。
「陛下、ワズイル将軍が参られましたが……」
「くっ、奴か。わかった通すがよい」
知らせに来た兵にそう告げるとまもなくして謁見室に鎧姿の大柄な騎士が入ってきた。
「陛下失礼致します!」
「あぁ、ご苦労。それでアズベルで発生した暴徒の件はどうなったかな?」
「ハッ! 我が帝国騎士団第五師団が解決に乗り出しております。間もなく鎮圧されることでしょう」
「そうか。ご苦労だったな。そなたの働きぶりには助けられておる。これからも余のため引いては帝国の安定のため尽力して欲しい」
「ハッ! それは勿論のこと。我が生涯は帝国のために捧げると誓っております」
「それは良い心掛けであるのう」
皇帝とその后が深く頷いた。するとワズイルが顔を上げ、時にと前置きした後。
「我が将来の妻となるモルジア皇女の行方はどうなっておりますかな?」
皇帝がギクッとした顔を見せる。顎を擦り、ふむ、と取り繕ったような顔を見せ。
「勿論、現在全力で捜索を続けさせておる」
「左様でございましたか。余計なことを申し上げてしまいましたな。本来なら私自らが解決に乗り出したいところでしたが、これからダンジョンの問題にも取り掛かるところ」
「そうであったな……」
「それについても我が妻となるモルジア皇女がいてくれたら心強かったのですがな」
ワズイルの言葉に、くっ、と短く皇帝が呻いた。飛ぶ鳥を落とす勢いだったマグレフ帝国も現在は問題が山積みだ。その最たるものはダンジョン問題である。
ダンジョンは罠が張り巡らされ魔物や魔獣が跋扈する危険な場所だ。だが同時にダンジョン内では定期的にお宝が出現し、豊富な資源が生まれることもある。
そういう意味で神からの恵みと形容されることもあるが――世の中そうそう甘い話などない。
当然ダンジョンにもそれ相応のリスクがある。確かにダンジョンは宝や資源を生み出すが何の対価も得ずに無尽蔵に生み出しているいるのではない。
ダンジョンが生まれると時間が経つごとに周囲を侵食していくのだ。養分を吸い上げ魔力を吸収し精霊の命を奪い、そうやって徐々に巨大化していく。
だからこそダンジョンは本来定期的な間引きが不可欠だ。しかしマグレフ帝国はそれを怠ってきた。
いや、それどころか自分たちであればダンジョンの活動をコントロール出来ると思い込み、間引くどころかより資源を生み出すよう活性化させようとした。その方法はとてもおぞましいものでもあり、戦争で勝利した後、その国の民をダンジョンに生贄として放り込んだりなども容赦なくやってきた。
確かにダンジョンの欲求はダンジョン内で人が死ぬことでも満たされる。だが、そんな方法が長続きするわけもない。
現在帝国では各地で肥大化したダンジョンの影響にも脅かされていた。肥大化したダンジョン内では魔物や魔獣の動きが活性化しダンジョンの外に出てくることもある。大量の魔物や魔獣が出てきて周辺の村や町を襲うスタンピードも頻繁に起こるようになってきた。
こういったダンジョンによる弊害はダンジョン災害と呼ばれダンジョンそのものも災害級と称される。帝国では目下この問題の解決に頭を悩ませている。
肥大化したダンジョンは内部構造が複雑化しており、更に階層も増える。ダンジョンを崩壊させるには最下層の核を破壊しなければならないが、災害級ダンジョンの攻略は一筋縄では行かない。
ダンジョン攻略と言えば基本は冒険者の仕事として扱われる。そして当然冒険者もかなりの数が投入されているがあまりに巨大化したダンジョンに冒険者ギルドも頭を抱え国に頼らざるを得ないという状況なのである。
モルジアの意味はこの攻略にある。ここまで巨大化すると攻略には長い時間を要する。攻略までに一ヶ月で済めば良い方で下手したら半年、一年と掛かる可能性もありえる。
ダンジョンに潜ってしばらく戻れないとなれば補給は非常に重要だ。だがダンジョンは一度に多くの人間が入れるような構造ではない。故に大量の物資を持ち込めるモルジアの存在は大きかった。
しかしそのモルジアが今はいない。ただでさえ空間属性は希少だ。ましてやモルジアほどに空間内に保存できる逸材はそうはいない。
「とにかく、我が将来の妻の安否が気がかりでこのままでは私の仕事にも影響が出かねません。何卒」
「あ、あぁわかっている。全力で捜索を続けるとしよう」
「陛下にそう言って貰えるなら心強い。勿論、その際に我が力が必要な時にはなんなりとお申し付けください」
「うむ。勿論である。だが、今は目の前の問題を解決することに集中してくれ」
「勿論でございます。ダンジョンの攻略など我が部隊があっというまにこなしてみせましょうぞ」
「これはなんとも頼もしい返事。そなたには期待してますよ」
「ハッ! なんとも勿体ないお言葉! ではその期待に添えるべく早速仕事に取り掛かるとしましょう」
そしてワズイル将軍が部屋を後にした。皇帝がふぅ、と一息つく。
とは言えこれは所詮一時しのぎに過ぎない。だがこのまま何もしなければワズイルも納得しないだろう。ワズイルは帝国内でもメキメキと力をつけてきており軽視できる相手でもない。
「とにかく生きているか死んでいるかだけでもはっきりさせねば――」
そう呟き皇帝は拳を強く握りしめるのだった――
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