第63話 砂漠で試されるトヌーラ
今回ちょっといつもより長いです。
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!
また感想にて砂感知をトヌーラにかけては?というコメントを頂きましたが、トヌーラは首輪の術式を知らないのです(^^ゞ
それではこれからも感想やレビューをどしどしお待ちしてます!
洞窟から帰還の玉で逃げ出したトヌーラであったが、その途中でスフィンクスのフィーが立ち塞がった。
にも関わらず――トヌーラは下卑た笑みを浮かべ喜び勇んでフィーに近づいていく。
「よくぞ来た! この私の女になることを決めたのだな!」
「……何を言うておるのだこの豚は」
両手を広げ近づいてくるトヌーラを塵でも見るかのような目で確認し、ため息交じりに罵倒する。
だがそこまで言われてもトヌーラの喜色満面な顔は変わらなかった。
「照れおってうい奴め」
「全くこれから自分がどうなるかも知らず、幸せな奴よのう」
にたにたと笑いながら、フィーを上から下まで舐めるように見てくるトヌーラ。
フィーでなければ身の毛もよだつような行為であろう。
「それで一体私に何をしてくれるというのか?」
「決まっておる。ここで妾が粛清してくれよう」
「は?」
フィーが指の爪をのジャキッと伸ばし、そう宣言した。温度の感じられない冷たい瞳で。
「な、なな! 何を馬鹿な! 何故この私が始末されなければいけないのだ!」
思わず腕を押さえトヌーラが叫んだ。フィーに腕を切られたときのことを思い出したのかも知れない。
「決まっておる。妾の大事な人、後の王たる主に手を出したのだ。貴様はただでさえ妾の警告を無視した。万死に値するのう」
カチャカチャと爪を鳴らしながら近づいてくるフィーに、悲鳴にも似た声を上げトヌーラが後退る。
「ま、待て待て! ならば間違いだ。あんな餓鬼が王だと? よく見てみろ! あんな帝国を追放された虫けらよりも、私の方が王たる器に相応しいではないか! 考え直すのだ! この私につけ! そうすれば私が幾らでも可愛がってやろう!」
「可愛がる?」
フィーが眉をひそめるが、それに気がついていないのか、そして興味を持ったと勘違いしたのかトヌーラは更に見当違いな講釈を垂れ始めた。
「その通り! 私の女になるのだフィー! それで全て上手くいく! 考えても見ろ? 私はあんな小僧よりも優れた物を持っている! 顔も、性格も、金も、権力も! その全てが遥かに勝っているのだ! この私ならあの資源をもっと有効活用できる! この砂漠をあっという間に開発し、エルドラドは勿論マグレフ帝国さえも凌駕する国にしてみせようぞ!」
トヌーラがとくとくと語る様子をキョトン顔で見やり、そしてフィーが口元に手を添え嘲笑した。
「ははははははっ、笑わせてくれおる。お前のような豚が妾が選んだ王より優れているだと?」
「な、何がそんなにおかしい!」
フィーに笑われ、トヌーラの表情が変わり不機嫌そうに語気を強めた。
それを認めたフィーもまた表情が変わり、この愚か者が! と一蹴する。
「貴様のような欲に塗れた豚と妾が認めた主とを比べること事態が烏滸がましいのだ。身の程を知れ!」
「ぐぎぎっ! 言わせておけば! 貴様など所詮は見目がいいだけのビッチな女だろうが! それなのに何を偉そうに!」
「ほう?」
自分の思い通りにならないと知った途端、態度を変え相手を罵る。まさに程度が知れるというものだ。
そしてフィーは愚か者に分を弁えさせようと思ったのか、元の姿を晒した。
