第313話 動きだした剥製王
「どうやらあの男からの情報は正しかったようだな」
居城の玉座に座りレクターがつぶやいた。その肩には一匹のフクロウの姿があった。
「裏切りはなかったってことか。ま、あんたの事を知っていればそんな命知らずな真似しないだろうがな」
重厚な鎧に身を包まれた男がレクターに向けて言った。頭から首まで兜ですっぽりと覆われており素顔を確認することは出来ない。
「ギル。貴方は裏切る前提で話しすぎですよ」
「今更俺の二つ名を言わせるつもりか? 裏切りのギル。それが俺だ」
改めてそう語るギルを横目で認めた後、執事服の男が肩を竦めた。
「クレヴォ。あの奴隷が逃げ込んだ場所の情報は掴んでいるか?」
「ある程度調べはついております。砂漠に建国された新国バラムドーラ。ホルスという若き王が統治している王国でございます。まだまだ発展途上といえる小さな国ではありますが優秀な人材を多く揃え砂漠の資源も豊富に有することで一部からは注目されているようです」
「ふむ。それでそのホルスは一体どんな人物だ?」
「ホルス――現在はホルス・バラムドーラ一世と名乗っておりますが本来の名はホルス・マグレフ。マグレフ帝国で生まれた皇族の五男でございます。ただし現在は皇族としての身分を剥奪され帝国から追放された身でございます」
時折モノクルを直す仕草を見せながらクレヴォが説明した。レクターは椅子に深く腰を掛けたままじっくりと話を聞いている。
「追放とはな。何か問題でも起こしたのか?」
「見放されたと言うべきでしょうな。属性を知る儀式の際に砂の単一属性であることが発覚したことで、周囲からも随分と冷遇され最終的には帝国から追放され死の砂漠送りにされたようです」
「ハッ、その結果砂漠で建国されたんじゃざまぁないぜ」
クレヴォの話を聞いていたギルが一笑した。
「確かにその通りですな。とは言え帝国側も黙っておらず一度は戦にも発展しております」
「その結果は――現状王国が残ってるということは聞くまでもないか」
「はい。帝国側は敗北を喫しその際に第四皇子であるシュデル・マグレフが捕らえられました。もっとも現在は奴隷送りにされたようですがな」
「ほう――それは中々興味深いな。しかしマグレフ帝国も一度ぐらい敗北したからと諦める玉ではないだろう」
「勿論。どうやら帝国寄りに砦を建設しバラムドーラ王国を牽制しているようですな。更に帝国は何やら画策しているようですぞ。何せあの男の動きにも帝国が絡んでいる節がありますからな」
帝国の情報を耳にしレクターが渋い顔を見せた。
「それは利用されているようで愉快ではないな」
「そうですな。しかし現在はあの奴隷を取り戻すことが先決と思われます。それに――バラムドーラという国を手中に収めるチャンスとも言えるでしょう」
「王国をか。資源は豊富と聞くが私はそんな物に興味はないがな」
「資源は副産物のようなもの。それよりも興味深いのが国で暮らす種族です。噂によるとドワーフは勿論、獣人や半巨人などもいるようで。他にも砂漠で暮らす珍しい種族とも交流があるようです」
「ほう。それはそれは――興味をそそられるな。関心が増したぞ」
身を乗り出しレクターがニヤリと口角を吊り上げた。
「出たぜ新しい玩具を目にした時のようなその笑み。砂漠の王国もこれで終わったな」
「御主人様は手に入れると決めたら必ず手に致しますからな」
「そのとおりだ。よくわかっているではないか。早速準備を始めるそ。そこでだクレヴォ――今の話に出た奴隷落ちした皇子とやらが気になる。上手くやれば使えそうだからな」
「そう申されると思い既に調べはついております。随分と厳しい現場に奴隷として売却済みなようですが場所はわかっております」
「それは好都合。餌をぶら下げればすぐに食いついてくるだろうさ」
「承知いたしました。とは言え肝心の持ち主が大人しく譲ってくれるかはわかりませんが」
「その時はいつもどおりやればいい。それにそこならば兵士として使えそうなのもいるだろう。それもついでに手に入れようではないか」
「仰せのままに」
こうして剥製王ことレクター・コレクトがバラムドーラ王国に狙いを定め動き出したのだった――




