第296話 砂漠でバロメッツを見せてもらいました
「なんと我々と取り引きとは驚きました。何よりこの砂漠で暮らす人がいたことが意外ですが……」
年嵩のエルフが僕たちの話を聞いて目を白黒させていた。今更だけど確かにここは本来死の砂漠と呼ばれていたぐらいだもんね。
だけど実際過ごしてみるといろいろな種族が暮らしていたりする。やっぱり噂だけ聞くのではなく自分の目でしっかり見て経験するのが大事なんだなって思うよ。
「ここにはバロメッツが生えていると聞いたにゃ。間違いないかにゃ?」
「そうだ。それが一番大事なのだ!」
取引する材料について今度はペルシアがやんわりと切り出してくれた。直後にアングルが追随する。
前のめりで聞いてくるアングルに長老はちょっと怯んでいた。
「やめるにゃ。全くアングルは商売っ気が強すぎるにゃ。商人には大事なことではあるけどにゃ、がっつき過ぎも良くないにゃ」
「ぐっ、むぅ……」
ペルシアに諭されてアングルが喉を詰まらせていた。
「長老。水を分けてもらえる交換条件がパロメッツの実であれば悪くはないと私は思うのだが」
ビローが長老に口利きしてくれた。ビローは僕たちのことを信用してくれているみたいだね。
「はい。村には水が必要ですから。ただ……そうですね見てもらったほうが早いかも知れません」
長老はそう言って僕たちについてきて欲しいとお願いしてきた。
特に断る理由もないので一緒についていくことにした。といっても全員だと多いので今回は僕の他にペルシアとルガール、それにアングルがついてきてくれた。
「これがバロメッツです」
長老とピローについていった先に一本の巨木が立っていた。そこには何かがごっそり取り除かれたような窪みがあった。
「ほうこれがバロメッツか。初めて目にしたがなんとまぁ……」
アングルがマジマジとバロメッツを見た。珍しい物でも見るかのように目を白黒させている。
その気持ちもよくわかるかな。バロメッツの中心には羊の顔があったんだ。本体も白木でところどころにふわふわした毛が生えていた。ただ部分的だし多くは弱々しい樹皮が顕になっていた。
「真ん中に羊の顔があるなんて驚きにゃ。だけど、何か元気がなさそうにゃ……」
「そうなのです。元々はここに泉がありバロメッツも元気だったのですが泉も見ての通り干上がってしまいその結果バロメッツもこのような形に」
そうか。この場所が元の泉だったんだね。だけど水がなくなってこんな状況に……。
「そういえば羊毛の実というのはどうしたのだ?」
「見ての通りです。すっかり元気を失っておりその影響で実も育たないのです。本来バロメッツは樹木も美しい毛で覆われていたのですがそれも今ではすっかり……」
長老が憐憫の目を向けた。確かに見るからに弱々しい。これじゃ実を生やさないのもわかるね。
「それならば持ってきた水を与えたら元気を取り戻すのではないのか?」
アングルが意見した。泉に水があった時には元気だったなら大事なのは水なんだろうなとは思う。
「それも一時的な物で終わってしまうにゃ。それに泉があってこそ元気だったならにゃ。常に水を必要としてる可能性があるにゃ。そうなるとただ水を運ぶだけじゃなく抜本から対策しないと仕方ないと思うにゃ」
アングルに続いてペルシアが考えを示した。それってつまり泉に水を取り戻すことが不可欠ということかな。だけどただ水を運ぶよりも難題かもしれないね。さてどうしようか――




