第331話 感覚の戦い
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ギルとアイン――互いの剣と槍が交差を繰り返す。火花が散り、擦過音が空気を裂いて耳朶を打った。
「その覚悟は認めてやってもいいが、自ら聴覚を失ったのは失策だったな」
ギルの足さばきが変わる。砂を舐めるように滑り、踏み替えの“音”を消したまま、視界の死角へ身を落とす。
「む……」
アインが低く唸る。自ら聴覚を封じた以上、視界から消えた相手の位置を割り出す手段は限られる。
「貰った!」
視覚外からの刃――狙いは頸動脈。いまのアインには避けられまい、とギルは勝利を確信した。
「フンッ!」
だがアインは石突で地を打って反発を得ると、槍の尻を跳ね上げる要領で刃筋を挟み込み、ギルの一撃を受け流した。ギルの眉間にわずかな強張り。
「テメェ、音は聞こえないはずだろうが!」
「聞こえこそせぬが、貴様が“焦っている”のはわかる。残念だったな。我はアイアンアントだと言ったはずだ」
「……何だと?」
ギルが間合いを切り、アインの額から伸びる触覚へ視線を落とす。
「そうか――それはただの飾りじゃなかったってわけだ」
人化しても残った蟻としての名残。その“感覚器”は健在だった。
「今度はこちらから行くぞ!」
アインが槍を振り回す。力強く、当たれば骨ごと砕く一撃――だが振りは大きく、視覚的には隙も多い。
「何だその攻撃は? お前は風車か」
嘲りは届かない。ただ外見上は、闇雲に槍を廻しているだけに見える。
「――貴様は“感覚”を制限されても、その挑発を続けられるかな?」
「な……まさか!」
ギルの声に緊張が滲む。アインの大振りは“風車”ではない。扇のように空気を攪拌し、砂を巻き上げる“払拭”だ。
砂礫がうねり、茶の壁が視界を埋める。
「これが目的で――」
「終わりだ! 蟻顎羅穿豪槍!」
回転の唸りが深く鳴る。砂幕の向こうから迫る螺旋の穂先。アインは触覚で相手の微細な気流の変化を捉えている。
逆に、視界を奪われたギルは“見る”を封じられ、初動が半拍遅れ――腹甲に直撃。
ギルの身体が砂を引きずって大きく吹き飛ぶ。
「やったぞ!」
アインが叫ぶ。音は届かぬ。それでも槍柄を伝う“重み”が確かな手応えを教えてくれる――が。
「裏斬り!」
ギルの喉が震えた直後、アインの背に衝撃。
「なッ――」
熱が走る。振り返るより早く、背を走る痛覚が“深い”と告げた。そこには剣で切り裂かれた裂傷が刻まれている。
「馬鹿、な――」
完全な死角。身構える猶予もなかった。傷は深く、アインは膝をつき、そのまま砂上に崩れた。
「惜しかったな。……と言っても聞こえやしないだろうが」
ギルが砂を払って立ち上がる。臍下から上衣をめくると、下には鎖帷子――魔銀製の鱗がきらりと光る。
穂先が穿った箇所には丸い穴。金属が“めくれ”、砂がこぼれる。
「これをあっさり穿つパワーは認める。だが――お前の敗因は聴覚を捨てたことだ。触覚で補ってはいたが、技を“撃つ”時に参照していた情報が欠ければ、キレは落ちる。普段頼っている分、な」
ギルは冷ややかに告げると、倒れ伏すアインの背傷を一瞥する。
“裏斬り”――刃の届かぬ距離からでも背後へ切っ先を回り込ませる、ギルの得意とする奇襲刃。見せれば警戒されるため、ここぞでのみ温存する切り札だ。
「ま、いいさ。テメェはここで死ぬ」
「ぐっ!」
ギルが剣を振り上げ、アインが喉の奥でうめく。刃が落ちる――その瞬間。
「光魔法・指閃!」
鋭い光条がギルの視界を横切る。身を翻して一条をやり過ごすも、続く光が矢継ぎ早に迫る。
「チッ、仲間か」
「アイン! 大丈夫ですか!」
「……メル――」
アインがかすかに呟く。ギルが横目で確認すると、アインと同じく触覚を戴く女――メルが、眦を吊り上げていた。
「ボスが好きそうな女だが……時間切れか。命拾いしたな、蟻ども!」
ギルが吐き捨てた直後、陽を遮る巨大な影。見上げれば、空を裂いて舞い降りる怪鳥。
脚の鉤爪がギルの身体を易々と攫い上げる。
「じゃあな」
高度を取り、怪鳥はそのまま旋回して離脱。メルの指から次の光線が放たれ、怪鳥の翼膜を正確に撃ち抜くが、ソレは怯む素振りも見せず、砂漠の彼方へ――あっという間に黒い点になっていった。
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