「クラスを忍者にしてAGI特化のキャラを作った」
「最後の火の紋章を手に入れよう!」
「……了~解!」
私もルリちゃんも、あと一つで紋章が四つ揃う。
最後の火の紋章を求めて、最後の通路に足を踏み入れた。
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「やった~揃った~!」
特になんの苦労もなく、火の紋章を入手できた。
でも、苦労はなかったけど楽しかった。ルリちゃんとお話しして、一緒に魔物と戦って、そうやって進むだけで一人の時よりもはるかに楽しいと感じる。
「……?」
紋章を手に入れてからその場を立ち去ろうとした時だった。ルリちゃんが近くの壁をジッと見ているのに気が付いた。
「どうしたの?」
「……模様が、ここだけ変だなって……」
言われてみると、規則正しく並んでいる壁の模様がズレている箇所があった。
私はその瞬間に隠しフロアの事を思い出す。その模様の辺りを調べてみると、ズレた模様の壁が動き、その奥には隠し通路が現れた。
「やったー! ルリちゃんのおかげだよぉ!」
「私はちょっと気になっただけ……見つかったのは沙南のおかげ」
二人で進んでいくと、宝箱を見つけた。
紋章もそうだけど、そのフロアに用意されている固有のアイテムは、パーティ設定をしているとその人数分獲得できるようになっているっぽい。
私は宝箱を開けようとしてみた。
『宝箱は魔力でロックされている。これを開けるにはMPを注入する必要がある』
ええ~!? 私、武闘家だからMPあんまり無いよぉ……
「沙南、私が開ける」
そう言ってルリちゃんが宝箱にMPを注ぎ込む。
「……MP切れた」
「だ、大丈夫?」
「問題ない。MPを回復させる魔法薬はたくさん持ってる」
アイテムを使い再び注ぎ始めると、宝箱の鍵が音を立てて外れた。
「やったー! 開いたよ!! ルリちゃんすごい!」
「……ん。これくらい余裕」
【沙南は宝箱を開けた。習得書】
【沙南は新たなアビリティを習得した。ジャストガード】
ジャストガード:遠距離攻撃のみ、攻撃をタイミングよくガードするとダメージ無効。ただし大技は不可能。
わわ!? 武闘家で数少ない防御系アビリティだ! どこかで練習したいな~。
「ルリちゃんはどんな能力だった?」
「回復能力を覚えた。魔法剣士って回復は使えないと思ってたから、これで回復もできる!」
二人でパワーアップしたところで、四つの紋章で地下四階に進んじゃおう!
そう張り切って戻ろうとした時だった。私の目の端で何かが動く。金色の、小さい何かが。
「……? 沙南どうしたの?」
「今、そこの陰に何かいた!」
私は生い茂る草木の陰を覗いて見る。するとそこには金色のリスのような魔物がいた。
「あ、レア魔物だ!」
魔物からHPゲージが表示され、戦闘が開始される。私が普通に攻撃を仕掛けると、魔物はあっさりと倒され、光となって消えていく。
【沙南は新たな称号を手に入れた。ゴールドアニマルを狩る者】
ゴールドアニマルを狩る者:レア魔物であるゴールドアニマルを討伐した者に贈られる。ステータスに100ポイントの振り分けができる。
もちろん全部ATKに入れるよ!
それじゃあ今度こそ地下四階を目指そう!
