第205話 砂漠で話し合い
「ふぅ、運がいいんだか悪いんだか――」
砂漠の王国バラムドーラにて、身体検査を終えたアンラキはホッと一息つき、小さく呟いた。
彼を含めた三人は砂漠で魔物に襲われ危機に直面していた。だが、アンラキが幸運魔法を使った直後、水の竜団によって救われた。そこまでは幸運だったと言えるが、その後は彼にとって不運とも言えた。
水の竜団などという冒険者パーティーがなぜ危険な砂漠に居たのか、気になってはいたが、どうやらホルスが建国したバラムドーラに所属する冒険者のようなのだ。
確かにアンラキは、リスリーを助けるために敢えて追放された皇子の懐に入る必要もある、と判断したが、このタイミングは想定していなかった。
当然だが、表から入り込むにはそれ相応の準備が必要だ。帝国軍所属だとバレないような作戦も必要になってくるだろう。
だが、この状況では出来ることにも限度がある。かといって今のリスリーを抱えている状況下では、一旦離れるというのも不自然だった。スイムも一緒にくれば助けになれるかも知れないと言ってくれていたのだ。
後でどちらにしても入り込む必要がある以上、ここで厚意を断るのでは筋が通らない。仕方がないのでアンラキはそのまま付いていくこととなったわけだ。
途中アンラキが思ったのは、やはり警戒されているということだ。国まで同行させてくれたのは一旦離れてしまい裏で何かしら企てられるよりは、監視下に置いておいた方がいいと考えたからなのかも知れない。スイムという男からはどことなく油断ならない空気も感じていた。
どちらにせよ、砂漠の国には元帝国兵も多くいると聞く。ケモナルもリスリーもまだ若い騎士であり、ホルスを相手した兵隊の中にも特に知り合いはいないと聞いているので正体に気づかれる可能性は低いと思うが、仮にも准将であるアンラキについてはそうもいかない。
一応はそこまで多くの知り合いはいないつもりだが、これでも将軍の端くれだ。見て全く気づかれないとは断言しにくい。
だからこそ、アンラキは再度幸運魔法を使った。他に選択肢はなかったからだ。その結果――運良く彼を知る人物には遭遇せずホルスとも顔を合わせる事ができた。
勿論ホルスはアンラキを知らない。これはアンラキも理解していた。妹のモルジアにしてもだ。直接会ったのはこれが初めてだからだった。
その後、リスリーについては危うい場面もあったが、ケモナルが機転を利かせて上手いこと意識だけ刈り取ってくれた。あの場で余計な事を言われていたら作戦が破綻するし、リスリー自身が危ない。
その後の身体検査も上手く切り抜けた。咄嗟だったとはいえ、トレジャーハンターということにしたのが幸いした。所持していた武器や魔剣回収の為に持ってきていた魔法の袋も余計な真似はせず素直に所持品として提出した。
危険な砂漠だ。武器の所持はおかしなことではないし。トレジャーハンターなら財宝を見つけた時の為に魔法の袋を持ってきていたと言うことで筋は通る。
冒険者ではなくトレジャーハンターということにしたのも良い判断だった。もしこれで冒険者だと言っていたなら冒険者証の提示を求められた筈だろう。
だがアンラキを含めた三人は当然そんなものを持っていない。三人が揃って冒険者証を持っていなければ怪しまれるのは間違いがないだろう。
とは言え、トレジャーハンターもとりあえずのごまかしなのは確かだ。ボロが出ない内に策を講じる必要がある。
もっとも先ずはその前にリスリーの治療が先決なのだが――
◇◆◇
アンラキのことはアイン達に一旦見てもらっておいて、僕たちは別室で話し合いを行った。
「身体検査の結果だが、帝国関係者であることは確認できなかった。また装備品や魔法の袋を所持していたが、トレジャーハンターであるというのが本当なら特におかしいとも言えないだろう」
身体検査の結果を皆から聞いていた。先ず説明してくれたのはスイムだった。
「あの連中は冒険者ではないと言っていたのであろう? しかしトレジャーハンターとやらをやっていて冒険者ギルドに所属していないなんてことがありえるのかのう?」
「なくはないよ。私の知り合いにも何人かいる」
話を聞いていたフィーが疑問を投げかける。お宝を求めるという点では確かに冒険者にも通ずる物があるけど、ただ。そういう人がいないわけじゃないことはアローネが答えてくれた。
「トレジャーハンターってのは財宝集めだけに生きがいを感じている連中がやるものなのさ」
アローネに続けてサーチが説明を付け加えていく。
「冒険者は確かにお宝にも目がないが、仕事の種類は多い。財宝集めだけしていても評価されない。ギルドのルールとかそれなりに縛りもあるから、そういうのを嫌う連中は敢えて登録しないでハンターとして生きるってのはよくあるのさ」
なるほどね。財宝集めだけをしたい人にとっては冒険者ギルドに登録しても煩わしいことが増えるだけという感覚なようだ。
「ですが、安易にその話を信用するのも危険だと思います」
「そうにゃん。冒険者なら証明証があるからまだわかるにゃん。だけどトレジャーハンターはどこにも所属していないから嘘か本当かはわからないにゃん」
ルガールとペルシアが言う。二人とも警戒はしたほうがいいという考えなようだ。恐らくそれに関しては皆同意だと思う。
「でも――病で苦しんでいるのは確かだし、助けを求めているなら放ってはおけないよ」
「ンゴンゴッ!」
イシスが伏し目がちに言う。ラクもイシスに賛同するかのように鳴いて訴えた。
「愛よね愛! 愛を教えて改心させるかしら!」
「改心と言ってもまだ悪事を働いたわけではありませんですの」
『ケケッ、働いてからでは遅いだろう?』
イシスの肩の上で愛を語るアイ。でもモルジアの言う通りまだ何かされたわけじゃないし、カセの言うように何かがあってからでは遅いかなと思う。
「お取り込み中のところ悪いのだけど、病魔の正体が判明したわ」
するとケアが入ってきて、検査が終わったことを教えてくれた。
だから皆に一旦どうしようかを僕の口から伝える。
「とにかく、病人の治療を先ず第一に。だけど、警戒は緩めないようにしておこう。疑いたくはないけど、もしもということもありえるからね。基本的には目を離さない方向で」
「ス~!」
「わかりました陛下」
「ふむ。まぁいざとなったら妾が消し炭にしてくれようぞ」
「フィーは加減を知らないから心配なんだけど……」
「愛が必要ね! 愛よね愛!」
「お兄様、私も油断致しませんですの! フィーがやりすぎる前に私が拘束しますの!」
『放っておくと国全体が消し炭にされそうだしな』
「お主ら、妾を何だと思っておるのかのう?」
「ンゴゥ……」
フィーはちょっと納得がいかないって顔ではあったけど、とにかく、リスリーの病についてケアに聞くことにした――




