「この建物を倒壊させよう」
* * *
「はぁはぁはぁ――」
廃墟となったビルの中をジグザグに移動をする。そうでもしないとすぐに追いつかれてしまうから。
私は今、柱ばかり立ち並ぶ薄暗いビルの三階にいた。
「おいおい、どこに逃げるつもりだぁ?」
後方からは敵の笑い混じりの声が聞こえてきた。
私は目に入った物陰に滑るようにして身を隠す。そして急いでクランチャットを打ち込んだ。
小狐丸:現在Tエリアにて地下ダン二名に追われてます。応援お願いします!
少し待つと書き込みが追加された。
瑞穂:地下ダンの奴に見つかった。相性が悪いから救援来れない? Fエリアにいる!
ルリ:こっちも追われてる。蜥蜴がすでにやられた。
沙南:ごめん、今お父さんと遭遇して通してもらえない!
姫様がお父上と遭遇した!? しかもこのタイミングでメンバーが一気に襲われている。これは偶然か!?
少し考えていると、さらに書き込みが追加された。
ナーユ:現在地下ダンジョン攻略部隊のマスターを含む三人と遭遇。戦闘に入ります。
まずい。頼みのナーユ様が救援に来れない! 私一人の力じゃかなり絶望的なのに……
けれど、さらに書き込みが追加される。
シルヴィア:子狐ちゃんの所には私が向かいます! それまでなんとか持ちこたえて下さい!
おお!? シルヴィア様が救援に来てくれる! それならば、なんとか持ちこたえなくては!
「へへっ、見ぃ~つけた~!」
ゾクッとするような声が聞こえて周囲を見渡すと、障害物の奥から簡易ステータスが見えた。
そうだった。このゲームはどこにいても簡易ステータスで居場所が丸見えだった……
私は急いでその場を離れる。すると――
――ズガアアアアアアン!!
さっきまで私が背を付けていた壁が粉砕して、一つの人影が現れた。
「だからさぁ、逃げても無駄なんだって」
バンバンと拳と拳をぶつけ合っているその男性は、武道着を着た坊主頭だ。
……そう、姫様と同じ武闘家。ただその性能は違う。
姫様はATKに全振りしているけど、この人はATKとAGIの両方に振り分けている。元々武闘家はこの二つのステータスが伸びやすく、盗賊や忍者とまではいかなくても、十分スピード特化に仕上げる事は可能だ。
防御面は盗賊や忍者以上にスキルがないため、おそらく一撃を与えれば倒せるだろう。けど、その一撃がなかなかに遠い……
私は、スピード特化が大の苦手なのだ!!
「お~い、仕留めたのか? なんだ、まだ遊んでたのか」
坊主頭の武闘家の後ろからもう一人の男性が追いついてきた。
鋭く長い槍を肩に乗せた軽装で短髪の男性。中距離戦が得意な『槍士』だ。
レベルは二人共900を超えて1000まであと少しという域だ。どちらか一人が相手なら私も引けを取らないが、二人同時だと流石に分が悪い。
「遊んでる訳じゃねぇよ。柱ばっかりの建物の中じゃ、俺のスピードが活かせねぇんだ」
「……ふむ。それなら――」
槍を持った人が周りを見渡して、とんでもない事を言ってのけた。
「――この建物を倒壊させよう」
私だけじゃなく、武闘家の人も驚いていた。
「え……そんな事できんの?」
「こういう特殊ステージなら可能らしいぜ。設置物扱いだからな。よっと!」
手に持つ槍を振るうと、太い柱が砕けて建物全体が大きく揺れた。
「へぇ~面白れぇ! そんじゃあ壊してみようか!」
武闘家の人も、その拳を叩きつけて柱を破壊し始める。
この人たち正気!? このゲームは飛来物に当たってもダメージを受けるし、落下ダメージもある。このビルが倒壊したら全滅するんだぞ!
「オラオラァ~ぶっ壊れろ~!!」
目につく物全てを破壊する二人に、本気で危機感を感じた私は出口に向かって走り出した。
いや、ここは三階。もはや出口からは間に合わない!
私は手に持つ刀をコンクリートの床に向かって振り抜いてみた!
斬っ! と、床は切り裂かれて、二階への近道へと繋がった。
このくらいの高さなら落下ダメージは僅かで済む! 私は床の穴から二階へと飛び降りた。そして一気に窓まで走って、窓から地上へと飛び出した!
ズウウウゥゥン……
静かな重低音が響き渡り、ビルが崩壊し始めた。
「やっと外に出たかよコノヤロウ」
武闘家の人が私のルートを辿って窓から飛び出してきた!
【ファイが特技を使用した。震脚】
落下する勢いのまま、私ごと踏みつけようとその足を高く掲げる!
この技は地面に密着しているとダメージを受ける!
私は後方に大きく飛び退いだ。
地面を踏みつける武闘家の特技で、ビルの地盤が完全の崩壊する。それによってビルは、ペシャンコになるように崩れていった。
巻き起こる爆風と砂埃で周囲が見えない。とんでもない事を考える人達だ……
私は刀を構えて、その刀身を見つめた。
うん。刀は良い。見ているだけで心が落ち着く。こんな風にビルが倒壊して耳がビリビリしているというのに、心はすでに落ち着いて穏やかだ。
……まぁ、状況が最悪なのは変わりないんだけど……
ユラリ、と、舞い上がる砂埃の奥から人影が写った。
槍士の人だ! 槍士は確か、落下ダメージを受けないアビリティを持っていたはず! 三階から飛び出して、私を直接狙ってきたんだ!
私は地を蹴りその場を離れると、砂埃を切り裂いて鋭い槍が一閃する。
「むぅ!? そこかぁ!!」
武闘家の人も気配を感じて、私に向かって突進してきた!
急いで体を捻ると、豪速の正拳突きが私の頬を掠めた。
「くぅ……」
やっぱり二対一は厳しい……
段々と砂埃が治まってくると、私は武闘家の人と槍士の人に囲まれているのだった。




