第178話 まるで蟻のようだ
「ウォオォオォオオオ!」
アインとメルと集団の個と化した蟻たちが千鋭百鬼団と戦ってる最中、一人の騎士が雄叫びを上げそして――巨大化した。
「これは驚いた。随分と大きくなったではないか」
「ははは、これぞ巨人剣ジャイヤーツの力なのだ!」
騎士が剣を掲げ叫んだ。どうやらこの騎士の持つ剣は持ち主を巨大化出来るらしい。
「どうやら蟻共は集団戦が得意なようだが、こうなってしまえば関係ない。見ろ! まさに蟻が蟻のようだ!」
「そんなのは、当たり前だ!」
アインが叫ぶ。言われなくてもアイン達は蟻なのである。とは言え確かに大きい。地下集落の天井スレスレのところまで身長が伸びていた。
「喰らえ!」
「アギィ!?」
「アギッ!」
高く掲げた剣を力任せに振り下ろす。それだけで衝撃波が発生し何匹かの蟻が吹き飛んだ。
「ガハハ! どうだ!」
「くっ、よくも蟻たちを! この仇は必ず討つ!」
「アギ~!」
「アギギ~!」
決意を固めるアインであったが、ふっ飛ばされた蟻達は死んでないよ! と突っ込んだ。
そして巨人化した騎士を睨むアインだったが、その横から何とクマが剣を振ってきた。
「何だと!」
アインが一撃を避ける。しかし、なぜこんなところにクマが?
「俺の一撃を避けたか」
「喋った!?」
「当然だ。俺は千鋭百鬼団の騎士ビスト。俺の持つ獣化剣ライカンは最後に切った動物の姿を元に持ち主を獣化させる」
ビストが語る。つまり彼が最後に切ったのはクマだということだろう。
「やれやれクマになったぐらいで勝てると思われるとは舐められたものだな」
アインが槍を構える。すると再びクマと化したビストが襲い掛かってきた。
「貴様こそ舐めるな! 人の賢さに熊の力が加わればそれは無敵となる!」
強気な姿勢は崩さず、ビストがアインに狙いを集中させる。
熊と化したビストは手持ちの剣だけではなく、爪も利用して攻撃してきた。
「どうだ! 剣と爪の二刀流!」
「蟻顎豪槍!」
「グハァ!」
得意になって攻めるビストだったが蟻の強靭な顎を彷彿とされるアインの必殺の突きで吹き飛んでしまった。
「ぐっ、俺の二刀流が!」
「……リーチの違いすぎる爪と剣では二刀流でも意味がないだろう」
「な!」
アインの冷静なツッコミにビストが慄く。
「……さっき人の賢さと言っていたが、お前は絶対賢くないぞ」
「だ、黙れ! 喰らえ!」
「むっ!」
ビストは何と激しい戦闘によって砂化していた地面を蹴りアインに砂を浴びせた。
思わぬ手にアインが怯んだ隙に迫ったビストがアインにベアハッグを掛ける。
「ハァハァ、どうだ! このまま、背骨をへし折ってくれギャッ!」
「そう簡単にはいかんな」
背骨をギリギリと締め付けてきたビストだったが、目の痛みに思わずその腕を解いた。アインが槍の石突で目を突いたからだ。
「くっ、貴様!」
「やはり駄目だな。今の貴様では我には勝てぬ。その姿には致命的な弱点がある」
「はぁ、はぁ、黙れ、一体この姿の、どこに弱点があると、はぁ、はぁ」
「暑いのであろう?」
「何?」
「さっきから息が随分と乱れている。顎を拭う仕草もよく見るな。既にこの集落の入口も閉じられている。つまりここはすっかり熱がこもっているのだ」
アインがビストに指摘する。砂漠は暑く熱が篭もりやすい。事実、確かにビストの毛は随分と汗で湿っていた。
「我らは元々砂漠育ち故、この程度どうということもないが帝国とやらから来た貴様らには堪えるだろう? ましてそんな毛皮をしていてはな」
「ハッ! し、しま――」
「やはり貴様は賢さが足りなかったようだな! 蟻顎豪槍!」
「グハァアアァアアァアア!」
アインの一撃でビストが吹き飛ばされる。そしてそのまま起き上がってくることはなかった。
「クマになったのが間違いだったな。せめてスナネコだったならまた違ったかも知れないが」
「スナネコを切るなんてとんでもないよ!」
遠くで戦闘を繰り広げているメルから文句が聞こえてきた。むぅ、とアインが唸る。スナネコのような可愛らしい動物を切るなんてメルからしたら看過できないことなのだ。
「さて、あの巨人は……ふっ、心配はいらなかった」
「グァアアァアアアアアァアア! 馬鹿なこんな蟻なんぞにーーーー!」
巨人と化した騎士が悲鳴を上げていた。騎士はビストにアインを任せ、蟻の兵を踏み潰していこうとしていたが、蟻の動きに翻弄され思うように行かずしかも群がる蟻に持ち上げられて転倒してしまった。その隙を見逃さず大量のアイアンアントが群がり巨人と化した騎士に攻撃を仕掛けていたのだ。
「我が兵を舐めすぎたな。そもそも蟻は自分より遥かに体格に優れた相手でも恐れず立ち向かう強い心があるのだ。今更巨大化したところで遅れなどとらぬ」
腕を組みアインが言った。蟻は実はとんでもない怪力の持ち主でもある。己の体重の十数倍の物でも軽々と持ち上げる。
その蟻たちからしてみれば、ちょっと大きくなった程度の人間など取るに足らない相手だったわけである――




