第266話 反転魔法の正体
砂漠での戦いは続く。盗賊を相手するフィーとは別にゴブリンサンドキングとその軍団をアインとアイアンアント達が相手していた。その中にはリスリーやアンラキの姿もあり、メルも魔法で援護していた。
少し離れた位置でも魔剣を持ったシャハムや騎士団。大盾を持って壁となるジャックの姿がある。
怪我を負った兵はイシスの魔法で回復を受けている。
「皆、水分補給も忘れずにね」
モルジアが空間収納から水の入った水筒を出して投げ渡していく。何を呑気なと思われそうだが砂漠では黙っておくとどんどん水分が失われていく。
脱水状況に陥っては戦闘もままならない。
「これで決める! 蟻顎羅穿豪槍!」
アインの魔闘技が炸裂。槍を伸ばすことで離れた位置にいたオークサンドキングの土手っ腹に風穴があいた。
「やったか!」
「待ってアイン。大変だよ傷が治っていく!」
メルの指摘にアインも驚愕する。オークサンドキングはあれだけのダメージも全く効いている様子がない。いやこれまで受けていたダメージもよく見ると回復していた。
「グオォオォオォォォォォオオオオ!」
オークキングが戦斧を振り下ろしその衝撃だけでアインが後ろに下がった。パワーはかなりのものである。
「……オークサンドキングの怪我は酷くて軽い――」
「なるほどお前の仕業か。全てを逆転させる力か。中々煩わしい物よのう」
「――そこまでわからなくてもわかったならもう不明でも理解したはず。お前は強い。だから僕の前では強くて弱い」
「大した自信ではないか」
「虚構で事実――」
シムシムが消えた。かと思えば細い方の腕で背後から殴りつけた。
「甘いのう」
しかしその瞬間フィーの回りに暴風が吹き荒れシムシムの身が切り刻まれた。
シムシムが吹き飛ばされるがこれは風の効果ではなく、シムシムが自ら反転魔法で抜け出したのである。
「ぐっ、傷は深くて、浅い――」
シムシムの傷がみるみるうちに回復していった。ほう、とフィーが感心する。
「中々便利な魔法であるのう」
「……弱気で強がりはそれまで」
「強がりはどっちかのう? そろそろ貴様も気づいておろう」
シムシムが口を噤む。
「貴様の魔法については既に大体掴んでおる。例えば貴様の魔法は同時に二つの効果は発動できぬ。そうであろう? つまり貴様は持続する効果は発動出来ぬ。故に回復も傷ついてからとなる」
「……そんなこと、言って黙る」
「まぁ良い。貴様の体は不自然だがのう。例えば弱い方の腕が強くなるなら妾の防御を崩した上でそっちの貧弱な腕を強化して攻撃した方がよかろう。だが妾の防御を崩した時にはそっちの随分と不格好な腕で攻撃してきた。一方今は弱い方を強化してだ。そこからでも大体よめよう」
「お前は大人しくて騒がしい」
シムシムが紙くずをフィーに向けて投げつけた。避けると砂地に命中し弾け飛ぶ。
「貴様の攻撃は初見であればかなり厄介よのう。こんな紙くずでも貴様に掛かれば凶器よ。だがそんな面倒なことをせずとももっとあっさり倒せる手があろう?」
「……お前の考えが読めて読めない」
「フフッ、わざわざ勝ち方というのを教えておるのだ。そう貴様の魔法なら例えば生を反転させれば相手は死ぬであろう。それができれば最強であろうが――していない。いや出来ないのだろう?」
「だ、黙れ!」
「口調が変わっておるぞ? 図星だったかのう? さて今の答えだが正解は出来ぬのだ。恐らく貴様の魔法は相反する力の差が大きければ大きいほど魔力を消費する。そうであろう? 生を死に変えるなどどれだけの魔力を消費するか。まして妾のような圧倒的な存在となれば、ま。不可能であろうな」
「黙れと言っている!」
シムシムが小さな木の棒を取り出すとそこに僅かな火種が生まれそれを投げつける。途端に弱々しかった火が巨大な火柱となりフィーを飲み込んだ。
