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砂魔法で砂の王国を作ろう~砂漠に追放されたから頑張って祖国以上の国家を建ててみた~  作者: 空地 大乃
第五章 砂漠と帝国の刺客編

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第197話 たった三人での砂漠の行進

 シュデル達の救出のためにアンラキはスリーマンセルでの砂漠の移動を続けていた。余計な戦闘を少しでも避ける為に、獣化したケモナルの鼻が頼りとなる。


 だが、それでもどうしても戦闘が避けられないこともある。今彼らは砂漠のハンターである蠍の魔物と対峙していた。


 砂漠にはこの手の魔物も多い。そしてこの蠍は紫色の甲から飛び出たぎょろぎょろした目玉が特徴でもあった。


「蠍系の魔物はほぼ毒を持っていると見ていい。あの尾には注意だ」


 アンラキが警戒するよう呼びかけると、ケモナルが黒豹形態に姿を変えた。ケモナルがなれる獣ではもっともスピードに優れている。


 接近すると蠍はリーチの長い尾で攻撃を仕掛けてきた。人とそう変わらない大きさの蠍は尾のリーチも長い。柔軟な動きが可能な尾であり、どの方向にいる相手にも攻撃を仕掛けられる。


 しかし、黒豹状態のケモナルを捉えるには少々スピードが足りない。瞬時に肉薄しケモナルが爪を振るった。


 だが、カキンッという金属のような響き。蠍の装甲は硬い。一方でスピード重視のケモナルではこの装甲を破るのは厳しそうだ。


「……なら目を狙う」

  

 正面に回り込み、むき出しの眼球を攻撃しようとする。


「待て! その目から嫌な予感がする!」


 アンラキが叫んだ。攻撃を仕掛ける直前にケモナルが大きく飛び退いた。直後巨大な鋏が空を切る。


「試してみるぜ」


 アンラキが腰から折りたたみ式の武器を取りだした。開いて使用する金属でできたブーメランだった。



「よっ!」


 軽いノリでアンラキがブーメランを投げつけると、一旦明後日の方向に飛んでいくも、軌道を変え、横から二つの目玉を纏めて切り裂いた。


 途端にボンッ! と眼球が弾け、紫色の液体が飛び散った。液体が染み付いた砂からはジュジュ~と焼けるような音がした。


「やはり弱点に見せかけた罠だったな」

「……すまない。助かった」


 いいってことさ、とアンラキが微かな笑みを浮かべる。幸運魔法を扱えるアンラキは勘が鋭い。なんとなく嫌な予感がするときは大体そのとおりになる。


「ハァァアアァアアア!」


 猛々しい声が聞こえる。アンラキが見ると、槍を構えたリスリーが蠍に突っ込んでいくところだった。


 彼女の得意武器は槍だった。砂漠では邪魔になりそうだが、分解が可能な為、移動中は細かく分けて持ち歩いている。


 戦闘時に組み立てる必要はあるが、先端部分だけでも短槍として扱えるようにはなっているタイプだ。今はしっかり組み立てて使用しており随分と勢いも乗っている。


「はぁあああ!」

「―ギィ……」

 

 蠍の呻き声が聞こえ槍がズブズブと中に入り込んでいった。


 蠍の装甲は硬い。だが継ぎ目となる部分であれば比較的柔らかく、リスリーはその一点に狙いを絞り槍を突き刺した。


 もっとも例えそこが柔らかいと言っても、非力な女性でどうにかなるものではない。本来ならばだが――


「ふぅ、なんとか倒せました」

「なるほど。それがお前の解除魔法の効果か」


 汗を拭い、振り返るリスリーを感心したように見やるアンラキ。顎に指を添え得心の言った顔で彼女の魔法を評した。


「えぇ。私の魔法は自分に限り解除の幅が広がります。今みたいに自身のリミッターを解除したり、などですね」


 人は自然と行動に制限(リミッター)を設けている。もし制限がなければ自分自身を傷つけることになるからだ。生身の人間が加減なしで思いっきり鉄を殴れば拳が砕けるように、また加減なしで魔力を放出すればすぐに魔力が枯渇し死に至るように――そういった事態を避ける為に人は無意識に己をセーブしている。それをリスリーは魔法で解除できる。


 ただしそれには勿論リスクもある。だからこそリスリーは使用武器に槍を選んだのだろう。長柄の槍であればリミッターを解除した後でも攻撃を行った時の衝撃は軽減される。


「体は大丈夫か?」

「問題ありません。自分の魔法の扱い方ぐらいは心得てます」

「それならよか、しまった!」


 アンラキが叫ぶと、え? とリスリーが目を点にさせた。その背後からは蠍の尾が迫っていた。


 まだとどめを刺しきれていなかったのである。一瞬早くアンラキが虫の知らせを感じたが、これもタイミングはマチマチだ。かなり直前になって発揮されることもある。


 どちらにしてもこのタイミングでは間に合わなかった。


「仕方ない!」

 

 アンラキが手を広げ魔法を行使した。リスリーの運を少しばかり上昇させた。


「キャッ!」


 リスリーが悲鳴を上げ砂の中に下半身が埋もれた。だがそのおかげで背後から迫った毒の尾が彼女の頭上を通過する。


「ウォオォオッォオオォオオオ!」


 犀の姿になったケモナルが蠍に向かって突撃した。完全な獣化だ。単純な突進力ならこの状態の方が優れている。


 その雄々しい角がリスリーの槍で負傷していた箇所に突き刺さった。ズブズブと角が食い込み反対側の装甲を貫き、そのまま持ち上げて放り投げる。


「ふぇぇえ~凄まじいパワーだねぇ」

「…………」


 ケモナルは無言で元の姿に戻った。


「……意識がリスリーに向いていたのと、槍の一撃があったからだ。俺だけだと厳しい相手だろう」

 

 静かに語るケモナル。自分が助けたなどと慢心したりはしないのは良いことだとアンラキは思った。


 確かに今の直線的な動きは本来なら蠍にとっていいい的でしかない。虚をつかなければまともに当てるのは厳しいだろう。


「あの、少し手を貸してもらってもいいですか? その解除魔法の効果が切れて――」

「あぁなるほど」

 

 どうやらリミッター解除は効果が切れるとその負担が一気に使用者にのしかかるようだ。


 穴からリスリーを助け出し、怪我がないか確認したが特に問題はなさそうだった。


「今のが幸運魔法なんですね。おかげで助かりました」

「ま、役だったなら何よりだ」


 とりあえずは安堵するアンラキだったが――移動を再開させて間もなくしてリスリーが熱を出して倒れることとなるのだった……

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