第39話 砂漠に侵入する者
第三章のスタートです。
「全く無茶をいいやがるぜ……」
一人の男が夜の砂漠を進んでいた。日が落ちると砂漠は一気に温度が下がり冷え込みが厳しくなる。なので本来なら夜の移動は避けたいところだが、しかし男には夜も移動を続けなければいけない事情があった。
男はトヌーラ商会の商会長に命じられ砂漠の調査に来ていた。本来は死の砂漠と呼ばれているようなこんな地に来たくなどなかったが、商業ギルドは勿論元老院の議員の一人であるトヌーラに命じられれば拒否するわけにもいかなかった。
トヌーラ商会は砂漠の南に存在するエルドラド共和国内では規模も大きく発言力も強い。西のマグレフ帝国との貿易でも成果を上げていた。
ただ、その性格には問題も多かった。人を人とも思わないような行動も目立ち、商会が大きくなった背景には自分にとって邪魔なライバル商会を強引な手法や裏ギルドを通して雇った暗殺者にトップを始末させたりなどして蹴落として来たという側面もある。
しかし、そのトヌーラ商会にも最近は少し陰りが見えてきたという噂も囁かれている。
理由は前のめりで取引していた西の帝国にあった。飛ぶ鳥を落とす勢いで侵略を続け、支配した西部全域から採掘できる数多の資源や数多く存在した迷宮から手に入れたお宝などを背景に資産も莫大に増やしていた西のマグレフ帝国。
だがここ数年は採掘量も減少気味と聞く。特に金の採掘量は相当な落ち込みだと聞いた。
そしてその煽りを受けているのがマグレフ派また帝国派と呼ばれる議員や商人たちのようであり……
「もしかしたらこんな残り滓を回収する為に様子を見てこいと命じたのも、それが原因にあるのか?」
ふと脳裏にそんな予感が過ぎった。男が命じられたのは砂漠のゴブリンに連れ去られた奴隷たちの確認だ。
トヌーラは一度はゴブリンに襲われ諦めた奴隷のことを捨ててはおけなかった。こう聞くと奴隷のことを思い助けようとしているかに思えるが、実際は僅かでも損が減るようにしたいというだけだ。
本来ならばゴブリンに連れ去られた奴隷はそのまま捨て去られることが多い。男については大体すぐ殺されて食われる上ゴブリンは他種族の女を苗床にして数を増やす。
故に奴隷の女はほぼ間違いなくそのような目に会うし、例え無事だったとしてもゴブリンの慰み者になった奴隷を買いたいと思う相手は少ない。
ただ一部嗜虐的な貴族などが使い捨ての玩具として購入するぐらいだ。それでもだいぶ買い叩かれることとなる為金額的には期待できない。
ゴブリンに連れ去られたことを隠すというのも基本上手く行かない。ゴブリンの慰み者になると独特の匂いが肌に染み付き消えることがないからだ。
香水などでごまかしてもいずれはバレて評判を落とすだけなうえ、訴えられれば捕まるリスクもある。
結局ゴブリンの手に落ちた奴隷は安く売却する他ないということでもある。ただトヌーラであれば他の奴隷を売る為におまけとしてこれらの奴隷をつける可能性がある。そういう面では抜け目ない男だ。
にしても砂漠で連れ去られた奴隷を取り戻すというのはあまりに手間だ。それをやれということは、そこまでやらなければならない程に経営が落ち込んでいるという話か……
「ま、そんなことを考えていても仕方ないか。こっちも前金は貰っているんだ」
トヌーラの唯一良い点は金払いがいいことだ。むしろそれがなければいくら議員でも色々理由をつけて断るところだ。それに必要なところで金払いを渋るようではここまで権力を手にしていないだろう。袖の下なども使い分けたからこそマグレフ帝国の商人と渡り合えていると言える。
「ここだな――」
男はなんとかゴブリンが潜んでいるという岩山にたどり着いた。延々と一面砂だらけといった景色が続いていた為、こんな飾り気のないゴツゴツした岩山でも新鮮に見えてしまう。
男は隠蔽術に長けた男だった。魔力を利用しての技術は魔法とは違う形で知られている。男は魔力で気配を覆い隠すことで周囲の魔物や魔獣から見つかることなくここまでやってきた。
そうでなければ恐ろしい化け物が跋扈する危険な死の砂漠を乗り越えられるわけもない。
もっとも魔物や魔獣にあわないにしても水や糧食はしっかり確保して置く必要があり、経費はそれ相応に掛かる。
「全くここまでして取り戻す価値があるのかね――」
愚痴るように独りごちながら崖に出来た洞窟を見つけ潜り込む。本来ゴブリンは夜行性だが砂漠のゴブリンに関しては違うという。やはり気温の変化が著しいのが大きいのかも知れない。
この男にしても砂漠の昼間の暑さにも夜の冷え込みにも対応できる外套がなければとても耐えられはしない。
「……妙だな」
暫く洞窟を進み、男が違和感を覚えた。入り口から大分進んだが全くゴブリンと遭遇しないのだ。
洞窟に入ってしまえば眠っているゴブリンの一匹や二匹いてもおかしくはない。だが、まるで出くわすことがなく気配も感じられない。
そして広い空間に出た男だったが。
「な、何だこりゃ?」
ついそんな声が漏れる。空間内は砂で埋め尽くされていた。さっきまで普通のゴツゴツした足場の洞窟だったというのにここだけ明らかに様相がことなるのだ。
「まるで天から砂が降ってきたみたいじゃねぇか。ありえねぇだろうこんなの……」
天井は当然だが穴が空いているわけではない。もしかしてここだけ元から砂場だったのか? と思えるがそれにしては奇妙な気もした。
「ゴブリンもいないが、とにかく先に進むか」
独りごちつつ、男は奥を目指す。すると酷い匂いのする場所にたどり着いた。明らかにそういうことが行われていた場所と思われる。
ただ、何もなかった。いや妙な点はあった。おそらくゴブリンが拵えたであろう簡素な牢屋があったのだが、格子が切られていたのである。
そして中には何もなかった。そもそもここには死体一つ見当たらない。捕らえられた筈の奴隷の姿もなかった。
「まさか、誰かが逆にゴブリンから奪っていったのか?」
呟き、男は考察する。ゴブリンが全くいない上、牢が解放されていたとあればそう考えるのも筋だろう。
もっともそこで助けられたと考えず奪われたと考えるあたりこの男もかなり歪んだ思考の持ち主と言えるが。
しかしこれが多くの人間の常識であった。奴隷など物と同じ。物を命をかけて助けるものなどいるわけもなく、わざわざ連れ去るのはそれなりの理由があるからだと考える。
「どちらにしても、ゴブリン相手にこれだけのことが出来る連中を相手するのは得策ではないか」
奴隷を奪った理由は今の所検討もつかないが、ゴブリンに連れ去られた奴隷を助けるためにそこまでリスクを取る必要はないだろう。
この仕事はここまでの内容を伝えれば終わり。男はそう考えたが――
「な、なんだこりゃーーーー!」
男は再び驚いた。何故か? 男は念のため更に奥まで調査してまわったのだがその先で見つけてしまったのだ。
ダイヤモンドの砂を――
砂漠に何かが……
ここから第三章砂漠の交流編です。
いつも読んで頂きありがとうございます。
宜しければまだ未評価の方で
・三章楽しみ!
・この先に期待したい!
・応援したい!
と少しでも思って頂けたならこの下の★で評価頂けると嬉しく思います。
ブックマークがまだだったという方がいたらこの機会に是非!
それでは第三章からも宜しくお願い致します!
感想やレビューもお待ちしてます!




