「俺達の間では長い事ずっと噂になっていることがある」
* * *
「ん~……イベントポイント1251。討伐数11かぁ……」
なんだろう。やたら狙われる気がする。
もちろんバトルロイヤルってルールだし、私のレベルは785だから、丁度地下30階をクリアした辺りの戦いに飢えている盛んな人達から狙われやすいのかもしれない。だけど、たまにレベルが1000を超えるプレイヤーが襲って来ることもあるのよね……
このイベントでは自分よりもレベルの低い相手を倒したとしてもポイントは入らない。にも拘らず、なんで私に襲い掛かって来るんだろう?
私がゲームマスターだから勝負したいのかな? でも前回のイベントでは勝負を挑まれなかったし……。って、あの時は高速で動き回ってたんだっけ。
「あ、いた! ゲームマスターだ! マジでクランに所属してたんだ」
声が聞こえたので振り返ると、私は表情を変えてしまうほど驚いた。
『地下ダンジョン攻略部隊』。クラン名にそう書いてあるプレイヤーが三人もいたのだから。
……三人はちょっとキツイかな。でも、私のAGIならいざって時には逃げられるし、決してどうしうようもない数じゃない。だけど問題なのはそのレベル。
一人は槍士。レベルは924。
もう一人は魔術師。レベルは839。
そしてその二人の中心にいる人物。恐らく剣士であろう彼のレベルは1207。
今このゲームで実装されているのは地下30階まで。そしてその地下30階をクリアする目安は大体レベル600だと言われている。地下1階進むのに、レベル20は上げた方がいいらしいからだ。
しかし、その地下30階をクリアしてもなおレベルを上げ続けているプレイヤーは多い。
ゲームが好きな身内に聞いたところ、ゲーマーというのはレベルをとにかく上げたがるらしい。
私もこのゲームが始まってから一年間ずっとプレイしているけど、それでもレベルは785だ。
レベル800。900ともなると、かなりの時間をレベル上げに費やしてくれているプレイヤーという事になる。
レベルが1000を超えるプレイヤーはごく少数で、ほぼ確実に課金をしてくれている。課金アイテムの中には一時間だけ経験値を二倍、三倍にするアイテムもあるから、それを使っている可能性が高い。
レベルが1100を超えているプレイヤーはかなりのガチ勢らしい。このゲームを愛して、このゲームが生活の一部だと言っていいほどの時間を費やしてくれている。
さらにレベル1200を超えるプレイヤーは指折りしかいないらしい。イベントランキング上位に食い込む、トップクランのマスター達って聞いた事があった。
運営側としてはそれだけ遊んでくれるのはありがたいんだけど、正直、私には真似できないなぁ……
それはそうと、つまりこの1207レベルのプレイヤーは……
「地下ダンジョン攻略部隊のマスターですね?」
「その通り。このクランでマスターを務めている、ハルシオンという。よろしく」
以外にも落ち着いた様子で、ちゃんと挨拶をしてくれたので私もペコリと頭を下げた。
ハルシオンさんという彼は、赤い髪の青年アバターだ。剣を腰に下げ、カッコいい装備を装着していて、いかにも歴戦の戦士という言葉が似あっていた。
「ゲームマスターよ。俺はずっとあなたを探していた」
「私をですか?」
「そうだ。だからどうか、俺と戦ってくれないだろうか」
どうしてだろう? イベントポイントが狙いって訳じゃなさそうだけど。
「どうして私と戦いたいんですか?」
「ふむ。あなたは知らないだろうが、俺達の間では長い事ずっと噂になっていることがある。それが、『ゲームマスターを倒せば称号が貰えるのではないか』という話だ」
私を倒すと称号? 正直、考えてもみなかったので分からないなぁ……
「どうだゲームマスター。この噂は本当なのか?」
「すみません。私は開発やプログラム担当ではないので分かりません。そもそも、このゲームの内部情報すら聞かされていないんです。一人のプレイヤーとしてゲームに参加して、バランスを見たり、マナーの悪い人に忠告するのが仕事ですので……」
するとハルシオンさんは顎に手を当てて考え込む。
青年のアバターを使っている割には、落ち着いた大人のような口調ね。もしかしてリアルは成人しているのかもしれない。
「なら質問を変えよう。これまでにプレイヤーバトルで負けた事はあるか?」
うわ~。その質問はどう答えても面倒くさい事になりそうだなぁ。
「ノーコメントです。これ以上は何を聞かれても答えませんから!」
「そうか。ならばはやり、勝利して自分の目で確かめるしかないという訳だ」
ハルシオンさんが腰の剣に手を当てる。
もしかしてレベルの高いプレイヤーがやたら攻撃を仕掛けてくるのって、その噂のせいだったりするのかしら?
まぁ私も、沙南さんの目的のために地下ダンジョン攻略部隊は全滅させるつもりだから、結局は戦うけどね。……私の力、トップランカーにどこまで通じるかな。
「お前達は手を出すな。俺一人で戦う」
ハルシオンさんが、左右にいる二人にそう言った。
「ええ~!? 俺達も加勢しますよ!?」
「やめておけ。藪蛇をつつく事になる。お前達はゲームマスターが逃げようとした時にだけ全力で妨害すればいい」
そうして剣をスッと抜いて、構えを取る。
私は素早くクランチャットを送信してから、二本の短剣を腰から抜き、両手で構えた。
「さぁこい! 今こそ真実を確かめる時だ!」
「……本気で行きます!!」
息を軽くはいて、体の重心を傾けて、私は思い切り地を蹴るのだった!




