第333話 攫われたロキ
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「くそ! お前ら俺を縛ってどうするつもりだ!」
「オイッス……」
「キュ~イ……」
怪鳥の背の上でロキが喚いていた。太い縄で腕も胴も脚もがっちり縛られ、身動きひとつ取れない。縄はただ巻きつけただけじゃない。肘の内側、膝の裏、肩の関節――動かせば痛む場所を狙ってきっちり締めてあり、力任せに暴れれば自分が損をするように作られている。
しかも彼の相棒であるサラマンダーのファーと、七人のノームも同じように捕縛されていた。ノームたちは一人ずつ、短い縄で互いの腰に繋がれ、まるで荷物みたいにまとめられている。
「大人しくしていてください。もっとも、身動きは取れないでしょうが」
「縄だけで完璧に動きを封じるとは相変わらず器用だな、あんたは」
「執事としては当然の嗜みですよ」
ギルに感心され、いかにも執事然とした身なりのクレヴォが淡々と答える。
黒い手袋、乱れのない髪、無駄のない所作。怪鳥の背中という最悪の足場ですら、転びそうな気配がないのが腹立たしい。
「チッ、どうせならオッパイの大きなメイドに縛られたかったもんだぜ」
「オイッスゥ……」
「キュ~イ……」
ロキの呟きに、ファーは目を閉じて深いため息をつき、ノームたちは揃って視線を逸らした。いや、逸らしたというより「見なかったことにする」にしたと言うべきか。
この状況でも欲望に忠実なのは相変わらず――というか、逆にブレないのがすごい。
「なるほどな。どうりでバレたわけだ」
「どういう意味ですか?」
「いや、こっちの話だ」
クレヴォに問われ、ギルは苦笑を浮かべる。
「しかし、こんなむさ苦しいドワーフを連れて行ってレクターは喜ぶかね」
「旦那様は珍しい種族を好まれますからね」
「だから俺をどこに連れて行くつもりだって聞いてるだろうが!」
「城だ。そこで俺たちのボスに会ってもらう」
「ボスだと。そいつのオッパイは大きいのか?」
「旦那様と言ったのは聞こえてなかったのでしょうかね?」
クレヴォがやれやれと嘆息する。ファーはロキの頭を叩きたいのか、尻尾だけがぴくぴく動いている。
「チッ、男かよ。くそ! 女はいないのか! オッパイの大きな女は!」
「なんとなく、ギルの言っていた意味が理解できましたよ」
「チッ――まあ、そうだな。いるはいるぜ。メイドも抱えてるからな」
「何! 本当か!」
ギルの言葉にロキが食いついた。ノーム七人が同時に「終わった……」みたいな顔をして、ファーは目を半眼にして「キュ~イ……」と呆れ声を漏らした。
「全く、それを早く言え。俄然興味が湧いたぞ」
「そうかよ。幸せな頭してるな、あんたは」
ギルが肩を竦め、クレヴォがまた一つ嘆息する。怪鳥は疲れた様子も見せず、一定の速度で飛び続けた。風を切る羽音すらどこか機械じみていて、乱れがない。
やがて雲の切れ間に、海――そして、島が見えた。
海に囲まれた円形に近い小島。周囲は濃い青に縁取られ、波は寄せているのに、島の岸だけが妙に静かだ。砂浜も岩場も見当たらず、まるで“台座”の上に島を置いたみたいな不自然さ。
その中央に、鎮座する城。
城は石造りに見える。尖塔、城壁、跳ね橋、見張り櫓。外観だけなら立派だ――なのに、どこか生気がない。人の気配がない。鳥が近づかず、木も草もない。島全体が、息をしていないみたいだった。
「……あそこに俺のメイドがいるんだな!」
「お前のじゃないだろうが」
眼下に見える島の異様さなど、ロキの頭には入っていない。理想のメイドが出迎える妄想を膨らませているらしく、表情が妙に明るい。
ファーは「キュ~イ……」と情けない声を出し、ノームたちは完全に諦めの境地で、揃って俯いた。
(……しかし、なんだ? 妙に嫌な感じがする)
ロキの目だけが、城へ向けて細くなる。石の色が均一すぎる。角の欠けひとつない。補修跡も汚れもない。
綺麗すぎる――いや、違う。綺麗というより“作り物みたい”だ。
怪鳥が島へ降下し、城外の広い空き地へと着陸した。砂埃が立ってもおかしくないが、地面はぱさりとも舞わない。足が触れた瞬間、乾いた音すら薄い。
ロキたちは縄を引かれ、ずるずると引きずられるようにして城へ向かった。ノームたちは短い足で必死に歩幅を合わせ、ファーは縄が食い込まないよう身体を捻ったりして堪えている。
門は開いていた。だが、歓迎の気配は一切ない。衛兵もいない。なのに、見られている感覚だけがある。
ロキは城壁をまじまじと見上げた。砲座も備わっている。砲口の形、角度、設置の間隔――それだけは職人の目が勝手に拾ってしまう。
「なっとらんな」
「何だ、いきなり不満か?」
「フンッ。それよりメイドはまだか?」
「立場を理解しているのでしょうかね」
「キュ~イ……」
「オイッスゥ……」
ロキの言動に、ファーは完全に呆れ、ノームたちは恥ずかしそうに肩をすぼめた。
「――しかし、この城は一体何で出来てるんだ?」
「そんなこと、お前が気にする必要はねぇよ」
ロキの素朴な疑問をギルが一蹴する。
城は一見すると石造りの立派な城。だがロキは、壁の“質感”に違和感を覚えていた。叩けば音が返ってきそうなのに、返ってこない気がする。目地も、ひびも、欠けもない。
触れていないのに、触れた気がして――酷く冷たく感じる。
そしてロキたちは謁見室へ連れて行かれ、そこでこの城の城主、レクター・コレクトと相対することとなる――。
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