第154話 アリババ、動く
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バラムドーラからエルドラに戻ったアリババは依頼された品の手配を進めつつ、トヌーラ商会に自ら訪れていた。
「随分と印象が変わったにゃ~」
それが商会の活動する建物を見たアリババの感想だった。以前ちらっと見たときには中々悪趣味な外観で扉も金で出来ていた。
今は見た目はかなりシックで落ち着いた物に様変わりしている。
建物そのものは再利用しているようで、五階建てのビルである。ドアを開け中に入る。
正面に受付のカウンターがあった。一階部分はロビーとして解放しているようで受付嬢以外には職員の姿はない。
入口近くには生け花が飾られており芳しく心地よい香りが彼の鼻孔をくすぐった。計算された窓の配置で外の明かりが優しく室内を包み込んでいる。
御影石を磨き加工された床も落ち着いた雰囲気を演出する材料となっていた。
アリババがカウンターに向かうと、こちらに気がついた受付嬢の目が一瞬だが見開かれた。アリババはケットシーでありその姿に驚いたのだろう。
ケットシーそのものが数の少ない希少種族ともされている。これまで見たことがないという人も多い。
初見であるならその外見に驚くのも無理はないが、受付嬢はすぐに表情を笑顔に変えていた。
「いらっしゃいませご用件をお伺いします」
「トヌーラ商会長はいるかにゃ」
受付の女性から問いかけられてアリババはロベリアの所在を聞いた。受付嬢は嫌味のない笑顔を保ったままアリババに答える。
「失礼ですがアポイントメントを取られておりましたでしょうか?」
「にゃ~残念ながら取っていなかったですにゃ~」
「左様でしたか。商会長へのお取次はアポイントメントを取って頂く形となっております。申し訳ありませんが」
「仕方ないにゃ~ここで取れるかにゃ~」
「はい。予定の確認もさせていただきますがお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「これは失礼したにゃ~アリババ商会のアリババにゃ~」
一言お詫びを述べ、名前を告げる。もっとも聞かれるまで答えなかったのもアリババの手であった。いきなり名乗った場合、その時点で態度が変わらないとは言い切れない。ケットシーを見るのは初めてでもアリババの名は当然知っているであろうからだ。
アリババとしては素の商会の顔を見たかった。受付嬢はある意味では商会の顔とも言える存在なので、その態度一つで現在の商会の方針がある程度読み取れる。
見たところ受付嬢はかなり教育が行き届いているし、一瞬驚きはしたがそれだけだった。
これが以前の商会だったなら相手がケットシーという時点で差別的な言動を取り、なんならすぐに警備員を呼ばれ捕まりどこかに売り飛ばされていたことだろう。
ケットシーは希少種であり高値で取り引きされる傾向がある。そしてケットシーではないにしても仕事で訪れた獣人がそのまま行方不明になることが以前のトヌーラ商会では頻繁にあった。
「はい。アリババ商会のアリ、え!?」
受付嬢がアリババを二度見した。こればかりは流石に受付嬢も驚いたようだ。目を丸くさせた後、マジマジとアリババの顔を見る。
「も、もしかしてアリババ商会の商会長様?」
「そうだにゃ~」
「し、失礼致しました! 少々お待ち下さい! すぐにご面会できるか確認致します!」
「アポイントメントは大丈夫だったかにゃ~?」
「それも含めて確認致しますので少々お待ちを――」
そして受付嬢が一旦その場を離れた。それから暫しして戻ってきた受付嬢が頭を下げる。
「大変失礼致しました。商会長がお会いしたいと申しておりますのでどうぞこちらへ」
「ありがとうにゃ~」
受付嬢に案内されアリババがあとに続く。ロビーの奥に扉がありローブを纏った魔法使いがその横に立っていた。
魔法使いの男によって扉が開かれると床に魔法陣の描かれた小さな空間が顔を見せる。
受付嬢とアリババがその中に入ると魔法使いの魔法で扉が閉まり、床が浮き上がった。
