第180話 女の戦い
「ホ~ホッホッホ! どう? このポイズン様の剣に手も足も出ないでしょう?」
高笑いを決め相手の騎士であるポイズンが毒蛇剣を振り回す。剣でありながら鞭のように靭やかな武器だ。自在性が高く動きも読みにくい。
「空間魔法・空間投擲!」
モルジアの魔法で固定化された空間がポイズンに向けて飛んでいく。しかし当たらない。当然空間による攻撃なので相手からは見えないはずだがやはり動き回る相手は捉えにくい。
『危ないぞモルジア! 後ろを守りやがれ!』
「くっ! 空間固定!」
斜め後方から剣が迫っていたがカセの警告で事なきを得た。空間を固定させ壁として防いだからだ。
「ふふ、貴方面白い枷をしてるのね。喋るなんてね。でも、その枷のおかげで貴方の動きも制限されているんじゃない? とんだお荷物よねその枷は!」
ポイズンの剣が速度を増す。縦横無尽に駆け回る。砂を切り裂きながら、さながら獲物を狙う毒蛇のごとくモルジアを狙ってきた。
「カセがお荷物ですって? 馬鹿を言ってますですの!」
『……ケケッ、間違っちゃいないだろう?』
「馬鹿を言わないですの! 怒りますわよ。それより力を貸すですの! 目にもの見せてやるですの!」
『――フンッ、変わった奴だよお前は』
そしてモルジアの身にカセの魔力が流れてくる。
「来ましたわ! これで新魔法を試しますですの!」
「お~ほっほ! 今更何をしても無駄よ!」
毒蛇剣ヴァイパーが迫る。するとモルジアは手を翳し魔法を行使した。
「空間魔法・空間門!」
剣が迫るその位置が突如穴が開いたような状態に変化する。剣はその穴を通り抜けていってしまった。
「何? どうなってるの?」
「もう一つ!」
モルジアが叫ぶと、空間に穴がもう一箇所生まれヴァイパーの剣が飛び出した。
「空間を超えて門と門をつなぐ。それが空間門よ」
「くっ、それがどうしたって言うのよ!」
ポイズンが短く呻き剣を弾き手元に戻した。
「やってることは結局変わらないじゃない。防御の魔法が一つ増えただけ、そんなものすぐに見破ってあげる!」
更にポイズンが剣を振るった。毒に塗れた刃が迫る。
「死ねッ!」
「空間魔法・空間門」
モルジアの手で再び穴が開かれた。ポイズンの剣が穴に頭から突っ込んでいく。
「チッ、だけど読めてきたわ! 次こそは!」
『もうお前に次はねぇよ』
「は? 何を言って、ハッ!?」
ポイズンが半身を翻し、自分の剣を避けた。ポイズンの顔が驚愕に染まる。
「まさか、貴方、門をこっちに……」
「掠ったわね」
「え?」
モルジアは空間門にポイズンの剣を潜らせ更に出口の門をポイズンの後ろに作成したのである。これによってポイズン自身に剣が迫ることとなった。流石は千鋭百鬼団の騎士というべきか、直撃は避けたが、しかし僅かに脇腹に切り傷が残っていた。
「ところでその剣、魔獣すら殺す毒が滲み出ると言ってましたわね? それは貴方にとってはどうですの?」
「あ、あぁ、あぁ、ち、畜生――」
ポイズンが砂漠に倒れ、そしてのその目から光が失われた。どうやら剣の毒は使用者である彼にも効果が及んだようである。
「貴方はカセをお荷物と言ったけど、今や私にとって大事なパートナーですのよ」
『ケケッ、全く迷惑な話だ』
◇◆◇
「愛よね愛!」
そこでは元のモ愛と化したアイが暴れまわり騎士や兵士を薙ぎ倒していた。最近は愛らしいアイとしての彼女が目立っていたが、モ愛としての彼女はかなりの強さを誇る。
「愛が爆発なのーーーーーー!」
「「「「「「「「「「ぐはぁあぁああぁああぁああああッ!」」」」」」」」」」
千鋭百鬼団もモ愛のパワーの前には為す術もない。既に三十人程がモ愛によって倒され魔剣もイシスの側に転がっていた。
「ありがとうアイちゃん」
「うふふ、大事な主君を守ること。それも愛! よね!」
手でハートを描くような愛のポーズを決めながら愛を叫ぶアイである。
「ならばそのパワー利用させて貰うとしよう」
「何ですって? ハッ! あ、頭が!」
「アイ!?」
その時、一人の騎士がアイの前に姿を見せ、そして剣先をアイに向けた。その途端、アイが頭を抱えて苦しみだす。
「貴方、一体何をしたの!」
「言っただろう? その化け物を利用させてもらう。これは混乱剣パニメダ。これでその化け物は理性を保てない」
「ウ、ガアァアアァアァアアアアア!」
騎士の言う通り理性を失ったアイが錯乱し暴れだした。
「アイ! やめて! 正気に戻って!」
イシスは魔法で対処できないか試してみるが生命魔法では混乱を治すまでは出来なかった。
「ははは、お前はどうやらその化け物を操っていたようだが、逆に言えばお前自身には戦う力がない。どうやら私の勝ちは決まったようだな」
「アイは化け物なんかじゃない! 正気を取り戻してアイ!」
「グォオォオオォオオォオオ!」
「ウォォォオォオォオォォォオォオオオ!」
イシスの訴えも虚しく混乱したアイが彼女に襲いかかる。だが、その横から盾を構えジャックが突っ込んだ。
「やめるだぁああああ!」
「グォッ!?」
盾に押し込まれたことでイシスへの攻撃は収まった。そしてジャックが必死にアイを抑え込もうとする。
「ジャックさん!」
「こっちはおらに任せるだ!」
ジャックが叫ぶ。その姿に騎士がフンッと鼻を鳴らした。
「化け物が化け物を押さえたか。だがどっちにしろお前を守る化け物はもういない。今だそいつをやってしまえ!」
すると騎士の配下にある兵士九人が姿を見せイシスに向かっていった。
「お前はもう戦うすべがない。諦めるんだな」
「――生命魔法・生命付与!」
しかし、イシスは強い意志の宿った瞳で魔法を行使した。生命を付与したのは――先にアイが倒しておいてくれた騎士が持っていた魔剣。
すると落ちていた魔剣が浮かび上がり、そして迫る兵士たちを切りつけていった。
「な! あれは水晶剣の効果! それに呪縛剣や衝撃剣も!」
驚愕する騎士、そしてイシスがキッと騎士を睨み叫ぶ。
「私だって戦える!」
「な、ば、馬鹿な!」
そしてイシスの操る魔剣によって騎士は倒され混乱剣が砂の上に落ちた。
騎士の手から剣が離れたことで間もなくしてアイの正気も取り戻されたという――