「は? ひ、ひいいいぃいぃいいぃいいいい!」
「このスフィンクスに向けて、よくぞ言えたものだな。頭が高いぞ豚」
「あ、あぁああ、へ、へへへへへぇええええええ!」
そしてトヌーラはバランスを崩してゴロゴロと後ろに転がりながら器用に膝を折り五体投地の状態で頭を砂に擦り付けた。
「ま、まままままま、まさか本物の神獣様とつゆ知らず! 申し訳ございません!」
ひたすら平謝り状態のトヌーラである。しかし、スフィンクスと化したフィーは冷たい声音で断言した。
「許されぬのう。お前はやりすぎた。生かしておいてもろくなことにならんであろう」
「そ、そんな、な、何故なのだ! お前のような神獣が、何故あんな砂属性などという碌でもない属性持ちを! どうせなら私を選んでくれたほうがずっと役に立ちますぞ!」
「頭が高いぞ愚か者が」
「なっ!」
フィーがそう声にするだけでトヌーラの頭が自然と下がり砂に埋めた。神獣の言葉にはある種の強制力が乗る。トヌーラ如きがその圧力に抗えるわけがなかった。
「さて、妾はお前をこのまま処刑するつもりだがのう」
「ヒッ! そ、そんな……」
「だが、一度だけチャンスをやろう」
「え?」
自らが死ぬという事実を受け入れられない様子のトヌーラだが、フィーのその温情とも捉えられそうな言葉に喜び勇んで顔を上げた。
「わかっていただけたのだな! この私の優秀さが!」
「違うわ愚か者め。これは余興のようなものぞ。これから妾がお前に一つ問題を出す。それに答えられたならばお前を逃してやろうどこへなりとも消えるが良い」
「ほ、本当ですか!」
「妾は神獣ぞ。己の言葉には責任を持つ。嘘や誤魔化しなどせぬ」
その言葉に、トヌーラが拳を握りしめた。こうみえてトヌーラは頭脳には自信があるほうだ。
「ならば答えてみせよう! その問題とやらを!」
「ふむ、ならば出すぞ。よく聞くが良い」
そしてトヌーラに向けてフィーが問題を出す。
『それはとても残忍だ。人も生物も関係なく殺し、残虐の限りを尽くす。
しかしそれはとても優しく慈愛に溢れてもいる。困っている者に手を差し伸べ時には自分の身を切り刻んででも弱者を助ける。
しかしそれはとても強欲だ。金と物に執着し時には奪ってでも手に入れそれでもまだ満足しない。
しかし同時にそれは慈しみにあふれてもいる。自分を顧みず分け与え例えそれで己が苦しくても一切文句は言わない。
それはとても勇敢だ。遥かに自分よりも強大な相手であっても命を顧みず挑み戦う。
しかしそれはとても臆病だ。遙か先の未来の死にまで不安を覚え、永遠さえも望む――さぁ、それは何か?』
そしてトヌーラに向けて問題が出された。暫しの沈黙。そしてトヌーラがニヤリと口角を吊り上げた。
「わかったぞ!」
「ほう? ならば答えて見るが良い」
随分と早かったなと意外そうな顔を見せつつ、フィーはトヌーラの回答を待った。
「その答えは、悪魔だ間違いなかろう!」
そして自信満々に答えるトヌーラ。それにフィーはふむ、と顎を擦り。
「なるほどのう。それも間違いではないかも知れんのう」
「ほ、本当か! や、やった! 私はスフィンクスに勝ったのだ!」
フィーの答えに立ち上がり両腕を振り上げ喜ぶトヌーラ。だがフィーは頭を振り。
「勘違いするな愚か者。貴様の答えは間違いだ。予定通り処刑であるぞ」
「な、なな、なんだってぇえええええ!」
トヌーラが仰天する。わなわなと肩を揺れさせ、そしてキッとフィーを睨んだ。
「ふ、ふざけるな! 正解のようなことを言ったであろう!」
「誰がそのようなことを言うたというのか痴れ者め。自分勝手な解釈をするでない」
