「お父さん! 今日もゲームで遊ぼ~」
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「お父さん! 今日もゲームで遊ぼ~」
「お? やるか! じゃあなんのゲームにするか」
私は物心つく前から、お父さんとゲームで遊んでいた。
あの頃は色んなゲームをプレイしたっけ。思えば対戦が多かった気がする。
「うぅ~……負けちゃったよぉ……」
「あっはっは! まだまだだな。ま、練習すればすぐうまくなるさ。うまくなるコツはな――」
お父さんは私に、ありとあらゆるテクニックを教えてくれた。
お父さんが大好きだった私は、教えてもらった事をバカ正直に練習して、どんどんゲームがうまくななっていった。
「うわ負けた! 沙南、お前強くなったな~」
「えへへ♪ たくさん練習したもん♪」
すごく楽しかった。家に帰れば優しいお母さんがいて、ゲームで遊んでくれるお父さんがいて、私はとても幸せだった。
「だぁ~また負けた! もうこのゲームは止めようぜ。他のゲームをしよう」
「う、うん……」
だけど、何がいけなかったんだろう。私が強くなればなるほど、お父さんはゲームを止めるようになっていった。
それでも私は色んなゲームができたし、また他のゲームテクニックを教えてもらうのが楽しくて、それほど不満はなかったと思う。
「今だ沙南! 一気に攻めるぞ! 着いて来い!」
「うん! わかった!」
次第に対戦ゲームはやらなくなって、協力プレイができるアクションRPGやネットゲームが多くなった。
「えい! えい! うんしょ、うんしょ……。ねぇ、なんでお父さんはそんなに連続で攻撃できるの?」
「あん? 俺は『詠唱キャンセル』ってテクニックを使ってるからだよ」
「わぁ! 何それ、私にも教えて!」
「けど、沙南にはまだ難しいんじゃねぇかな……」
「私、練習するよっ! だから教えて!」
「わかったよ。詠唱キャンセルってのはな――」
ずっとこんな時間が続けばいいと思ってた。家族で仲良くやっていけると思ってた。
だけどある日、お父さんは一つのゲームにハマる事になる。それが、『ダンジョンクエスト』というゲームだった。
最近になって流行りだしたVRという技術に、お父さんはのめり込んだ。そして、あまり私とゲームで遊んでくれなくなったんだ……
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【シンギの命の欠片が砕け散った】
してやられたという表情のお父さんが立ち上がった。
「ちぃっ! やっぱ戦闘の立ち回りはうめぇな。こんな早々に復活アイテムを使わされるとは……」
これならいける! 今、私の攻撃力はお父さんの防御力を超えているんだ!
ここで一気に畳み掛けようとした時だった。
【シンギがスキルを使用した。ブラッディハウル】
キイイイィィィーーーー……
とてつもなく耳障りな音が響き渡った。
低いようで高いような。悲痛な叫び声のようで、金切り声のような、そんななんとも言えないけたたましい音に、私は耳を塞ぐしかなかった。
「う、うるさいよぉ……」
「へっ、今だ!!」
お父さんが瞬時に飛びかかってきた。
高々と振り上げた剣を私に振り下ろしてきたけど、単純な正面からの攻撃なので、私は後ろに跳んで軽々とかわした。
「なっ!? お前、動けんのか!?」
「うん。今のなに? うるさいだけ?」
「んな訳あるか! 全ての状態異常をまとめて付与するスキルだよ!」
そんなスキルもあるんだ。けど残念!
「私、状態異常は全部防げるアクセサリーを装備してるよ。このリボンなんだ。可愛いでしょ~」
よく見えるようにクルリと回ってみせた。
「なんだその課金クラスの装備は。相当腕の良いクラフターに頼まねぇと作れねぇぞ!」
そうなんだ。シルヴィアちゃんが作ってくれた物だけど、相当凄いんだね!
それにウチのクランのメンバーを褒められると凄く嬉しいよぉ。
「ちっくしょう……ならこれでどうだ!!」
【シンギがスキルを使用した。雷震】
お父さんが剣を地面に叩きつけると、その周囲が地震のような揺れが発生した。
「わ、わわっ!?」
前に一度見た事がある! 周りのプレイヤーを動けなくするスキルだ!
「こいつで決めるぜ!!」
【シンギが大技を使用した。絶技、斬鉄破斬】
再び振り上げた剣を振り下ろすと、まるでカマイタチのような鋭い衝撃波が地面を削りながら飛んできた。
遠距離攻撃!? なら!!
【沙南が大技を使用した。秘技、獣王咆哮波】
両手をかざし、エネルギーを解き放つ!
私の膨大なエネルギーがお父さんの技とぶつかると、激しい音を響かせる。
【沙南のアビリティが発動。相殺】
「んな!? 向かい打たれた!?」
バチバチとぶつかり合う私達の技がユラユラと動き出す。
なんと私の技が、お父さんの技を押し始めた!
「ぐぅ!? う、嘘だろ!? 俺の絶技が!?」
完全に私の威力が勝っていて、ついにお父さんが呑み込まれようとしていた。
けれど――
【シンギがスキルを使用した。デッドリーキャンセラー】
――体に触れる瞬間に、そんなログが表示される。そして私のエネルギーは、一瞬で塵となって消えてしまった。
「ぷはっ! あっぶねぇ~……」
ダラダラと汗を流しながら、お父さんは肩で息をしていた。
「むぅ~……お父さん、今攻撃モーション中だったのにスキル使った! ズルじゃないの!?」
「んな訳あるか! 仕様だよ仕様! 一部の行動は攻撃モーション中だろうが仰け反っていようが発動できる」
そうなの? それは知らなかったよぉ……
「シンギさん! 手を貸しますか!?」
もう一人、少し離れた所で見守っていたカズさんというプレイヤーが焦りながらそう聞いていた。
「うるせぇ! お前はそこで見てろ! 俺一人で十分なんだよ!」
すっごい焦ってたくせに意地を張ってる。お父さんも前から負けず嫌いだったもんね。
そうして、私達はまた構えた状態で対峙するのだった。




