第201話 砂漠で捕まった皇子
「あ~王様~どうかしましたか~?」
地下牢に下りると、白衣を着たケアが笑顔で出迎えてくれた。アリババ商会から購入しておいた眼鏡を最近はつけているね。クイッと押し上げる姿が妙に様になっているよ。
「うん。ちょっと捕虜になってるシュデルやワズイルの様子を見にね」
「そうだったのですね。でしたら先ずはワズイルを見てやって下さい。かなり面白いことになってますよ」
面白いこと? 一体何だろうと思ってワズイルが留置さている牢屋を見てみた。
「えへへへ~可愛い、あぁぁあ、愛しいよぉ、最高だぁなんて、なんて可愛いんだぁ。ぐへへぇ~」
「……えっと」
見ると、ワズイルはスカラベを手に乗せて愛おしそうに頬ずりしていた。お尻にキスもしていた。そのすぐ近くでは丸めたフンをコロコロと転がすスカラベの姿があった。
「あぁ可愛い! 凄く可愛い! 愛おしい! あぁ、スカラベは最高だぁあぁあ!」
「……ケア、これは一体?」
「ワズイルはモルジア様にも捻じくれた愛情を持ち、それに幼い子どもばかりを狙って口では言えないようなことも……そんなことを平気でするとんでもない男でした」
う、うん。それは知ってる。ケアの薬で色々と性癖というか、そういうのも全て曝け出したのだけど、聞くに堪えないものだったからね。
「なのでこれを病気と判断し、今後被害者が増えないよう薬による実験、いえ、治療を施したのです。結局ロキには使えなかったし」
「え?」
「あ、いえ。とにかく、その結果。治療は成功したのです」
「せ、成功?」
僕は改めてワズイルを見る。
「あぁ、スカラベが私に贈り物を! 旨い、これは旨いぞぉおぉおぉぉぉおおお!」
うぷっ……これはちょっと……キツい。
「ケア、その、成功なのこれ?」
「はい♪ ワズイルの幼気な少女に対する愛情は見事、虫への愛情に切り替わりましたから。特にスカラベはお気に入りのようですしね♪」
凄く機嫌よくケアが答えてくれた。ケアは錬金術師なんだけど、最近ちょっと危険な匂いが漂って来た気もする。
ただ薬を作成する腕は確かなんだよね。イシスの生命魔法も優秀だけど、例えば毒の治療や病気に治療となると生命魔法だと治せないこともある。そういう時にケアの錬金魔法で出来る薬が頼りになる。
ただケアによるとよりよい薬を生み出すためには色々と実験も必要らしい。治験ができるとなお良いとか。治療のためだからということなので任せてはいるけど、ただ詳しいことは僕にもわからないんだよね。
で、その結果が、これなんだ……でも確かにこれまでの行為を考えたら、この方がまだいい、のかな?
「あぁ愛しい! 愛しいぃいぃいいい!」
「……いいのかな?」
「少女好きが虫好きになっただけですから。寧ろ健全化ですよ♪」
「ふざけんなテメェええぇええええええ!」
するとシュデルの叫び声が地下牢に響き渡った。シュデルの入っている牢屋を見てみると目を血走らせて歯ぎしりして格子を殴りつけていた。
「テメェこのくそ医者! さっさと右手をつけろと言っただろうが糞雌豚がぁああぁあ!」
シュデルがタコの触手みたいな右腕を振り上げて怒鳴った。凄くうねうねしている。
「だからつけて上げたじゃない。右腕」
「タコの腕だろうがぁああああああ!」
シュデルが怒鳴り散らす。凄い怒っているよ。
「腕は腕じゃない」
「ふざけやがってふざけやがって!」
「もう、文句ばっかりよね。この間つけたイカの腕も嫌だといったし」
「対してかわんねぇだろうがぁああぁああぁあああ!」
シュデルは不満そうだ。同じ触手でもタコとイカじゃ結構違うけどね。
「なら今度はカマキリの鎌でもつけようかぁ~? 凄くかっこよくなるかもよぉ」
「ざけんじゃねぇぞぉおぞおおお! 人間の腕をつけろやこら! 俺を誰だと思ってやがる! あとで覚えてろよ! 簡単には殺さねぇ! 触手でやりまくって滅茶苦茶にぶっ壊してから殺してやる!」
凄いな。シュデルは全く変わりがない。一応捕虜として捕らえられているんだけど、とても偉そうだ。
「おい愚弟! テメェはそんなところから俺を眺めて随分と楽しそうだけどなぁ!」
「別に楽しくなんてないよ。ただ、少しは変わってくれたらなとは思ったんだけど」
「ざけんな! こんな腕にしやがって!」
いや、そういう見た目の話ではないのだけど……
「ふん。そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちだけだ。俺は帝国にとって大事な皇子だ。お前みたいな出来損ないと違ってなぁ~。いずれ帝国軍が俺を助けに来る。そうなったらこんなゴミみたいな小国はあっさりと滅ぼされるのさ! ギャハハハハハ! テメェらは全員終わりだ! 終わりなんだよ!」
「…………」
僕はそのまま地下牢を出た。結局敗北してもシュデルはシュデルのままだった。
「王よ、もしかして地下に行かれていたのですか?」
上に戻ったところでシャハルに声を掛けられた。元帝国騎士の彼は今はバラムドーラの騎士として活動してくれている。
「うん。シュデルの様子を見にね」
「左様でしたか。それで如何でしたか?」
僕はシャハルにシュデルが言っていたことを伝えた。
「なるほど……確かに皇族となれば、それを理由に攻めてくる可能性はないとは言えませんな。ただ、どちらかというと帝国は魔剣の回収をメインに考える可能性がありますな」
「魔剣?」
「えぇ。奴の持っていた魔剣の数々は帝国からしても失うには惜しいものばかり。特にカラドボルグなどは――」
なるほど。そのカラドボルグはイシスの生命魔法によってイシスを主君と仰ぐようになったのだけどね。
「とにかく帝国の動向には気をつけた方が宜しいかと。そろそろ西側に砦の一つでも建造することを考えるべきかもしれませんな」
砦か……やっぱりそういう話にもなってくるんだね。もしマグレフ帝国が本格的に動き出してきたらこちらも受け身ではいられないし――
それにしても、シュデルの件で帝国がどんな手に出るか――
「王様~~~~~!」
僕とシャハルが話していると、メルの声が割り込んできた。見ると大きな胸を揺らしながら、相変わらず凄い……その、メルが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「そんなにあわててどうされましたかな?」
シャハルもメルの様子が気になったようで理由を聞いてくれた。
「えっとね、砂漠に出ていた水の竜団の皆が戻ってきたの。そしたら、途中で魔物に襲われていた人たちを助けたみたいでね!」
え? つまり、砂漠に新しい人の姿があったということなんだね。
「うん。ありがとうメル。なら様子を見に行かないとね」
「お付き合いしましょう」
「ありがとうシャハル」
そして僕たちは助け出された人の様子を見に向かった――




