第157話 美しいバラには棘がある
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「アプステア外務卿! 一体どういうことですか!」
アプステアが自分の屋敷に戻ると、待ち構えていたように一人の男がやってきて、アプステアに詰め寄った。
その姿にアプステアは苦み走った顔を見せる。
「この馬鹿。こんなところまで来るとは」
「し、しかし。トヌーラ商会から魔法火薬を買うそうですよね? うちでも扱ってるじゃないですか!」
「わかっているが、お前は色々と不味いんだ。今回はトヌーラ商会にしておけば万が一でもあの商会が勝手にやったと言えば済む話だからな」
「それは密かに帝国に横流しするつもりだからですか?」
「……この馬鹿が。私は知らんぞそんな話。とにかくだ、お前は勝手に動くな。何か用があれば私から連絡を取る。いいな!」
そしてアプステアは屋敷に入っていく。男もそれ以上は何も言わず、ぶつぶつと文句を言いながら去っていった。
そしてそれとほぼ同時に茂みがガサゴソと揺れ動き、一つの影が去っていく――
◇◆◇
「というわけでさぁ。あの野郎、輸出制限掛けるといいながら、自分は帝国に魔法火薬を横流しするつもりですよ」
そうロベリアに報告してきたのは、以前アングルに雇われていた冒険者だ。依頼料を全額受け取れずその上、部屋の掃除までやらされたことから金払いの良いロベリアに乗り換えて彼女の為に良く動いてくれている。
「なるほどね」
「さてはこれをネタに脅す気で?」
「人聞きが悪いわね。それに、その情報だと憶測にしかならないわね」
アプステアはハッキリとそうだとは言っていなかった。それでも予想は出来るがそれを理由に大きなことを求めるのは厳しいだろう。
「それより気になるのはその商会ね。それは調べがついてる?」
「勿論! こう見えて情報収集能力には定評があるんですよ。相手はカスナ商会を経営している商人ですぜ。流石にここと比べるのは酷ですが中堅どころですかね。ただ、良くない噂も多い商会でね。気に入らない相手を陥れる為に色々妨害行為に走ったりしているし、違法な品も扱っているって話もある。まぁ叩けばいくらでも埃が出そうですが、後ろ盾が強いせいか表立って問題にはなってないようです」
「そう。なら資金源として利用されてそうね。でも丁度いいかしら」
「丁度いいと言うと?」
「ふふ。こっちの話よ。じゃあはい。残りの情報料よ。色を付けておいてあげたわ」
「へへ、どうも。て、うひょ~これ、本物の金じゃないですかい! いいんですかい?」
「寧ろその方がいいでしょう? 最近なら」
「へへ、確かに。金貨の信頼度も落ちてますからね」
「うふふ、これからも宜しくね」
そして男はスキップしながら部屋を出ていった。
その後、ロベリアは秘書を呼び手紙を書いてとある場所に届けるように言った。
直後――ドスドスという足音を響かせ、ドアが開かれアングルが中に入ってくる。
「ノックぐらいはしてほしいかしらね」
「黙れ。いつまで待たせる気だ!」
「何の話かしら?」
「奴隷だよ! 見目の良い奴隷が必要なのだ」
アングルが机をバンっと強く叩き。更に続けた。
「大体これまでは私にも奴隷を扱うことは出来たはずだろう」
「ごめんなさいね。最近はうちも色々と管理は厳しくしていて」
「とにかく早く準備してくれ」
「以前、貴方が勝手に持ち出した奴隷の販売先も聞いていないのだけど。その上今回も相手がどこかはっきりと書かれていないし、どういうことかしら?」
せかすアングルに冷静にロベリアが質問を返した。アングルが不機嫌そうに答える。
「私のお得意様だ! お前にいちいち知らせる義務はない!」
「あら知らなかった? 私、今はここの商会長なのよ?」
「くっ!」
アングルが呻き、仰け反った。それを楽しそうに眺めた後、やれやれと瞼を閉じ。
「その取り引きはうちの為になるの?」
「そ、それは当然だ! この私が関わっているのだぞ!」
「……ま。いいわ。でも、前のも含めて何かあったら責任は取ってもらう必要があるわよ?」
「ふん! 生意気な妹だ! それですぐ用意できるのか?」
「えぇ。付いてきて」
そしてロベリアはアングルと一緒に地下まで移動した。
そこで三人の女奴隷を紹介する。
「これでいいかしら?」
「お、おお! いいじゃないか。どれも上玉だ! これでていこ、いや。うむお客様も喜ぶというものよ!」
「そう。なら後は宜しくね」
「ふん。誰に物を言っている」
ロベリアの言葉にアングルが鼻を鳴らした。用意された女達も任せてと言わんばかりの微笑みを浮かべている。
後をアングルに任せロベリアは部屋に戻った。資料を取り出し改めて三人について確認する。
・キャッツ――元怪盗の犯罪奴隷。
・ソニア――元密偵の犯罪奴隷。
・カーラ――元魔女の犯罪奴隷。
「フフッ、美しいバラには棘もあったりするのよね……」
◇◆◇
「くそ。女が商会長になった程度でいい気になりやがって」
アプステアとの件もあり、カスナは機嫌が悪かった。馴染みの酒場に繰り出して、一人で酒を煽っている。
そんな彼の横に一人の男が座った。
「随分と鬱憤が溜まっていそうですね」
「当然だ。トヌーラ商会の野郎……」
「ほう。トヌーラ商会ですか。あそこも随分と景気が良さそうだ。最近は魔法火薬も倉庫を移して出荷の準備もしているそうですよ」
「くっ、その話を私に! 待て、今倉庫を移してと言ったな? お前、何か知ってるのか?」
「えぇ、これでも先代のヨクゴウの頃からちょっとね」
それを聞いたカスナの目の色が変わる。
「な、なら他になにか知らないか! 何でもいい! 気づいたことは!」
「う~ん。そうだなぁ。あ、あそこの見張りはケチっているのか夜は少ない上、ちょっと抜けてるところがあるって話があったなぁ」
「ほ、ほう……そうなのか」
「鍵も旧式のを使っているとか、意外とそういうところがケチくさいのかもしれませんね」
「ほうほう。旧式のか。そうか、くくっ、よし! 急に気分が良くなったぞ! あんたの分もここは私が奢ってやろう!」
「お? 急に気まえがよくなったねぇ。ありがたいことだ」
そしてカスナは上機嫌で偶然一緒になった男と酒を呑み明かすのだった――
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