第307話 曖昧な領土
「望ましくない? それは何故だ? もし理由もなく茶々をいれるつもりであったなら――」
「いやいや! しっかり理由がありますから!」
フィーの殺気に圧倒されたジャハルが慌てて言った。正体が神獣スフィンクスであるフィーは怒ると怖いからね。
「コホン。先ず重要なのは位置ですな」
気を取り直しつつ咳払いし、ジャハルが説明を始めた。位置というと帝国が砦を建造している場所だろうね。
「この砦、砂漠内に建築してるとは言え場所は帝国寄り。この状態で下手に刺激しては帝国側にこちらを攻撃する口実を与えてしまうでしょう」
それがジャハルの考えだった。確かに位置でみれば建築中の砦は帝国に近い。
「ですがどう考えても帝国側の挑発行為にも思えますがそれでも向こうに有利になるのですか?」
「ンゴッ!」
「確かにこんな身勝手愛が足りないわね愛が!」
疑問の声を上げたのはイシスだった。これには少しだけ驚いたかも。イシスがこの手の話に積極的に関わってくるイメージがなかったからかもしれない。
「挑発なのは間違いないでしょう。だがそもそもこの死の砂漠にはこれまで領土と言える概念がなかった。陛下が建国したことで今でこそ周知はされましたがそれでも砂漠全体に及ぶわけではない」
ジャハルがイシスの疑問に答えた。僕が追放された当時は確かに砂漠内で国として認められた場所はなかった。
勿論今はとても良くしてもらっているパピルサグ族や交易を始めたダークエルフ族、それにアイアンアントやハニーアントたちはいたけれども周囲から国という規模では見られていなかった。
つまり砂漠内では各国の境界が曖昧ということでもある。そうである以上帝国が自国の近くで砦を作ろうと文句を言える立場ではない。
それは逆に言えばこちらから砦を破壊する理由にもならないということだ。
「領土という点では帝国よりのこの位置は我々が口出し出来る位置にないのです。にもかかわらずこちらから攻撃しては帝国側からすれば侵略された! と反論してもおかしくない状態となる――これが厄介でありそれを理由に外交的にも不利になる可能性がある。つまりここで砦を攻撃することはこちらとしてもリスクしかないのです」
「……そうですか。歯がゆいですね」
イシスが視線を落とした。やっぱりこの話になってからイシスの様子がおかしい気もするけど――
「だけどよ、ここにきてこんな砦を建設してきてるってことは帝国側がこの国を攻めこむ準備に入ってるってことだろう?」
「確かにその可能性は高いでしょうな」
ライゴウとスイムが怪訝そうに話した。
「二人の言うことはよくわかるよ。確かに奴らなら機会があると見れば侵略に乗り出してきてもおかしくないよ」
「――お兄様の言う通りですわね。本当に腹立たしいですの」
僕の言葉にモルジアが同意した。僕の妹だけあってモルジアも帝国のやり口がよくわかっているのだろうね。
「でも、だからこそこっちも向こうのペースに飲まれては駄目なんだと思う」
「なるほど。しかしのう主よ。そのような連中がいくら喚こうと妾の力があれば圧倒することは可能であるぞ」
「ふむ。それであれば余も一緒だな。有象無象の人間如き一瞬にして消し炭にしてくれようぞ」
フィーとリタが圧を強めた。確かに二人の力は凄まじい。だけど――
「リタやフィーは勿論、僕の国には頼りになる仲間が多い。それは事実だけど、それでも国同士の衝突は避けたいのが本音だよ」
「むぅ」
「ふむ……」
僕の言葉にフィーとリタは押し黙った。戦争は避けたい――あの国で育った僕は帝国が何をしてきたかもよくわかっていた。戦となればあいつらは容赦なんてしない。勿論僕だってただでやられるつもりはないけど、でもそのせいで傷つく皆の姿なんてみたくないんだ――