「これも魔法でやってるにゃ~?」
「はい。各階に専属の魔法使いがいて各階で止まれるよう調整しているのです。お客様を階段で向かわせるわけにはいきませんから」
「なるほどにゃ~」
随分と手間が掛かってるな、とアリババは思う。この仕組みはアリババ商会でも魔導昇降機という名称で設置されていた。ただアリババ商会にあるのは文字通り魔導設備であり魔法使いが常駐しなくても簡単に扱える。
そんなことを考えていたアリババだが、ふと受付嬢がチラチラとアリババを覗いながらむずむずしているのがわかった。
「触ってみるかにゃ~?」
「い、いいのですか!?」
やっぱりか、とアリババは思い目を細めた。ケットシーのような種族はもふもふ好きにはたまらないようである。
「別に構わないにゃ~」
「で、では!」
受付嬢がアリババを正面から抱きしめかなりがっつりとモフり出した。ちょっと触る程度と考えていた為、アリババとしては若干戸惑いがあったわけであり、しかもモフりだして間もなく目的の階に到着し扉が開いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、最高ですぅ! もっともっとしたいですぅ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
扉が開いた先には魔法使いとロベリアとその秘書がいた。魔法使いはともかくロベリアはわざわざ出迎えに来てくれたようだ。
「……ごゆっくり」
「とんだ誤解にゃ~」
ニコッと微笑み扉を閉めるよう命令するロベリアだが、アリババは落ち着いた口調で誤解であると説明した。
「し、失礼いたしました!」
我を忘れてもふもふを堪能した受付嬢も商会長に見られてかなり慌てていた。深々と頭を下げてもとの仕事に戻っていく。
「やれやれ仕方ないわね」
「怒らないで上げて欲しいにゃ~これも全て僕の魅力溢れるもふもふ感が悪いのにゃ~」
「もふもふに対する自信がすごいですね」
苦笑する秘書。そして二人に案内されて応接室に通された。
室内には木製のテーブルと革張りのソファー。嫌味のない程度に調度品が設置されていた。絶妙な配置具合で部屋全体が広々と感じられる。
前の商会長ならばこんな落ち着いた空間は演出できないだろうな、とアリババは勝手に思っていた。何となくだが虎の毛皮を利用した敷物とか宝飾品などをごてごてと配置した悪趣味な空間にしいてたイメージしかわかない。
ロベリアに促されソファに腰を落とした。質の悪いソファなら尻尾の収まりも悪いのだが、このソファはそんなこともなく尻尾の収まり具合も心地も良かった。
「急に来てしまったにも関わらず時間を作って頂きありがとうにゃ~」
「アリババ商会の商会長にご足労頂いたわけですから、どんな予定が入っていたとしても優先させていただきますわ」
ロベリアが笑みを浮かべてアリババの来訪を歓迎した直後ドアを叩く音が聞こえお茶を持ってきた女性が入ってきた。カップに注がれた紅茶の匂いにアリババが鼻をひくひくさせる。
「気分の落ち着くいい香りにゃ~」
「ふふ、これはうちで扱っている紅茶でもあるの。気に入ったらお土産として用意しますわ」
「お土産としてはいらないにゃ~でも気に入ったら購入させて頂くにゃ~」
「それはそれはお買い上げ頂きありがとうございます」
「気が早いにゃ~」
まだ飲んでないうちから既に気にいると確信しているようだった。自分たちが扱っている品に絶対の自信があるという現れだろう。
「ふむ、全体的に趣味がいいにゃ~」
「お褒め頂きありがとうございます。以前は虎の毛皮の敷物があったり金や宝石を散りばめたような悪趣味な空間だったのだけど、この際だから全て入れ替えたのよ」
「当たったにゃ~」
「何がですか?」
「こっちの話にゃ~」
秘書が不思議そうにしていたがアリババはそれについては心のなかに留め、そして本題を切り出した――
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