「それにしても沙南は本当に攻撃力が高い。面白い育成だと思う」
「えへへ。全てはお父さんをギャフンと言わせるためだよ」
私はルリちゃんとお話しながら中央の通路を進む。ここを真っすぐ行けば、地下四階へ行けるはずだ。しかし、目の前には多くのプレイヤーによる人だかりが出来ていた。
「おい、どうすんだよこれ……」
「お前行けよ! レベル高いだろ!」
「いやいや、勝てる訳ねぇし……」
しきりに多くのプレイヤーがざわついていた。
「どうしたの?」
私は近くの青年プレイヤーに訪ねてみた。
「実はこの先で、一人の忍者がアイテムバトルを仕掛けまくっているんだよ。紋章を奪われるから地下四階に進めない。忍者の紋章が揃って出て行くまで待ってるんだけど、忍者も一向に出て行かないで、永遠とバトルを仕掛け続けてる。ただ単に他のプレイヤーの邪魔をしているだけっぽくて、みんな迷惑してるんだ」
青年が困り顔で答えてくれた。
「倒す事は出来ないの?」
「それが、忍者のレベルは100を超えていて、誰も勝つ事ができないんだよ。ホント勘弁してほしい」
そう言えば昨日シルヴィアちゃんが言ってた。紋章を奪って通せんぼしてる悪い人がいるって。
「もうさ、誰かがあの忍者と戦って、その間にみんなで通り抜けるしかないんじゃないかな。誰か行けよ!」
「やだよ! アイテムバトルは戦歴にも記録されるし……お前行けよ!」
「あ~もう! 運営は何やってんだよ! 通報したんだろ!?」
みんながまた騒ぎ始めた。
正面を見ると地面が赤く光っていて、ここから先はバトルエリアになっている。他に道も無く、ここを通らないと地下四階には行けないようだった。
「わかった。じゃあ私が行く」
私がそう名乗りを上げた。
「え!? ほんとに!? いいの!?」
「うん。みんなを通せんぼして邪魔するなんて酷いよ! 私が囮になるから、その間にみんなは通って!」
みんなが歓喜に包まれる。
そんな中で私は正面の通路を進みだした。
「沙南……いいの?」
ルリちゃんが心配そうに聞いて来る。
「うん。取りあえずみんなを進ませてあげよう。ルリちゃんも、私がバトルしてる間に通り抜けてね」
するとルリちゃんはブンブンと首を振った。
「私は沙南と一緒にいる。紋章が奪われたら、私も一緒に取りに行くから」
「ありがとう。けど、私だって負けるつもりはないからね。……まぁ、レベル100なんてどれくらい強いのか見当もつかないけど」
私達が進むと、その先に一人の人物が佇んでいた。
忍び装束を着て、首に赤いスカーフを巻いた、正に忍者といったプレイヤー。
「ふふん。やっと次の相手がきたでござるか」
忍者さんがそう言って、アイコンを操作し始めた。
【乃介からアイテムバトルを挑まれた】
テロップが表示され、すぐに忍者さんの頭上にHPバーが出現する。
これがプレイヤーバトル……戦歴にも記録される、一対一の真剣勝負!
「なんでみんなの邪魔をするの? みんな困ってるよ!」
私の言葉に、忍者さんは鼻で笑っていた。
「フフン! 拙者はただ、親切でやっているだけでござるよ。この先の地下四階は一気に難易度が跳ね上がる。拙者に勝てないようでは死にに行くようなものでござるからな」
「そんなの地下四階の敵でレベル上げをすればいいでしょ!? みんなにごめんなさいして!」
「はーっはっは! 何事にも修練は必要でござる。地下四階を攻略するために拙者をまず攻略する。拙者を攻略するために地下三階で修練する。ごくごく自然な道理よ」
ダメだこの人。全然言う事を聞いてくれないよぉ……
「なぁに難しい事は無い。拙者に勝てばいいだけの話でござる。さぁ、攻撃してみよ」
忍者さんがクイ、クイって指を曲げる。
それじゃあ攻撃しちゃうよぉ!!
私は忍者さんに向かって走り出す。そして、拳を振りかざした。
【沙南の攻撃】
ぶんっ!!
忍者さんのお腹を狙った攻撃はあっさりとかわされてしまう。それはとてつもなく速い動きだった。
「あ~はっはっは!! 遅い遅い! こっちでござるよ!」
そうして忍者さんは私の周りを高速で移動する。
そのスピードはまるで、レーシングカーが猛スピードでグルグル回っているかのような速さだった。
「戦闘中のキャラのスピードは、お互いのAGIの差によって決定する。そして拙者は、クラスを忍者にしてAGI特化のキャラを作った。誰にも負けないスピードで相手を圧倒するためでござる!」
忍者さんが一気に私の近くまで高速移動をしてきた。
そしてその手に持つ小刀を私に向ける!
「なら、これでどう!?」
【沙南が特技を使用した。震脚】
私は地面を強く踏む。その瞬間、激しい音と同時に地面が揺れた。
これなら周囲の敵を攻撃できる!
