第327話 戦前の町並み
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トヌーラ商会から受け取った“処分品”のおかげで、装備はぐっと潤ってきた。
アリババ商会から届いた生活用魔導具も、使いようによっては戦で役立つ。――勿論、使おうと思えばの話。アリババ商会に迷惑をかけないための線引きは必要で、そこは皆にも周知済みだ。
それと、トヌーラ商会が連れてきてくれた新しい職人たち。今は訓練場で兵士や冒険者に混ざって汗を流している。
「フェル、調子はどうかな?」
「王よ。新しく入った職人は、とても筋がいいぞ」
フェルが笑う。薄々わかっていたけれど、やって来た“職人”の多くは、元騎士や冒険者上がりばかりだ。力仕事も得意で建築の現場では即戦力、だが――どちらかというと前に出て戦う方が性に合っている、と本人たちも認めていた。
そんな彼らをフェルが評価している。古き剣カラドボルグから人化したフェルがそう言うなら、信頼していい。
訓練では、フェルが主に剣、アインが槍の指導を受け持っていた。砂混じりの土を踏む靴音、構え直すたびに鳴る革の軋み、号令に合わせて揺れる呼吸――戦の前の音が、町の空気の中にゆっくり染み込んでいく。
「性が出るね、アイン」
「主様。当然です。このアイン、陛下の騎士として心血を注ぐ所存でございます」
「そんな畏まらなくてもいいから」
片膝をついて恭しく答えるアインに、思わず苦笑。付き合いは長い、相変わらず律儀だ。
訓練場の一角では、スイムやリタが魔法の基礎と連携を教え、ペルシアは新兵に魔導具の扱いを叩き込んでいた。魔力の火花と、砂埃に溶ける油の匂い。みんな忙しなく動いているのに、どこか楽しそうだ。
「主よ。視察であるか?」
「そんな大したものじゃないけどね」
「ふむ。まあ良い。同行しよう」
フィーと一緒に町へ出る。風が吹くたび、乾いた石壁に吊るした日除け布がはためき、屋台からは焼きたての薄餅と香辛料の匂いが流れてくる。扉には簡易のお札が貼られ、通りの角には砂嚢が積まれていた。戦の準備の進む中、変わらない日常の風景も共に広がっていた。
「お兄様。私もご一緒したいのですが」
「何をいう。空間魔法を活かすためにも、倉庫の内容をしっかり把握するのだ」
「うぅ。何か急にやる気になってますの」
『ケケッ。キリキリ働けよ』
からかうカセに恨めしそうな目を向けつつ、モルジアはアングルと一緒に倉庫へ向かった。積み増しした物資の出入りを、モルジアが把握しておいてくれるのは正直助かる。
そんなモルジアに労いの言葉をかけて、さらに足を進める。
「主様ぁ~、蜜もだいぶ集まってきましたよ~」
ハニーアントを従えたメルが手を振ってきた。蟻の蜜は栄養価も高い非常食だし、いざという時に役立つ。メルの頑張りにも、蟻たちの働きにも感謝だ。
「アリ~」
小さな触角がぴこぴこ動いて、こっちに挨拶してくれるのが可愛い。ハニーアントだけじゃない。アイアンアントも砂鉄を集積してくれていた。彼らが運んでくる砂鉄は、ロキの大砲づくりに欠かせない。
「新作の薬も色々できてきましたよ! 実戦で使われるのが楽しみ。ウフフフ――」
眼鏡を押し上げながらケアが笑う。笑顔がちょっと怖い。でも、ケアの薬の効き目は確かだ。頼りにしてる。
「グルゥ」
「あはは。オルトもすっかりお姉ちゃんに懐いているね」
通りの先からプリシアの声。見ると、プリシアの飼うオルトが腹を見せて、アマネトに撫でられていた。アングルの件があって、これまで表に出づらかったアマネトだけど、もう隠れる必要はない。線が一本ほどけたみたいに、彼女の顔色も明るい。
「――こうやって見て回っていると、これから戦が始まるかもしれないなんて思えないよ」
「そうであるな。だが、こちらが望んでいなくともやってくる災いもあるのだ」
フィーの言う通りだ。今この瞬間にも、コレクトの魔手は砂の地平の向こう側で動いているかもしれない。
「そういえば――今日はロキの姿を見ないね」
「確かにそうであるな。もっとも、いないほうが平和であろう」
思わず笑ってしまう。女性陣の本音だ。けれど、技術は一流のドワーフだし、この国にとってはなくてはならない存在だ。彼が叩く鉄の音は、街の心臓の鼓動でもある。
そんなことを話しながらフィーと城へ戻ると――
「陛下、少し宜しいかな?」
噂をすれば、だ。ロキが声を掛けてきた。長旅明けのような砂埃と油の匂い、けれど鼻を掠めたのはいつもより微かに違う酒精の香り。笑っているのに、目があまり笑っていない――気のせいだろうか。
とりあえず、話を聞こう。戦前の町並みは、いつだって表と裏で回っている。僕はそういう空気を吸い込んで、ロキの方へ向き直った――。
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