第190話 砂漠で勝利の宴を
「う、う、んぅ、ちょっとだけ、痛い、王、様」
「ご、ごめんねもっと優しくするから」
「あ、そんな、初めてで上手く出来ないのが悪いから……」
「そんなことない。大丈夫だから、もっと僕に身を委ねて、ね?」
「は、はい、ひ、ひゃん! そこは、だめですぅ」
うん、というか。
「その、キララ。もう少し普通にしてくれると嬉しいのだけど……」
「え?」
女性陣の湯浴みが終わり今度は僕たちが温泉に入る番だった。それで皆にも普段からお世話になってるから僕も背中の一つでも流そうと思ったんだ。
で、今はキララの背中を流してるんだけど、声が、ただでさえ女の子っぽいのに、背中を流してる僕が恥ずかしいぐらいだよ!
「ご、ごめんなさい王様。僕あまりこういうの慣れてなくて……」
「い、いやいいんだよ。ごめんね変なこと言っちゃって!」
何か逆に気を遣わせちゃった気がするよ! これがキララの普通なんだし、逆に僕がきっと変なんだ! 落ち着け僕!
「坊主、キララと言ったな?」
「は、はい……」
僕が気持ちを落ち着かせているとロキがやってきてキララを見た。何故だろう? そこはかとなく嫌な予感がする。
「お前、ちょっとおっぱいつけろ」
「えぇ~~~~~~!」
やっぱりだよ! 本当に見事に期待を裏切らなかったよこのドワーフ!
「坊主! お前の砂魔法でこいつにおっぱいをつけるんだ!」
「全力でお断りします」
「何故だ!」
くわっ! と両目を見開いてロキが言ったけど、何故だも何も当然だよ!
「いいか? 元が男のキララならおっぱいがあってもきっとこの輪っかも反応しないはずだ! 事実反応していない!」
「自信満々に何馬鹿なこと言ってるんだおっさん」
お湯に浸かってるライゴウが声を上げる。確かにこんな馬鹿げた話もないよね。
「何が馬鹿なことだ! 大体ライゴウ! 貴様だって、何かだんだんと妙な気分になってきたぜ、とか言っておっただろうが!」
「な! そ、そういうことバラすんじゃねぇよ!」
「ふぇぇん。王様~」
遂にキララが僕の背中に隠れてしまった。ものすごく怖がってるよ……
「おら、ロキが何を言ってるかいまいちわからないだ」
「ジャック、貴方は純朴な貴方のままでいてください」
スイムが僅かに微笑みながらジャックに伝えていた。そうだね。本当ロキにはジャックの爪の垢でも煎じて飲ましてあげたいよ。
ふぅ、とにかくキララの背中を流してあげて、次はアインにもね。
「お、王にお背中を流して貰うなど! 光栄の極み!」
「大げさだなぁ」
アインが何故か涙を流していたよ。ちなみにアインの場合鎧がそのまま体と一緒だから背中を流しているという感じは薄かったりする。
「いやいや、普通はなかなかないぜ。逆に王が流して貰うならわかるけどな」
「確かにな。何か悪い気がするぜ」
ライゴウとサーチが言った。勿論二人も流してあげたよ。
「クリムゾンさんも」
「お、俺もか?」
クリムゾンを含めたパピルサグ族にもお世話になってるからね。こういう時にせめてもの恩返しだよ。
というわけで、ロキは暴走気味だったけど、とにかく男性陣もさっぱりして温泉から上がることが出来た。これは簡易のだけど、ロキが自由に入れる浴場を作ってくれるのなら嬉しいね。
「それでは、勝利とバラムドーラ王国と末永く良い関係が築けることを願い、乾杯だ!」
「「「「「「「「「「かんぱーーーーい!」」」」」」」」」」
宴が始まった。乾杯の音頭はクリムゾンが取ってくれたよ。そして呑めや歌えの大騒ぎになった。
「いて、いてぇえぇえ! 畜生! ちょっとおっぱいをガン見しただけだろうが!」
「いい加減ルガールをいやらしい目で見るのやめるにゃん」
「全く懲りないやつだ。明日になったらその性根を叩き直してくれる!」
「くっ、満月の今宵しかチャンスはないと言うのに! これがすぎればぐぉおぉおおおぉおお!」
ロキが頭を押さえてもがき苦しんでいた。何かだんだんとこの光景が当たり前に見えてきた気がする。ロキもいい加減諦めればいいのに……
「王様!」
やれやれという思いでロキを見ていると、クリムゾンの妹であるマインが駆け寄ってきたよ。
「王様、私と皆のことを助けてくれてありがとう」
そして改めてお礼を言われた。ちょっと照れくさかったけど、マインがもじもじしながらしっぽを抱きしめてこっちを見ていた。
何か凄く可愛らしい。でも、なんだろう? 何かまだ言いたそうにしているような?
