第227話 砂漠で悩む奴隷取り引き
「妾も悪い話ではないと思うがのう。もっともこれは王の決めることであろうが」
話を聞いていたフィーが助言のように伝えてくれた。ただ、あくまで決定するのは僕だ。それは他の皆も一緒だろう。
ただ、一度は奴隷を否定しているのに、そんなに簡単に考えを覆していいものか……でも、このままただ黙ってシュデル達を置いておくわけにはいかないのも確かだし彼らが改心するのに期待するというのも何か違うだろう。期待薄というのもある。
「陛下、私如きが意見するのもおこがましいと思いますが」
「いや、出来るだけ多くの意見を聞きたいから忌憚なく聞かせてもらえると嬉しいかな」
ジャハルが申し出てきたので話してもらうよう返事した。やっぱり出来るだけ多くの話は聞いておきたい。
「それでは、トヌーラ様も宜しいですかな?」
「構わないわ。ただ、これはお願いになるのだけど、私のことを呼ぶときは下の名前、ロベリアで呼んでくれると嬉しいかしら」
「ふむ。ではロベリア様で?」
「ありがとう。話が早くて助かるわ」
微笑混じりにロベリアが答える。名前で、もしかしてトヌーラの名前はあまり好きでないとか?
「さて、私としてもシュデル一行はこの国に残しておいても良い結果につながらないと考えております。ですので奴隷としてロベリア様の商会に売り後を任せるというのは良いと思いますが、問題はその後です。奴隷として売った後に情報が漏れたりマグレフ帝国側に有利になるような結果になっては意味がありませんので」
なるほど……元帝国騎士のジャハルはそういうところにも良く目を光らせてくれている。
「それは勿論わかっております。それに先程も申し上げたように、私達は今後もここバラムドーラ王国とは末永くお付き合い出来ればと考えております。それである以上、王国側にとって不利益に成るようなことは致しません」
僕たちに向けてロベリアが断言してくれた。嘘を言っているようには思えない……
「約束は守りますわ。如何でしょうか?」
「う~ん……」
どうしようか、やっぱり色々考えてしまう。
「簡単な話ではありません。悩みもするかとは思いますが――」
僕の気持ちを見透かしたようにロベリアが口を開いた。確かに迷いはまだあるかな……
「折角ですので、一度捕虜を見せては頂けませんか? 私としても興味はありますので」
「……そうですね。とりあえず見てもらう分には……」
よく考えてみたらあのシュデルが相手だ。ロベリアも見たら気が変わるという可能性もある。
「じゃあ私は陛下と捕虜の様子を見てくるから、あの子のことをしっかり見ていてね」
「はい。お任せを」
そして馬車の前に残った護衛にそう伝えてロベリアが後に続く。でも、あの子? 誰か同行しているのかな?
とにかく、地下牢まで一緒に向かったのだけど。
「あん? おいおい随分と旨そうな女がやってきたじゃねぇか。お前も少しはこの俺様に対する扱いってのがわかってきたようだなぁ」
牢屋についた途端、シュデルはこれだ。舌なめずりまで見せているし、何か捕まる前よりガラが悪くなった気がする。
一方ワズイルは大きな口吻の長い蟲と戯れ、何か繭に包まれているような……
「あぁ幸せだ! 私はとっても幸せだ!」
――チューチュー
うん。そうだみなかったことにしよう。
「あらあらうふふ。また随分と元気そうね。そんな腕なのに」
ロベルトが興味深そうにシュデルを見ていた。確かにシュデルの今の腕はうねうねした何かだった。何これ……
「は! なんならこの腕でテメェを昇天させてやってもいいんだぜ?」
「全く滑稽ね。自分の今の立場を理解することもなく、一体いつまで王様気分?」
「なんだと! テメェ! 俺が誰だかわかってるのか? おいテメェ、こいつ一体誰だ!」
シュデルが随分と偉そうに僕に聞いてきた。これだからずっとここに入れっぱなしだというのに。
「私はロベリア。貴方にはトヌーラ商会の商会長と言えば理解出来るかしら?」
「何、トヌーラだと! は、はは、そうか! そうかそうか! お前、親父に頼まれたんだな! そして俺を助けに!」
シュデルが鉄格子に手を掛けて詰め寄った。だけど、本当に自分に都合のいいことしか考えられないんだね。モルジアも呆れ顔だよ。
「ちょっとまて! 待ってくれ、トヌーラ、トヌーラ商会が来てるのか!」
すると今度は別の牢屋に入っていた男たちが声を掛けてきた。彼らは最初に僕たちに捕まった犯罪奴隷たちだ。
「あら、貴方達はうちの……」
「そうだ! 元々トヌーラ商会で扱われていた奴隷だよ!」
「……ふふ、やっぱりそういうことね」
うん? 今の奴隷たちの発言にも少し驚いたけど、ロベリアも何かに気がついている様子だ。
「陛下、申し訳ありません。どうやら手違いがあってうちの奴隷が帝国側に売られていたようです」
「あ、そういうことなんだね」
冷静に考えれば奴隷なんだから帝国に売った商人がいるということになる。それがトヌーラ商会だったわけか。
「そうだ! そいつらはアングルってトヌーラ商会の男が帝国に献上してきた奴隷だ。つまりその女もこっち側の人間ってことさ。それにも気づかず馬鹿な野郎だよお前は」
「あらあら、帝国の皇子には随分と知恵の周りが悪い方もいらっしゃるのね」
「何だと?」
ロベリアがシュデルに挑発的な視線を向ける。シュデルはロベリアが自分の味方と思っているようだけど、どうみてもそういう雰囲気じゃないよね――