第228話 砂漠で決めた奴隷売買?
「私がここにやってきたのは、捕虜となるお前たちを奴隷として買うか否かの交渉の為です。助けに来たなどという夢を見ることはやめておくのですね」
トヌーラ商会と聞いて喜んだシュデルだったけど、ロベリアはそれをあっさり否定した。シュデルの目の色が瞬時に変わる。
「な、何だと! 貴様! 高貴なこの私を卑しい奴隷の身分に堕とすというのか!」
「勿論どうするかはこの国の王たるバラムドーラ陛下しだいですが」
「ケッ、何がバラムドーラだ! こんな国、バラバラな無駄ーだ、だ! 帝国に逆らって存続出来るわけもなし!」
な、何かシュデルがしたり顔で語ってるよ。本人は上手いこといったつもりらしい。
「大体どこの国からも認められてない、ハリボテの王国に味方するなんて馬鹿もいいとこだ」
「あらあら、何も知らないのね。バラムドーラ王国はエルドラド共和国が正式に国と認めたところよ」
「な、何だと!」
シュデルが驚きに満ちた目でこっちを見てきた。信じられないといった様子が感じられる。
「馬鹿な! 正気か! エルドラド共和国は我がマグレフ帝国の属国だろう! それなのにこんなふざけた馬鹿の治める無能の集まりを国として認めるだと!」
エルドラド共和国が属国って、そんな話少なくとも僕は聞いたことないけど。
「やれやれ随分とエルドラドも舐められたものですね。確かに以前のマグレフ帝国は勢いもあり商売相手としては上客だったと言えたでしょう。しかし、今となってはそれも過去の栄光。すっかり落ち目となったマグレフ帝国に比べれば、資源の豊富なバラムドーラ王国に魅力を感じるのは当然のことと言えます」
「お、落ち目だと! しかもこんな弱小国より劣るだと!」
シュデルが歯をむき出しに怒りを顕にしていた。あそこは自分の国こそが一番と信じて疑っていないような国だ。しかもシュデルを含めた兄弟達も大体同じ考えを持っている。
とは言え――ロベリアに褒められたからと浮かれてはいられないね。むしろ資源が眠ってるからこそ価値があると思われているだけでそれがなくなれば容赦なく切り捨てられるということが今のやりとりの中でも示唆されている。
ロベリアもそれを隠すような真似はしていない。そういう意味では僕もこの国も試されていると言えるのだろう。それは今もこれからもだ。
「糞が! テメェら覚えておけ! この俺様にこれだけの屈辱を与えたんだ! 親父は必ず報復に乗り出す! 絶対だ! そうなったらお前ら全員皆殺しだ! ただでは殺さねぇあらゆる責め苦を与えさせてから見せしめにして殺してやる! ギャハハハハハ!」
牢の中で馬鹿笑いを始める……結局シュデルがかわることはない。わかりきっていたことだ。他の騎士や兵士に関しても怨嗟のこもった瞳で僕たちを見ている。
やはりずっとこのままここに閉じ込めておくわけにはいかないだろう。ケアは喜ぶかもだけど、国で暮らす皆だって敵として攻め込んできた彼らをこのまま残し続けてもいい気持ちはしないだろうし。
「……こちらの情報を一切漏らさないこと。バラムドーラ王国に一切不利益がないこと、それを誓って頂けるならロベリアさんの提案を受けたいと思います」
僕がそう伝えると、ロベリアが微笑み、奴隷として購入することを承諾してくれた。
シュデルがギャアギャアと煩いから、その後は別室に移動して交渉を進めることにしたんだ。
「ご決断頂きありがとうございます。勿論、今後も良いおつきあいをさせていただくつもりですし、あの奴隷たちはしっかり管理した上でそれ相応の扱いをさせていただきます」
「ふむ。どうせなら自分のやったことを後悔するぐらいの処遇を頼むぞえ」
フィーが、ふふ、と黒い笑みを浮かべながらロベリアに要求した。それにニコリと微笑んで返すロベリア。
此処から先のことはロベリアの商会に一任することとなる。
「さて、当然購入する以上、こちらも対価を支払う必要がありますが――」
「それですが、元々トヌーラ商会の奴隷たちについては――」
「勿論それもこちらが買い取ります。一度はこちらの手を離れてますからね」
もしかしたら返却を要求してくるかなと思ったけど、ロベリアはしっかりそれも支払ってくれるつもりらしい。
「それでしたら、手配していただいた建築商会の費用で融通してくれるといいと思いますですの」
「勿論それも考えております。それには当然私どもにこの国の建築を任せて頂ければということになりますが――」
確かに。ただここまで来たらよほどのことがない限りは頼むことになりそうだけど――
「ですが、それだけではこちらとしても心苦しいです。やはりこちらからもなにかでお支払いの代わりにと思ってます。そこでどうでしょう? 等価交換というわけではございませんが、陛下に私どもが用意した奴隷を見ていただきたいのですが?」
へ? ちょ、いきなりのことで僕も一瞬思考が
止まったよ!
「いやいや! 確かにシュデル達は奴隷としての交渉に応じましたけど、流石に奴隷の購入までは考えておりませんよ!」
「そうおっしゃらず。せめてひと目だけでも」
「……お主、少々調子に乗りすぎではないか? 王は本来奴隷制度は否定しておるのだぞ?」
「そうです。あの馬鹿を売ることはともかく、購入となると話は別ですの」
そうだ。前も言ってる通り、僕は奴隷制度そのものを国内で浸透させるつもりはないんだ。それなのにどうして……?




