第236話 ロベリアと秘書の会話
ホルスと交渉を無事終えたロベリアは、シュデル含めた奴隷を引き連れ砂漠を進む。
危険な砂漠ではあるが相変わらずロベリアの導き出したルートでは魔物や魔獣との遭遇率が低い。
ただこれはロベリアの知識と観察眼があってこそ。ルートもその日の天候などによっても変えている為、他の商人では真似できるものでもない。他に方法があるとすればアリババのように魔導具に頼ることだが、その手の魔導具は決して安くはない為、一般人や商人が頻繁に出入りするというわけには中々いかないだろう。
このあたりはいずれバラムドーラ王国も考える必要があるだろうな、とロベリアは考える。
「ロベリア様、手に入れた奴隷は一体どうされるおつもりですか?」
道々ロベリアの正面に座っている秘書が尋ねてきた。何せ相手は帝国の皇子である。第四皇子ではあるが、その扱いには本来色々と気を遣う筈だ。
「そうね。とりあえず一人責任を取らせないといけない人がいるしね。彼に動いて貰おうかしら」
「責任ですか? それは……」
「私に無断で戦闘奴隷を献上した男よ。いるでしょ一人」
あ、と秘書が思い出したように発する。正直言えばロベリアは知っていて敢えて泳がしていた様子も感じられた。
ロベリアは非常にしたたかな女である。どちらに転んでもいいようにしっかり予防線を張っていた。
もしホルスやその仲間が知ったらいい顔をしないかも知れないが、しかし商人であればいざというときの為にリスクを分散しておくのは当然のことである。
とは言え――バラムドーラの勝利を知ったときのロベリアはどこか嬉しそうに感じられた。だからこそ帝国に関しての動きはあくまで保険であったし、許可した方の奴隷に関してもただでは転ばない女たちばかりを選んであった。
仕えている身でありながらも、一筋縄ではいかない人だなと秘書は考える。
「――ところでその……」
ロベリアをちらりと見つつ、秘書が口ごもる。その様子に、ふう、と息を吐き彼女が先を促す。
「いいたいことがあるならはっきりいいなさい」
「は、はい。では、あのアマネトについてですが、例の件は伝えなくてよかったのですか?」
思い切った顔で秘書がロベリアに問う。するとロベリアが顎に指を添え、ジッと秘書を見た後口を開く。
「剥製王のことね。だけど――そうね、言わないでおくわ。下手に知るともしかしたら自分から関わっちゃうかも知れないもの。折角こうして商売に繋がったのだしね」
「しかし、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。みんな最近少し麻痺してる感覚があるけど、ここは死の砂漠。本来そう安々と来れる場所じゃないわ。手出しのしようがないわよ――」
馬車の外を眺めつつ、ロベリアが呟く――それから数日掛けて首都エルドラに戻ってきたロベリアは先ずアリババ商会に向かいバラムドーラ王国から受け取っていた注文書を手渡した。
「にゃ~助かるにゃ~でも良かったのかにゃ~?」
「仕方ないわ私達にはアリババ商会よりも質のいい魔石を手に入れるルートはないわけだし。ま、その代わり建材や職人に関しては一手に引き受けることが出来たし、奴隷取り引きも出来たから良しとするわ」
ロベリアの話を聞き、アリババが興味深そうに目を細め、顔を撫でた。
「にゃ~つまり捕虜を奴隷として購入したのかにゃ~」
「良く知っているわね。そのとおりよ。それとは別にバラムドーラ側に奴隷の購入もしてもらったわ」
「購入かにゃ~それには少し驚いたにゃ~」
細めた目でジッとロベリアを見据えるアリババ。その意図をはかろうとしたのかもしれない。
「ま、奴隷と言っても制限なしだから普通の住人と変わらなくなるとは思うけど」
「なるほどにゃ~どうやらわけありのようだにゃ~」
「ご想像にお任せするわ」
「――最近、裏絡みで随分とやっきになって奴隷を探している連中がいるという話を耳にしてるにゃ~セイハク島絡みとも聞くけどにゃ~何か関係あるかにゃ~?」
アリババが更に問い詰めようとする。隣に立っているルガールも口出しこそしないが目を光らせていた。
「さぁ? どうかしらね。親しき仲にも礼儀ありよ。互いの商売について必要以上に踏み込むのはマナー違反よ」
「教えてくれたら喉をゴロゴロしていいにゃ~」
「え?」
アリババの提案に一瞬迷いを見せるロベリアだが。
「……駄目よ。とにかく魔石の件は伝えたわよ」
「惜しかったにゃ~」
こうしてロベリアが立ち去る。そして後に残ったのはアリババと静観していたルガールだけだったのだが。
「……喉をゴロゴロですか」
「したいのかにゃ~?」
「め、滅相もない!」
必死にゴロゴロしてみたい衝動に耐えるルガールだったとか――




