第230話 砂漠で悲鳴を上げるロベリア
「ふぅ、仕方ないよね。とりあえず見るだけ見させて頂いても?」
僕も腹が決まった。ロベリアの思惑通りという気がしてちょっとだけ悔しいけど、何もせずにその奴隷が不幸な目にあうのは避けたい。
それに以前のトヌーラ商会に奴隷にされていた皆は今はこのバラムドーラの仲間で国民だ。皆は招き入れたのにロベリアが連れてきた奴隷を受け入れないという理由はないよね。
「ふふ、きっと陛下ならそう言ってくれると思ってましたわ」
「全く調子がいいですの」
『ケケッ、喰えねぇ女だ』
「で、でもやっぱり放ってはおけないもんね」
「ンゴッ!」
「それも愛よね愛!」
皆が三者三様の反応を見せる。まぁでも、何か主導権握られっぱなしというのもちょっと悔しい気も――
――ポトッ。
その時だった。部屋の天井から何かがロベリアの肩に落ちてきた。あれは、サバクゲジだ。砂漠で暮らす昆虫だね。
この手の小さい虫はやっぱりどこかから入り込んで来ちゃうものだよ。
「へ? き、きゃぁああぁあああぁああ!」
すると、突然ロベリアが絹を裂くような悲鳴を上げて椅子から転げ落ちた。
「何だ突然。どうしたのかのう?」
「ひ、ひぃい!」
「ロベリア様! どうかされましたか!」
すると部屋の中にロベリアの秘書が入ってきて駆け寄った。
「あ、ひぃ、ひぃ……」
「こ、こいつめ!」
秘書がゲジをロベリアの肩から摘み上げて放り投げた。
「大丈夫ですか商会長!」
「う、うぅう……」
血の気が引いたように真っ青な顔を見せるロベリアに秘書が声を掛けた。えっと、もしかして――
「ロベリアさんって虫が苦手?」
「全ての虫が苦手というわけではない。細長くて足の多い昆虫が大の苦手なのだ!」
秘書がロベリアの代わりに答えてくれた。
あぁなるほど。言われてみればさっき地下牢で虫を愛でるワズイルには特に反応を見せていなかった。あれはスカラベだったからなんだろうね。
「ふむ、長い虫がのう……」
するとフィーがひょいっと這っていたゲジを摘み上げて、小悪魔的な笑みを浮かべたんだけど――
「お主、随分とやり手に思えたがこのような物が苦手だったとはのう」
「ヒッ! ち、近づけないで!」
「やれやれ、このような矮小な虫の何がそんなに怖いというのか。ほれほれ」
フィーが悪戯っ子のような様相を見せていた。怖がるロベリアを見て何かのスイッチが入ってしまったのかも。
「フィー、彼女も怖がってるしそれ以上は、ね?」
「そうよフィー。可愛そうだよ」
「ンゴッ」
「虫にも愛が必要かしら」
流石にちょっと気の毒にも思うから僕とイシスでフィーを止めた。ロベリアがガクガクと肩を震えさせているし。
「ふむ、ま、この辺にしておくかのう、と、これ暴れるでない、あ――」
フィーの指でゲジがワシャワシャともがき始め、その拍子でフィーの指からゲジがすっぽ抜けてロベリアの胸の谷間に――
「~~~~~~~~ッ!?」
声にならない声を上げて、ロベリアが身悶えた。腰が完全に抜けてしまっているようだ。
「ちょ、大丈夫ですか?」
「あひ、あひぃ、お願いぃ、と、取って……」
「へ?」
思わず近づくとロベリアが僕の足に縋り付きながら胸元を指差してそんなことを――いやいや取ってって!
「ちょ、だってそこは――」
「話はすべて聞かせてもらったぞ!」
するとバーン! とドアが開き、そこに立っていたのは何故かキメ顔のロキだった。
「さぁ坊主、ここは俺に任せてお前たちはどっかにいけ! そしてその大きなおっぱ――」
「お呼びでないですの!」
「云ぬが良い!」
「ふごぉおぉおおおおおお!」
ロベリアに近づこうとしたロキだったけど、モルジアの空間投擲とフィーの風の魔法で吹き飛ばされた。壁突き破ってるんだけど……すぐに砂魔法で直しておいたけどね。
「全く――」
そして、結局ロベリアの谷間に入ってしまっていたゲジはイシスが指を突っ込んで摘み上げ、窓の外から逃してあげていた。
「イシスも女の子なのに結構たくましいわね……」
プールが呟く。彼女はどちらかと言えば及び腰だったから虫は苦手なのかも……
でも、確かにイシスも強いよね。そして意外だったのはロベリアかな。割と女性らしい弱点があったんだね――