「お、王様、あのね……」
「うん?」
「わ、私を将来王様のお嫁さんにしてください!」
「へ? えぇええええぇえええ!」
そして、唐突にそんなことをお願いされてしまったよ! お、お嫁さんって……
「駄目?」
「いや、その、えと……」
上目遣いで返答を求められた。いや、駄目と問われても、こ、困っちゃうな。こんなこと言われたのは初めてだし、ってマインはそもそもまだ幼い女の子だし!
「盟友ホルスよ! マインは俺の、俺の大事な妹だ!」
どう答えていいかと悩んでいたところにクリムゾンがやってきた。そ、そうだよ。クリムゾンは妹のマインを溺愛している。それなのに許すわけが――
「だからこそ! ホルスになら安心して任せられる! 我が妹を貰ってやってくれぇええぇえええぇえ!」
「えええええぇえええぇええぇえええ!?」
許さないどころか寧ろお願いされたよ! 何か泣いてるし、顔も赤いし、赤い? もしかしてもう大分酔ってる?
「そんなの駄目ですの!」
モルジアの声が響き、僕の前に立った。
「愛しのお兄様は誰にも渡しませんですの!」
堂々とマインに向けて宣言するモルジア。えっと僕の為を思って言ってくれてるのかな?
でもちょっと大人げない気も……
「むぅ、これはおとことおんなの問題なの!」
「私も女ですの」
「でも、妹さんなの!」
「好きに妹も兄も関係ありませんの!」
「か、関係ないのかなぁ?」
「ふむ、小娘壱号は弐号と蠍号の動向が気になる様子であるのう」
「べ、別に、というか蠍号って何ですか!」
向こうではイシスとフィーが言い合ってるよ。でも、それはそれでいつものことなのかもしれない。
「待って待って待ってええぇええ!」
「ガウガウ!」
今度はオルトに乗ったプリティがやってきたよ!
「王様のお嫁さんには私がしてもらうの!」
「えぇ~~~~!」
プリティまでそんなことを言い出したよ! えっと、これは何? 新たなドッキリ?
「皆楽しそうだなぁ~」
「そうだよね~」
向こうではジャックとラビアが並んで微笑ましそうに言っていた。こっちはどうしていいか目下パニック中だけどね!
「ふむ、良いではないか。主は王であるからのう。妾も含めて纏めて面倒見ればよいのだ。王なのだからのう」
「ちょ、フィー何言ってるのよ!」
「そうですの。しかもどさくさに紛れて自分も何含めてますの!」
「そんなの当然であろう。妾が王の為に存在するのだからのう」
な、何かフィーまで話に加わって更にわけがわからなく、あ、そうだ、きっとこれは皆でからかってるのかも!
「くっ、なぜ坊主ばかりに!」
「お主は普段の言動が酷すぎるからであろう」
「反省するにゃん」
「ですが、あの状況でも王は何かの間違いだとか思ってそうですねぇ」
何かロキの目が怖かったり、それを冷たく見下ろすルガールとペルシアがいたり、凄く達観した様子を見せるスイムがいたりしたけど、とにかくこうして楽しく宴の夜は過ぎ去っていったんだ――