「甘いわ!」
振動と同時に忍者さんが大ジャンプをして、生い茂る木の枝に飛び乗っていた。
【乃介がスキルを使用した。早駆け】
戦闘ログにはそんな表示が残されている。
「ククク。お主のクラスは武闘家であろう。範囲攻撃を持っているのは知っているでござる。『震脚』は地に足を付けていなければダメージを受ける事は無い」
むぅ~……この人結構詳しいよぉ……
「武闘家は攻撃力と素早さに特化したクラス。しかし先ほど見たお主のレベルはたった25。拙者のレベル132とはあまりにもかけ離れているでござる。故に、この戦闘でお主と拙者では上限に近いスピード差が生じている。これで怖いのはその攻撃力でござるが……」
そう言ってから忍者さんが動き出す。とてつもなく素早い動きで地面や木の枝を縦横無尽に跳び回る。
「このスピード差ではお主の攻撃を喰らう事はまずない! つまりこれはお主にとっては相性最悪! 十回戦えば十回負けるほど、絶望的なバトルという事でござるよ!」
速い動きのせいで四方八方から聞こえる忍者さんの言葉をスルーして、私はその動きをただ見つめる。今、大切なのは、そのスピードに目を慣らす事……
大丈夫。お父さんとゲームをしていた時は、最強スピードで落下するパズルゲームや、最速の音楽ゲーム、リールをビタ押しするスロットゲームだってプレイしていたんだから……
「……沙南、頑張って」
少し離れた所でルリちゃんが応援してくれていた。
任せといて。必ず捉えてみせるから!!
「くっははは! どうしたでござる? 怖くて動けないでござるか!? それとも戦意を喪失したでござるか!? まぁ無理もない。お主の攻撃は決して当たらず、拙者の攻撃は必中でござるからな!」
私の周囲を他のプレイヤーが駆け抜けていく。忍者さんがバトルを終えるまでに突破しようという方針だからだ。
「ふむ。お主にだけ時間をかけていては多くのプレイヤーに突破されてしまうでござる。名残惜しいが、そろそろ終わりにするでござるよ!」
ギュン! と、一瞬で私の右側面に現れた忍者さんが、小刀を振り下ろした。
【乃介の攻撃】
――うん。時間を掛ける必要はないよ。目はとっくに慣れたんだから……
私は右腕を小刀に向かって振った。
私の右腕が、小刀と接触するその瞬間……
バキン!!
青白い光と稲妻が走るエフェクト共に、甲高い効果音が響き渡る。それと同時に忍者さんが仰け反り、動きが止まった。
【沙南のアビリティが発動。ブロッキング】
「なっ!? このスピード差でブロッキングだとぉ!?」
驚愕する忍者さんに向き直って、私は拳を構えた。
【沙南が特技を使用した。咆哮牙】
相手の体に喰い込むように、指を90度曲げて、掌打を放つように打ち込む!
【沙南のアビリティが発動。先手必勝】
【沙南のアビリティが発動。カウンター】
【乃介に3万3292のダメージ】
「ぐっはあぁぁぁ~……」
断末魔を上げて忍者さんは吹き飛んだ。
あ、カウンターってブロッキングすると発動するんだ。そういえば仰け反ってたもんね。
【乃介を倒した】
【沙南は新たな称号を手に入れた。バトルの勝者】
【沙南は新たな称号を手に入れた。下克上】
バトルの勝者:アイテムバトルで初勝利を収めた。ステータスに100ポイントの振り分けができる。
下克上:アイテムバトルでレベルが100以上離れた相手に勝利した。ステータスに200ポイントの振り分けができる。
「そ、そんな……あの高難易度のブロッキングを、スピード特化の拙者に……」
倒れ込みながらブツブツと呟いている忍者さんに、私は近付いていった。
「沙南すごい! 勝っちゃった!」
「ありがとルリちゃん。でもちょっと待ってて」
不思議そうにするルリちゃんを留めて、私は忍者さんの目の前まで歩いていく。そして、忍者さんのアイコンを触って簡易ステータス画面を開いた。
その画面に、プレイヤーバトルと、アイテムバトルという項目が並んでいる。なるほど、これを操作してバトルを申し込むんだね。
私は火の紋章を選択して、決定を押した。
【沙南がアイテムバトルを仕掛けた】
その行為に、物静かなルリちゃんが声をあげて驚く。
私を通り抜けて、地下四階に向かおうとしていた人達も立ち止まって驚愕する。
本人の忍者さんも、顔を上げて呆けているのだった。




