第187話 砂漠の皆と勝利を祝おう
シュデルとの戦いに勝ち、シュデルやワズイルや生き残った帝国兵は地下牢に閉じ込めた。
改めて外に出るともういい時間だった。既に外は暗いけど、空には眩いばかりの星空が広がっていた。
「あんな戦いがあったばかりでも月と星は綺麗……」
イシスが呟く。今宵は満月だからより一層そう思える。町の皆は戦いに勝利したことを聞いて興奮していたよ。町に被害は出なかったけど、念の為三割ぐらいは戦える兵を残していた。
「おい坊主。ルガールを見ないんだがどうしたんだ?」
ロキがやってきて僕に聞いてきた。ルガールか……彼の功績は本当に大きい。元帝国兵だった皆もルガールから戦法などを教えてもらっていたし、あの後も鍛えてもらっていたからフィジカルも強くなったと聞いてる。
ただ今回の戦いではここを守ってもらうようお願いしていた。ルガールはアリババ商会から一時的に派遣してもらっているだけだし、危険には晒せない。
これについてルガールも納得してくれていた。というか、今宵は場合によっては迷惑を掛けるかもしれないのでと言って、何だか止むをえないといった空気も感じていたんだよね。
「それにしてもロキも普段から目をつけられているのに随分と気にされますですの」
「ふん。俺の鼻が反応していてな。妙に気になるんだよ」
気になる? 一体何がだろうか?
「ホルス王よ! 祝いに来たぞ! 勝利の宴と洒落込もうではないかーーーー!」
僕たちが話しているとクリムゾンの声が耳に届いた。みるとパピルサグ族の皆が笑顔で並んでいる。
しかも――
「な、何か凄いね。それは?」
「あの後、すぐに狩りに向かってな。夜の魔獣には旨い物も多い。このイビルサンドも旨いぞ! 酒も持ってきた。折角戦いに勝利したのだからやはりここは宴だろう。なぁみんな!」
「「「「「「「「「「うぉおおおぉおぉおおぉおぉおおおぉぉおおお!」」」」」」」」」」
その場にいた全員が一斉に雄叫びを上げた。凄いな。戦闘前に上がった鬨の声よりも迫力があるかも。勿論今のほうが喜ばしいことなんだろうし、こういうので盛り上がる方が好ましいんだろうけどね。
「随分と盛り上がってるけどにゃん。その前に体ぐらい洗うにゃん。向こうにいいものを用意したにゃん」
「いいもの?」
ペルシアがやってきて思わせぶりな台詞を口にした。そう言えばペルシアはゴーレムやアイアンアントに何か頼み事をしていた気がする。
「一緒に来てみるにゃん♪」
そしてペルシアに僕たちはついていった。場所はオアシスとして機能するのに重要な水場でもある泉だった。
そこで気がついた。泉から分岐して少し離れた場所に水が流れていっていることに。そしてその先には岩で囲った泉――水源よりは小さいけど、その泉からは湯気が立っていた。
「砂漠の夜は冷えるから水浴びは無理にゃん。だからこれはうちからの贈り物にゃん。前にお風呂について話してたと思うから、温泉にゃん!」
「お、温泉ですの!」
「本当だ温かいよ!」
「温泉って美味しいの?」
「メルは食べることしかないのか全く。それで温泉とは強いのですかな?」
「あはは、アインは戦闘馬鹿だ~」
アインとメルが睨み合ってるけど、じゃれ合いみたいなものだからいいとして――
「驚いたよ。ロキより先に作っちゃうなんて」
「にゃん。この温泉石のおかげにゃん」
ペルシアが魔法のリュックからオレンジ色の石を取りだして説明してくれた。熱を纏う魔石から作られた使い捨ての魔導具なんだとか。
「元々は旅先で手軽に温泉を楽しむために販売しているものにゃん。これはあくまで使い捨てにゃん。本格的なのは予定通りロキに作ってもらうといいにゃん」
「当たり前よ。俺ならもっと機能的に作るからな! ま、でもとりあえずはいいんじゃねぇか?」
確かにペルシアが用意してくれたのは簡易的な物だ。ただこれで今入るには問題ない。使い捨てだから何時間か経つと冷めちゃうようだけどね。
常時入れるようにするなら、やっぱり本格的に魔導設備を導入してロキが作ることになるようだ。
「おいお前ら温泉だってよ!」
「マジか風呂かよ!」
「待ちますの! 温泉は一種類ですの! 男女は別々に入りますの!」
「ふむ、妾も王と一緒なら別々でなくてもいいのだがのう」
「な、何を言ってるのフィー! そんなの駄目だよ!」
簡易とは言え温泉に皆が興味津々だ。だけど、ロキだけは別らしくて、キョロキョロしている。
「……やっぱりルガールがいないな」
「ルガール?」
「うん。戻ってきてから見てないんだ」
「あ、そういえば確かに『戦いは終わったようだしこれならもう安全だろう』と安堵していたのは聞いたけどそれから見てないか……」
近くにいたヘンデルが教えてくれた。つまりそこから見てないってことだね。
「……あ~それならきっと心配いらないにゃん」
するとペルシアが一度夜空を見上げた後、口を開いた。
「ルガールもきっと疲れが出たにゃん。どこかで休んでると思うにゃん。そっとしておくにゃん!」
ペルシアが目を点にして言った。何か、気にしているような? もしかしてルガールに何かあったのだろうか?