フィーがピシッといい切った。
「な、ならば正解は何だというのだ!」
「ふむ、それは人間であるぞ」
フィーが答えると、トヌーラが唖然とした顔を見せる。
「ふ、ふざけるな! 何だその答えはありえんぞ! この私を見てみろ! 慈愛だ何だという部分は認めてやるがそれ以外は全く異なる! 不正解だそんなもの!」
「ふむ、やはり認めぬか。そのような貴様が王の器などとちゃんちゃらおかしいであるぞ。さぁ覚悟を決めるが良い」
「い、嫌だ! 私はここで死ぬような人間ではないのだ!」
ひぃひぃと背中を見せて這うように逃げようとするその姿に、フィーがため息を吐く。
「見苦しい。この豚が」
そしてフィーが一歩一歩その距離を詰めようとするが、その時トヌーラの逃げる先の砂が盛り上がり、中から黒い触手が伸びて先端の針でトヌーラの首を刺した。
「痛ッ! な、なんだこれは!」
「ほう。デスストーカーか」
刺された箇所を手で押さえ、狼狽するトヌーラ。一方フィーはそれが何か知ってるようだ。
「なるほどこれは良い。これはこれで面白そうであるな。良かろう妾が直接手を出すのはやめようぞ」
「な、何本当か! 痛ッ」
フィーの言葉に喜ぶトヌーラだが、直後痛みを訴えた。息も苦しそうである。
「約束は守ろう。妾は手は出さぬ。だが、喜ぶのは早いであるぞ。デスストーカーの毒を喰らったのだからのう」
「ど、毒だと?」
「そうであるぞ。デスストーカーの毒は徐々にお前の体を蝕んでいく。すぐにこそ死なぬがその分苦しみはより長く続くのだ」
「そ、そんな……」
「ふむ、毒が完全に回るのはこれからであれば日が昇る頃といったところか」
わなわなと震えるトヌーラを前にしながら、フィーが空を見上げ言った。
「た、助けてくれお願いだぁああ」
「馬鹿を言うでない。だが、そうであるな、運が良ければこの砂漠にごく稀に咲く解毒の花が見つかるかもしれぬぞ。砂粒の中で砂金を一粒見つけるぐらいの低い確率であろうがな」
「く、ぐぅうぅう!」
そこまでフィーが語った頃には既にトヌーラの息は上がり苦悶の表情を浮かべていた。
「ふむ、ま、精々頑張ることだな。ではさらばであるぞ」
「ま、待て――」
しかしトヌーラの言葉には耳も貸さずフィーは消え失せた。
「く、くそ! 何だって私がこんな目に! この私を誰だと思っている! ぐぅぅう!」
そして砂漠を延々と歩き続ける。毒の影響で全身に痛みが襲い、耐え難い苦痛に苛みつつ砂漠を歩いた。
「はぁ、はぁ、こ、これも違う」
トヌーラは砂漠に咲く植物を見つけては隠し持っていた鑑定レンズで植物の情報を調べていた。
この世界の情報が記録されているとされるアカシアの記憶にアクセスし情報を得るとされる魔導具だ。とはいっても全ての情報まで知れる物ではなく、この眼鏡もある程度わかる情報は限定されるが植物の情報ぐらいならわかる。
そう、これがあれば自分に知識がなくても植物の種類がわかる。今のトヌーラにとって必要不可欠な魔導具だ。
そして、砂漠を歩き続け、植物を見て回り、もうすぐ太陽が昇るであろうギリギリの時にトヌーラはついにそれを見つけた。
・カートスボウシソウ
主にデスストーカーの毒に対して特効があるとされる魔草。ストレスに非常に弱く慎重に扱わなければその効果はすぐに消えてしまう。踏んだりするなど論外。
「あ、あぁ、あああ。あぁああぁあああぁあああぁあああぁあああああ!」
そして絶望した。砂漠の中から一粒の砂金を見つける程に探すのが困難とされる魔草。それをようやくみつけた、そうみつけたはずだった。
