第229話 砂漠で奴隷を見せたいと言われる
ロベリアが奴隷を見せたいと言ってきた。前に奴隷は買うつもりがないと言っておいたんだけど……
「どうして奴隷を見せたいなんて……」
ジト目を向けつつ、彼女に聞いた。
「陛下が奴隷に対して忌避感を抱いているのは承知してますわ。ですがそれを差し引いても見る価値があると思っていますの」
「ふむ、話を聞いているとただの奴隷、というわけではなさそうですな」
スイムが言った。ただの奴隷じゃない……僕からするとどんな種族であれ奴隷にして扱う制度そのものに引っかかる部分はある。とは言えシュデル達は結局奴隷として売ることになってしまったのだけど……
「スイム様のおっしゃられる通り、今からお見せしようと思っているのはただの奴隷ではありません。かなり希少な存在で、もし普通に売りに出したら買い手が殺到し値段がどんどん跳ね上がることでしょう」
「そこまで……」
思わず唸り声を上げてしまう。
「そこまでの奴隷であるというならば、わざわざ王が買わずとも買い手はつくのであろう?」
「確かにそうですの」
フィーが問うように告げモルジアもそれを認めるように相槌を打つ。
「確かにお二人の言う通り、それほどまでの奴隷でありますから買い手には困りません。しかも当然買いたいと申し出てくるものは金銭的にも余裕のある貴族や大商人などが主となるでしょう」
それを聞いてますますわからなくなった。
「だったら何故僕に?」
この国の王となった僕ではあるけど、まだまだ国としての体制は十分ではないし僕自身も未熟だ。
良い悪いは抜きにしても僕にそんな高級な奴隷がふさわしいとも思えないんだけど……
「今回の奴隷に関しては、私としては買い手は出来れば人柄で選びたい、そう思っております」
「人柄、ですか?」
「そうです。確かに売りに出せば相当な金額が動く、これは間違いがない。ただ、高級な奴隷だから必ずしも買われた先で幸せになれるかと言えば、そうでないのが現実です」
「つまり、今話されている奴隷は買われた後も不幸な結果に繋がる可能性が高いと?」
スイムからの質問が飛んだ。
「えぇ。勿論何を持って幸せとするかどうかは人によって異なります。ただこれだけの奴隷になると、たとえは鳥かごのようなところに閉じ込められて自由に外に出ることが許されないような、そんな扱いをされる可能性は低くありません」
「そんなことが……」
「僭越ながら申し上げますと、確かに高級な奴隷についてそういった扱いをされることは少なくありません。高級な奴隷は、社交界で身につけるアクセサリーのような感覚で取り扱われる事が多いので、必要な時以外は大事な物として扱われる……そういったことが往々にしてございます」
これは一緒に話を聞いていたジャハルの説明だった。彼も帝国で長く騎士をやっていたし、帝国は奴隷の売り買いが顕著だった。
だから詳しいのだろうね。
勿論僕も帝国育ちだから奴隷についても知ってはいるけど、それでもそこまで踏み込んだところまでは教えてもらうことはなかった。
でも、物として扱われるというのはやっぱりいい気分はしない。
「勿論、中にはある程度の自由を与える者もいるかもしれません。ですが当然そうではなくそういった奴隷だからこそ逆に嗜虐心に芽生える者もいるかもしれませんし、場合によっては剥製にしてしまうような人間もいるかもしれません」
「え? は、剥製!」
「そんな……いくら奴隷と言っても命を粗末にしていいことにはならないはずです!」
「ンゴッ!」
「愛が全く足りないかしら!」
イシスが叫んだ。ラクやアイも不快感を顕にしている。特にイシスは生命魔法を使うだけに生命というものを人一倍大事に考えているところがある。
だからこそ生きているものを剥製にする行為そのものが許せないのだろう。
「イシス様の言われているように、いくら奴隷とは言え命を粗末に扱っていいわけではありません。ですが、中にはそういった常識が通用しない者もいる――」
すっとロベリアが目を細めた。その時、なんだか急に冷たい感情が滲み出たような、そんな気がした。
「とにかく全員が全員正しいわけではなく、とくに権力者にこそ二面性がある場合が、こういってはなんですが殆どだと思っております」
「……なるほど。それで、王にというわけですか」
スイムが得心が言ったように語る。
「はい。まだまだ短いお付き合いではありますが、それでもわかるほどに陛下は人格者であります。それに奴隷に対する扱いも先の獣人の件などでよく理解しているつもりです。そのような陛下であれば安心して任せられると思い提案させて頂きました」
「……それは僕がことわったらどうなるのですか?」
ロベリアはそんな僕の問いかけに笑顔だけで返してきた。ずるいな。そしてやっぱりしたたかだと思う。
だってそんな風に言われたら僕だってここで無視を決め込むわけにはいかないじゃないか……ロベリアはそれを重々承知な上で提案してきてるんだと思う。
はぁ、本当に、上手いこと乗せられてしまっているようなそんな気がしてしまうよ――