「……感じる。感じるぞとてつもない乳闘力を!」
「はい?」
「スー?」
ロキがまた妙なことを口走りだしたよ! 何言ってるの!?
「感じる感じるぞ――乳闘力80……84……88、まだ上がる!」
「いや、だからさっきから何いってるのロキ?」
「ス~……」
ロキの怪しい態度にスーもどこか怪訝そうだよ!
「見えた! こっちだ!」
だけど僕の問いかけを無視してロキが走って行ってしまったよ。
「と、とんでもないことになるにゃん! ホルス急いで追いかけるにゃん!」
「え? あ、うん!」
「ス~!」
何だかわからないけど、ペルシアが真剣な顔で訴えるからロキを追いかけることにした。
「乳闘力90超え! これだ! この建物だ!」
そしてロキが半球形の家屋を指差して言った。何故か鼻息が荒い。
「おい! ここに誰かいるな! 出てこい!」
そしてロキがガンガンと戸を叩いた。いや、誰かいるって……
「チッ、鍵が掛かってやがる! おい! いるのはわかってるんだぞ!」
「う、うるさい! 私はいない!」
「いるだろうがああぁああぁああ!」
えっと中から声が聞こえてきたよ。えっとこれってルガール? ペルシアを見てみると額を手で押さえていたよ。
「ロキもうやめるにゃん! ルガールは疲れてるにゃん!」
「やっぱりルガールか! おい! お前の御主人様が温泉を作ったぞ! 宴も始まる! さぁ出てくるんだ!」
「ぐ、具合が悪いんだ。今日は休ませてくれ」
「ロキ。具合が悪いんだったら仕方ないよ」
ルガールがそう言っている以上、これは仕方ないと思う。だからロキを連れて戻ろうと考えたのだけど、ロキはしつこい。
「具合が悪い? だったら尚更だ! 看病してやらないとな!」
え~……
「「「「「「「オイッス! オイッス!」」」」」」」
「キュ~イ~」
ロキが使役しているノームとサラマンダーも、よそうよ~って顔でロキに訴えてるよ。
だけどロキは一本の針を取りだして鍵穴に突っ込んで、て!
「何してるのロキ!」
「俺は鍛冶師だ。この程度の鍵を開けるぐらいどうということはない!」
いやいや、それもう鍛冶師じゃなくて盗賊とかの技能だよ!
――カチッ。
「よし開いた! 入るぞ!」
「な、ふざけるな! 何を勝手に!」
「見舞いだ! さぁ顔を見せろ!」
「ちょ、やめ!」
ロキが猛ダッシュで走っていきそんなやり合う声が聞こえてきた。な、何か凄く不味い状況にある気がする。
中に入るとロキがシーツを剥がそうとしていた。恐らくルガールが頭から被ってるんだろうけど――
「え~い! これだけ抵抗できて何が具合が悪いだ!」
そしてロキが遂にシーツを引っ剥がしたのだけど、て、えぇええぇええ!
「る、ルガールさん?」
「ス~ナ~!」
「にゃん……見られてしまったにゃん……」
驚いたことにシーツで隠れていたのは黒髪の美女だった。スーも驚いていて、僕も動きが止まってしまったのだけど。
「せ、乳闘力100! もう辛抱たまらん!」
「キャァアアァアア!」
ロキが興奮した口調でルガールに飛び込んだ。し、しまった!
ルガールも悲鳴を上げて身をよじった。その瞬間ロキの頭に巨大な鉄の塊が振り下ろされた。
「いい加減にしますですの! この不埒者ーーーー!」
「ぐべっ!」
モルジアだった。モルジアが空間魔法で出した100tと刻まれたハンマーでロキに鉄槌を下したんだ!
その結果、ロキの魔の手からルガールは救われたんだ。ふぅ、それは良かったけど、モルジアもよくこんなハンマーもってたよね――