「燃えて、燃え尽きる!」
「もはやそれは逆でもなんでもないのう」
火柱の中からフィーが姿を見せる。火傷一つ負っておらず、不敵な笑みを浮かべていた。
「くっ――」
「ついでにもう一つ。貴様さっきから魔力を回復しておろう? 少ない魔力を反転させて回復しておると妾は見ておる」
「正解だ。だがそんなことわかったところで貴様には絶望しかないだろう」
「無条件で何度でも回復出来るのであればのう。しかし違うであろう? お主の魔力を妾は感じ取っておる。確かに減った魔力が何度か回復しておるがその度に回復量は減っておる。つまりその力で回復するにも上限があるということであろう? 世の中そう上手くはいかぬのう」
シムシムの口調も変化し明らかな動揺が見られた。自分の魔法が次々とフィーによって看破されていくことで余裕がなくなってきたのだろう。
「……わざわざそんなことを教えてどういうつもりだ?」
「わからぬのか? 妾はもう貴様など敵ではない。だが妾に多少なりともダメージらしいものを与えたのだ。そんな相手をあっさり殺してもつまらんであろう?」
「……舐めすぎ。僕がこれで全力だと思っているのか?」
「なるほど。貴様は拡大解釈によって魔法を強化しておる。ならばもしやと思っておったが、その口ぶりだと拡超魔法も使えるといったところか」
「……お前、どこまで」
「さて、なら妾も遊びはここまでにしておこうかのう」
フィーが真顔に変わりかと思えば右手に燃え盛る炎を、左手に渦巻く業風を生み出した」
「さてこの2つを同時にくれてやったら貴様はどうするかのう?」
「魔法は現れ消える!」
だが、シムシムの魔法でフィーの炎と風は消え失せた。
「ふむ。やはり魔法そのものを消したか。だが大分魔力も減ったようだのう。妾はまだ余裕があるぞ? どうする出し惜しみをして死ぬか?」
「僕の魔力は少なくて無限大――拡超反転魔法・天邪鬼の逆張り!」
フィーの挑発に乗る形でシムシムが拡超魔法を行使した。内に秘めた魔力が爆発的に上昇しシムシムの全身が青いオーラに包まれた。
「ふむ。それが貴様の拡超魔法か」
「そう。そしてこの魔法で制限はなくなった。今の僕ならいくつでも同時に反転させることが出来る。更に今の僕の魔力は無限大」
「なるほど。便利なようだがのう。その状態が永遠に続くわけではあるまい?」
フィーが余裕の表情で指摘する。確かに無限の魔力とは言え制限なしで続けられるとは思えない。
「……この状態でいられる時間はあるようでない。そして効果が解けた後はしばらく魔法も使えない」
「お主も随分とサービス精神が旺盛であるな。わざわざそんなことまで教えるとは」
「……教えたのはお前はもう死ぬから。今の僕は魔力が無限大。そしてお前が自分で言ったのだ。今の僕ならそれが可能! お前は生きてし」
その瞬間だったシムシムの足元が赤く染まり地獄の業火が瞬時にその身を飲み込んだ。フィーの魔法だった。
だがその炎もまた一瞬にして消え去り――代わりに生まれたのは巨大な氷の柱であった。
「――やはりそっちを選んだか。きっと貴様はこの炎を冷えるに関連したものに変換したのであろう? だが貴様が扱えるように妾も拡超魔法ぐらい使える――それによって生み出した煉獄の炎を反転したところで煉獄の氷に変わるだけよ」
そこまで口にしフィーは柱を粉々に砕いた。そう既に勝負は決まっていた。どんな魔法だろうと結果が変わらない術をフィーは用意していた。
勿論魔法そのものを消し去るという手に出る可能性もあったが、その場合は消した瞬間に首が刎ねられていたことだろう。反転魔法は相手が何をしてくるかわかった上でなければ効果を発揮しないのだから――




