第325話 またもや生活用品
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「職人なのに凄い装備だね」
「死の砂漠を乗り越えるんですもの。職人とはいえ、これぐらいの装備は当然ですわ」
僕の疑問に答えるようにロベリアが言った。言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。
「それで、持ってきた品はどこにゃ?」
「もちろん見せるわ。――開けて」
ペルシアが首をかしげると、ロベリアの命令でラクダ車から木箱が次々と降ろされ、封が外れる。出てきたのは、手押しポンプ、粉挽きの石臼、圧搾機、乾燥棚、洗濯板、石鹸、食器や保存瓶、日除けの布などなど……生活用品がずらりと並んだ。
「……武器、ねぇのかよ」
「鎧どころか盾ひとつないぞ」
「刃物は? 包丁しかないのか」
冒険者たちがあからさまに不満顔。その気持ちはわかるけど、こういった品も大事なのは確かだ。
「ライゴウ、念のため確認しておこう。アリババ商会の時みたいに、生活用具に見せかけた“何か”かもしれない」
「まぁ、そうかもな……」
スイムに言われ、ライゴウが手押しポンプのストロークを確かめ、乾燥棚の目合い、圧搾機のねじ山まで一通り見る。石臼は回るだけ、日除け布は日差しを遮るだけ。どう見ても、ただの生活用品だった。
「――紛れもない生活用品だ。出力を上げても火も氷も出ない」
「悪いけれど、戦争に利用できるような品物は用意できないのよ」
ロベリアがきっぱりと言う。目は笑っていない。そこは、はっきりと線を引いてきたわけだ。
「ううん、十分助かるよ。ポンプがあれば各家に水を供給しやすくなるし、保存瓶や乾燥棚があれば食料だって安定する。ありがとう」
「陛下にそう言っていただけるなら嬉しいわ。これでも役立つものは用意したつもりよ」
ロベリアがにこっと微笑む。改めて見ると、本当に綺麗な人だ。
「やれやれ。こんなものしか用意できないとは、使えぬ女狐よのう」
すかさずフィーが挑発してくる。やめて、火種を撒かないで。
「フィー、言い過ぎだよ。生活が整えば、皆が無駄に傷つかなくて済む」
「そうですよ、フィー。私もホルスに同意します。こういう時はフィーもしっかりお礼を言うべきですよ」
イシスがきっぱりとたしなめる。肩の上のアイも「愛のためにも反省!」と元気よく追撃。はい、そこは愛じゃない。
「ふん。そんなものかのう。――まあよい、妾からプレゼントじゃ」
フィーが指先で何かをつまみ、ひょいっとロベリアへ放った。黒くて、細長くて、足がやたら多い、あのフォルムは――
「……えっ、ちょ、まっ――きゃあああああああ!」
ムカデが見事な放物線を描いてロベリアの胸元へ。谷間に吸い込まれて、消えた。
「ロ、ロベリア、落ち着いて!」
僕は思い出す。そういえばロベリアは、こういった足の多い虫が大の苦手だったんだ。
「むりむりむりむりむり! 陛下ぁっ、とってぇ! 早く、とってぇぇ!」
腰を抜かしたロベリアが、涙目で僕の腕にすがりついてくる。近い、近い近い近い……!
「し、失礼、しますっ!」
僕は深呼吸して、布巾でそっと挟み込む。肌に触れないよう、角度を変えて――今だ。するり、と引き抜き、そのまま砂地へ。ムカデは元気に走り去っていった。よかった。とりあえず、これで安心だよ。
「情けない女狐よのう。これしきで腰を抜かすとは」
「……ッ」
ロベリアがキッとフィーを睨む。次の瞬間、ふっと表情を切り替えると、今度は僕にぎゅっと密着してきて、顔を胸に押し付けた。
「陛下……ありがとう。助かりましたわ……」
「ちょ、ちょっと、ロベリア?」
「ドサクサに紛れてお兄様に何してますの!?」
『へへっ、おもしれぇじゃん。いいぞ、もっと過激に責めろ!』
イシスが固まり、モルジアが叫び、カセは面白がって煽ってくる。笑い事じゃない。心臓の鼓動が耳まで響いてるんだけど。
「――いい加減にしますの!」
「えっ」
パチン、とモルジアが指を鳴らした瞬間、僕とモルジアの位置が入れ替わる。空間魔法でスイッチ。ロベリアの胸に押し付けられていたのは、次の瞬間モルジアの額になった。
「どういうつもりですの? 説明、お願いできますか」
「あら? あなたにそんな趣味が? それとも、これが羨ましかったのかしら?」
「なッ!? そんなことないですの!」
モルジアがロベリアから離れ、自分の胸元をぺたぺたと触った。モルジア……
「フンッ。やはり女狐か。しかし色気は妾には到底及ばぬがのう」
「随分と自信があるようだけど、陛下はまんざらでもなさそうでしたよ」
笑顔で睨み合うロベリアとフィーが何か怖いんだけど。それにしても、あの感触――
「ふん。妹程度の色香に惑わされるなど、情けないぞ」
僕たちの様子を見ていたアングルが鼻で笑い、眼鏡を押し上げる。いや、惑わされてない、惑わされてない……はず。多分。たぶん?
いやいや! 落ち着け、落ち着け僕。深呼吸。えっと、次に確認するのは手押しポンプの設置場所で――
「ス~……」
「ンゴォ」
そんな僕を見て、呆れ顔のスーとラクだった。そして何故かイシスはジト目で僕を見てくる。やめて、そんな目で見ないで!
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