表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂魔法で砂の王国を作ろう~砂漠に追放されたから頑張って祖国以上の国家を建ててみた~  作者: 空地 大乃
第八章 狙われた砂の王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

330/331

第329話 欺きと気付き

いつも感想や誤字脱字を報告いただきありがとうございます!

(やれやれ。こんなにあっさりバレるとはな)


 砂の王国バラムドーラ――ギルに与えられた任務は、この国の情報を集めること。とはいえ、それは“ついで”でいいと告げられていた。

 本命は、今の雇い主であるコレクトが気に入りそうな生物(もしくは人材)を捕らえ、城に連れ帰ること。


 その“メイン”は既に達成している。ドワーフのロキを押さえ、同行してきた剥製(・・)へ引き渡した。今ごろあのドワーフは空の上(・・・)だろう。


 後は国を抜け、決められた地点まで行けば――


 目的地の光景が自然と脳裏に浮かんだ、その時だ。乾いた発砲音が砂気を含む空気を裂き、空中で赤い光が弾けた。

 同時に、街角の見張り台から拡声の声。


『緊急事態発生。王国に侵入者あり。ターゲットは変身の能力を持つ模様。ロキの姿にて逃亡中。既に別人に変身した可能性高く――』


 舌打ちが勝手に漏れる。のんびり歩く時間は削られた。

 だが、問題ない。通報の通り、ギルは既に変身を終えている。今の姿は、この国の雑踏に紛れても埋没する、地味で実直そうな青年――ロキとは縁がなく、目立ちもしない。

 肩の力を抜け。歩幅を合わせろ。視線は泳がせるな、だが睨むな。人間の群れに溶けるのは、呼吸と同じだ。


(慌てて速度を上げれば疑われる。ここは“流れ”に乗って出るだけだ)


 通りは活気づき、砂嚢(すなのう)の積まれた角を抜ける度に、香辛料と鍛冶の匂いが鼻をくすぐる。屋台の呼び込み、子どもの笑い声、遠くの訓練場から届く掛け声――日常に戦前の緊張が薄く混じった、重層の音。

 ギルは群衆の呼気と足音のテンポに身を合わせ、脈拍すら街に同化させるつもりで歩いた。


(大丈夫だ。このままなら――)


 前方から、蟻の触覚を生やした黒鎧の男、そして騎士の無駄のない歩み。

 男が目の端でこちらを捉え、自然な角度で近づいてくる。


「おや、リラク殿。これから外に?」


 すれ違いざまの問い。声の抑え方がうまい。通せんぼにも見えない距離と、逃げに転じれば追える間合い。


「はい。依頼の素材を採取に」


 軽く笑って返す。今のギルの姿は、冒険者ギルド登録の末端“リラク”。冒険者が外に出て素材を取りに行く――何もおかしくはない。


「なるほど、そうでしたか。そういえばこの間狩られたジャイアント・サンドリザードは見事でしたな」


「……はは、御冗談を。僕にその魔物は倒せませんよ」

「おっと、これは失礼。勘違いだったかな?」


 騎士が後頭部を掻く。口調は柔らかいが、目の奥は濁りがない。

 (ブラフだな)とギルは胸の内で肩をすくめた。先ほどの放送で警戒は上がっている。こんな時に“過去の獲物”の話題を振るのは、相手が本物かどうかの探りに決まっている。


(今の返しで辻褄は合った。――抜ける)


「侵入者がいると聞いた故、つい疑心暗鬼になってしまった。申し訳なかった」


 騎士が一歩寄り、右手を差し出す。握手。ここで避けるのは悪手だ。

 ギルは躊躇を見せず、その手を握った。


「いや、仕方ないことさ」


 温度、握力、皮膚のざらつき。指先の訓練は、こういう時に物を言う。

 

……が、その掌に“違和感”が走ったのはギルの方だった。握り返す圧が、じわりと強まる。


「はは、ちょっと痛いかな。握る手、強くないかい?」

「これは失礼。ところで知っていたかな。リラク殿は畑仕事にも精を出していてな。最近も“手に豆ができた”と笑っていた」

「――なるほどな」


 ギルの掌は、変身で外見こそリラクに化けているが、中身は己の肉だ。

 畑の(くわ)で刻んだはずの硬い豆は、ない。

 目の前の騎士――(名前は知らんが)――こいつは手応えだけで違いに気づく類だ。細かい。嫌いなタイプだ。


「全く、厄介な連中だ」


 毒づきながら、ギルは握っていた手を振り解くと同時に、己の“内”へ神経を沈める。

 臓腑の影に沈めていた黒い刃が、脈動に合わせて姿を滑らせる。喉奥を通るでも腹を裂くでもない。

 そして指先から、一本の剣身が音もなく生える。


――魔剣ギルティス。


 名を呼べば喜ぶ刃だが、ここで声に出すほどギルも無防備じゃない。

 切っ先が騎士の手首をなぞった、その刹那。


 空を裂く金属音。騎士が腕を引き、背から抜いた槍の()が“カン”と火花を散らせた。体幹の揺れはゼロ。繋ぎの一歩も美しい。

 やれやれ、とギルの口角がわずかに上がる。


「貴様が侵入者、ということでいいな?」

「全く。思うようにいかないもんだな」


 剣を構えるギルと、槍を構える騎士。

 風が一度、通りを撫でる。遠くで子どもが叫び、近くの屋台の鍋が“コトッ”と鳴る。音の層が、急に薄くなる。

 緊迫、という言葉の温度が、二人の間にだけ濃密に漂った。


 ギルは足裏の砂を確かめる。右へ半歩、滑る。槍の間合いを殺すなら、最初の一手は懐に飛び込むか、視線を切って側面。

 だが騎士は、わずかに槍を傾けただけで、その半歩先を切り取って見せた。

 呼吸が速くない。喉仏が上下しない。視線も踊らない。無駄が、ない。


(……こいつ、出来る――)


 ギルは息を一つだけ深く吐き、笑みを消した。

 背後の群衆が半歩退き、露店の親父が慌てて鍋を引っ込める。

 砂の国の一角で、二つの影が交差の瞬間を待つ――。

本日発売の月刊コミックREX1月号にて本作のコミカライズ版第15話が掲載されてます!

そしてコミック単行本1~2巻が大好評発売中!どうぞ宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