しかし、その花は潰れていた。足跡が残っていた。何者かに踏み潰された跡だった。
そしてその犯人はトヌーラ本人だった。あの洞窟に向かう途中で、ジャックが見つけた花。しかしトヌーラは無慈悲にそれを踏み潰した。何の価値もない花だと小馬鹿にし、ぐりぐりと踏み潰した。
それがこの花だった。そしてそれは今トヌーラが何をおいても欲しい花であった。金をいくら積んででも手に入れたい。宝石や水なんかよりもずっと価値のある、喉から手が出るほど欲しい花。
だが、それももう手に入らない。他ならぬトヌーラ自身がやったことだ。後悔先に立たず。結局トヌーラは自らの行いが周り巡って自分に返ってきただけであった。
「そんな馬鹿な、そんな馬鹿な、そんな馬鹿な、ガハッ――」
そして無残な花を見つけたショックからか、毒が回ったからか、とにかくトヌーラがその場に仰向けに倒れた。息も荒い。もう動けそうにない。
そして陽の光が差し込んできた頃になり、それが姿を見せた。全身真っ黒の異形。デスストーカーだった。
「な、何だ貴様はやめろ、く、くるな……」
デスストーカーが徐々に近づいてくる。そして真っ黒い顔と思われる部分の一部が開いた。にちゃぁあという気持ちの悪い笑みを浮かべる。それが口だとすぐにわかった。大量の歯が見えた。口にした食べ物をゴリゴリとすり潰すためにあるようなそんな歯牙だった。
そしてトヌーラは察した。
「お、お前、私を、く、食う気なのか?」
答えもなく近づいてくる異形。フィーは敢えていわなかったが、デスストーカーという魔物は獲物に毒を与え、毒が回りきるまでストーキングし様子を見る魔物だった。そしてこの魔物の奇妙な気配は他の魔物に忌避感を与える。だからこそトヌーラはこれまで他の魔物に襲われることがなかった。
デスストーカーは周到な魔物だ。毒が回りきるまで決して姿を見せない。そして毒が回ったのを見計らって獲物を喰らいにかかる。
デスストーカーは生きている獲物が好きだ。そしてこの毒が回りきると獲物は死ににくくなる。痛みは残るが死ににくくなる。
こうして毒が回った獲物を生きたまま食べ続けるのがこの魔物のやり方だった。
「や、やめろ。そ、そうだ金貨だ、どうだ? これをやろう。ほれ、どうだ? 凄いだろう?」
――バクンッ
「ひ、ぎゃぁあああぁあああ! 指がぁああぁ!」
しかし差し出した金貨ごと指を食われた。そしてもぐもぐと咀嚼しデスストーカーがペッと何かを吐き出した。金貨だった。
「ひ、い、ひぃ、ならそうだ、お前を私が飼ってやろう。どうだ? 私に飼われればお前の餌も私が用意してやる。活きが良い奴隷をたらふく食わせてやろう。どうだ悪い話じゃ、い、ぎゃあああぁああぁああ!」
デスストーカーは聞く耳を持たない。トヌーラの脚に食らいつき膝を食いそして股に腹と食らいついていく。
「や、やめろぉおおお! なぜわからぬのだぁああ! 私を今殺すより私に飼われた方が多くの餌にありつけるのだぞ、あ、ぎぃいぃいいいい!」
無駄なことだった。死の砂漠という過酷な環境で生きる魔物は餌の確保も命がけだ。そんな魔物が目の前に転がっている餌を見逃すわけがない。
トヌーラがいくら金を持っていようが権力があろうが関係ない。トヌーラはデスストーカーにとっては空腹を満たすための餌でしか無いのだから。
こうして、トヌーラはこの死の砂漠で永遠とも思える苦痛を味わいながら生きたまま食われ続け人知れず死んでいくのだった――
トヌーラの最期……
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