第124話 砂漠で救出された兵
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「こ、ここは一体?」
「あ! 気がついたんだね!」
彼が目を覚ました時、そこには見たこともないような景色が広がっていた。随分と空気が湿っているようにも感じられる。
彼は記憶を呼び起こす。そうだワズイル将軍の命を受け、俺は先遣隊として追放された皇子が興した国の調査に向かう筈だった。
しかし、砂漠の環境は予想以上に厳しく、凶悪な魔物にも襲われ、結局彼以外は全滅し、彼もまた砂漠に倒れ後は死を待つばかりであった、と彼は徐々に記憶を呼び戻していく。
しかし、彼は自分の体を確認する。包帯が巻かれていた。傷跡は痛々しく残ってはいるが、体を動かすことも出来る。
「もしかして、手当てしてくれたのか?」
「うん! でも驚いたよ~砂漠で凄い怪我をして倒れてるんだもん」
少女はそう話して聞かせたが、驚いたのは彼も一緒だった。
「え? それは尻尾か?」
「あ、これ? へへ、私パピルサグなの」
少女は怪訝そうに見やる彼に屈託のない笑顔を浮かべそう答えた。それは彼には聞き覚えのない名前だった。
「それが君の名前なのか?」
「え? 違うよ~えっとねパピルサグというのは私の種族で、私はカーマイン! 皆はマインって呼ぶの」
「種族! 死の砂漠にそんなのが……」
彼からしてみれば信じられない話だ。帝国にとっても、いやこの大陸に暮らす人々にとって死の砂漠は魔境扱いであり、とてもではないが人が暮らせるような環境ではなかったからだ。
そんな場所に人間以外の種族が暮らせるわけがない。それが彼らの常識だった。
もっともこれは、英知ある人間が成し遂げられなかったことを他の種族がやれるわけがないといった傲慢な考えの上に成り立っているわけだが。
「どうやら気がついたようだな。マイン、ここからは俺が話す。少し向こうへ言ってなさい」
「えぇ~色々とお話聞きたかったのにぃ」
「マイン」
「う~ん。わかったよ~でもお兄ちゃん虐めちゃだめだからね!」
そう言ってその場を離れたマインにやれやれといった顔を見せる兄であり、その姿を彼はマジマジと見た。
(こっちにも蠍の尾が。やはりそういう種族なのか。しかし――)
マインは蠍の尾は持つも人としてみれば可愛らしい少女といった見た目だった。
だが後を引き継いだ兄は如何にも屈強な戦士と言った様相である。
「全くマインにも困ったものだ。一度外に出る楽しみを覚えるともう言ってもきかん。おかげでこんな拾いものをしてしまうのだからな」
「はは、物扱いか――」
思わず自虐的な笑みがこぼれてしまう。ただ、確かに自分は帝国の道具みたいなものかもな、なんて思ってしまう彼もいた。
「俺はクリムゾン。ここの長をやっている。予め言っておくが俺は強いぞ。妙な気などおこさないことだ。もっとも俺だけではなく我らパピルサグ族の男は誰もが強いけどな」
「……この状況で逆らおうなんて思わないさ。武器だってないしな」
「あぁ、そこは念の為だ許せ。もともと我らは用心深い種族だ」
そのクリムゾンの言葉に彼は苦笑した。
「何がおかしい?」
「いや、用心深い種族がどこの誰かもわからない俺みたいなのを助けるなんておかしなものだなと思ってね」
「……マインが連れてきてしまったからな。もっとも以前の我々ならたとえ妹が連れ帰っても中になど入れはしなかっただろう。だが、最近は俺たちも人に対する考え方が変わってきている。何より人のおかげで今は助かってることもある。恩を受けたならば恩で返さなければな」
「人のおかげ? まるで砂漠に他にも誰かいるみたいな考えか――」
そこで彼はハッとなった。そうだ、まさに自分はそのことについて調べようとしていたのだと。
「どうかしたのか?」
「あ、いや。そうか。それは砂漠の王国のことなのだな。それならわかるなと思い」
彼は鎌をかけてみることにした。勿論砂漠の国のことなど追放された皇子が興した国であることしかまだわかっていなかったが、もしそのことを知っているのなら何か掴めるかもしれない。
「おお! なんだホルス王の知り合いであったか」
そしてどうやら彼の予感は当たったようだ。
「え? あ、あぁそうなんだ。王には世話になっている」
出来るだけ怪しまれないようにそれっぽいことを口にし話を合わせることにした。どうやらこの流れでクリムゾンの警戒心も徐々に薄れ始めているようだった。
「そうかそうか。それならやはり助けて良かった。しかし知り合いだったとはな」
「あ、あぁ奇遇だな、ははっ、痛ッ!」
「うん? 痛むのか?」
彼が顔を歪め声を漏らすとクリムゾンは立ち上がり、そしてどこからか酒の入った器を持ってきた。
「これでも呑むといい。痛みが大分和らぐぞ」
「あ、あぁ悪いな」
彼は多少不安にも思ったが、彼らに取り入るためには躊躇していられないとすすめられたそれをぐいっと煽った。
「おお、これは旨い酒だな」
「はは、そうだろうそうだろう。我らが誇る自慢の酒だ」
「ふむ、これは一体何の酒だ?」
「うむ! パピルサグが誇る蠍酒だ!」
「ブフオォオオォォォオオオオ!」
彼が盛大に吹き出した。それから何度か咳き込むとクリムゾンが怪訝な顔を見せて問いかける。
「口に合わなかったか? 王とも取り引きしている酒なのだがな」
「取り引き、あ、いや俺は初めて口にしたからちょっと驚いただけだ。お、美味しい酒だな」
戸惑いもあったが信用を得るために酒を呑み続ける彼であり、そしてここまで得た情報を頭の中で整理するのだった――
帝国兵とパピルサグが……
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