第328話 当然の違和感
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ロキが大事な話があるというので、僕たちは一旦執務室へ移動した。扉を閉めると、外の喧騒が一段薄くなる。
「それでロキ。話というのは?」
「その前に、フィー殿には席を離れていただきたい」
「え? フィーに?」
真顔で告げたロキに、僕とフィーは顔を見合わせた。空気が少しだけ張りつめる。
「フィー殿。私は陛下と込み入った話があってな。お願いできぬか?」
「――ふむ。そうか。ロキよ、お主は本当にそれで良いのか?」
「勿論だ。私は陛下と話がしたいのだからな」
「そうか。ところで妾を見て、何も思わぬか?」
フィーがわざと胸元を強調するような姿勢を取る。挑発、というより試金石だ。
「……何を言っているのかわからぬが」
「そうか。良いな、陛下」
「そうだね。だけど話は聞きたいから、やりすぎないでね」
「安心せい。これでも最近“加減”を覚えたのじゃからな」
「加減?」
小首を傾げるロキに、フィーが右手をひと払いいれた。空気が鋭く鳴り、風の刃が走る。ロキはそれを紙一重でかわし、窓際へ跳んで口角を上げた。
「驚いたな。何故わかった?」
「うつけが。あのロキが妾に“部屋から出ていけ”など、天地がひっくり返っても言うわけがない。まして、これだけあからさまに“好物”を見せてやっておるというのに無反応なのだからのう」
フィーが胸元に手を当て、淡々と告げる。そう、ロキは女性の胸に目がない。そんなロキがフィー相手に一切反応を見せないのは、最初からおかしかった。
「残念だったね。見た目だけいくら真似ても、中身が伴ってなければ意味がない」
「なるほど。とんだ好き者だったわけか、あのドワーフ」
偽ロキが鼻を鳴らす。余裕を装っているつもりなんだろう。
「それで。お前は一体誰だ? コレクト公国の手の者か?」
「好きに想像するといいさ」
ハッキリとは答えてくれないか。だけど否定もしていない。
「随分と余裕があるがのう。追い詰められておるのがわかっているのか?」
「そうでもないさ。どちらにしても、あんたらにとって“あのロキ”ってドワーフは大事なんだろう? ――それが既にこちらの手の内にあると言ったら?」
「何だって? お前、一体ロキに何を――」
「答えるわけがないだろう」
「それなら力づくでも聞くまでよのう」
「そう上手くは行かないさ」
腰の革袋から小さな球体が取り出され、そのまま床へ叩きつけられた。ぱん、と乾いた破裂音。瞬く間に白濁した煙が室内を満たし、視界が奪われる。
「しまった!」
ガシャアン! 窓ガラスの割れる音。僕が咄嗟に身構えるのと同時に、フィーが風を巻き起こして煙を霧散させた。だが、既に窓枠の向こうに姿はない。
「逃げ足の早い奴よのう」
「砂感知!」
僕はすぐさま魔法で偽物を追う。けれど、外は人の流れが複雑に渦巻いている。砂の“揺れ”は幾重にも交差し、目印はすぐに紛れた。変身を解かれたら、なおさら見つけづらい。
偽物の正体はわからない。しかも別の姿に化けられるとしたら、砂感知一本では厳しいか。
街を警護する砂人形に命じて周辺を洗ってもらうけれど、そう簡単に尻尾は出さないだろう。胸の奥で、嫌な予感が砂のようにざらついた。
「とにかく皆に知らせないとね。ロキのことも気がかりだし」
「うむ。正直、ロキなど妾としてはどうでも良いのだがな」
「もうフィ~ってば」
「ス~」
フィーが心底どうでも良さそうに肩をすくめ、スーが小さく頷く。困ったものだよ……いや、気持ちはわからなくもないけれど。
でもこれって――女性陣は逆にロキがいなくなったことを歓迎したり、しないよね?
冗談みたいな不安が喉元まで出かかったところで、僕は深呼吸してのみ込んだ。今は感情より先に、手を打たないと。
「フィー、見張り塔と砂人形の連携を強めよう。見張りを増やして警戒を強めるんだ」
ロキの偽物もそうだけど、コレクト公国からの刺客が他にもいないと限らない。それに今後の事もある。
「確かにそれが良いであろうな。流石我が主であるぞ」
「そんな褒められるような事でもないけど――アマネトの警護も増やす必要はありそうだね」
砂感知でアマネトの存在は確認できている。だから一先ず安心だけど、偽装、変身、撹乱――敵の手は一つじゃない。こちらも、一つじゃ足りない。
いよいよコレクト公国が仕掛けてきた。割れた窓の外、砂交じりの風が街路を流れていく。日常と戦前の境目は、案外こういうところにあるのかもしれない――そんなことを思いながら、僕は執務室の扉を押し開けた。
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