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「沙南と出会えてよかった……」

「パーティー登録完了っと」


 私達は二人で遺跡の入り口に立つ。すると吸い込まれるように内部へ引っ張られて、気が付くと薄暗い遺跡の中にいた。

 内部は点々と松明がともされており、割と狭い印象を受ける。

 まぁ、外がかなり広いせいかもしれない。


「ルリちゃんはなんて言うクラスなの?」

「ん……魔法剣士」

「へぇ~! なんでそのクラスにしたの?」

「……武器を振り回して魔物と戦うのってかっこいいから。……けど、魔法も使ってみたかったから、両方やれる魔法剣士にした」

「あはは、そうなんだ」


 私はルリちゃんとおしゃべりをしながら遺跡の中を進んでいく。


「……沙南は? なんで武闘家?」

「私はね、お父さんをこらしめるためだよ!」

「……? 何それ……?」


 取りあえず事情を説明する。そうして進んでいくと、すぐに最深部に到着した。

 ……到着したんだけど……


「うわぁ、魔物がいっぱいだよぉ……」

「……これ、逃げた方がいいんじゃ……?」


 そのフロアは巨大な空間になっているが、無数の魔物がはびこっていた。

 簡単に見積もっても50匹はいる……


「いや、多分逃げちゃだめだと思う。二人でパーティーを組んで入った場所だから、二人で協力して魔物を全滅させろって事なんだよ」


 私はルリちゃんにそう言って、拳を構える。


「怖かったら私一人でやるよ? どうする?」

「……やる! むしろ勝負したいくらい。私がこっちを担当するから、沙南はあっち……」

「うん。わかった。じゃあどっちが早く倒せるか勝負ね」


 私達は同時にフロアへ突入する。そして魔物に向かって攻撃を仕掛け始めた。

 数分が経過して、私がようやく半分ほど魔物を減らしたところで、すでにルリちゃんは自分の領域の魔物を一掃していた。


「私の勝ち……今から沙南の援護をする」

「ふえぇ~……お願い~……」


 私は防御に一切ポイントを振っていないので、あまり敵の攻撃を喰らいたくない。慎重に行動していたらルリちゃんがあっさりと壊滅させていた。


「ルリちゃん凄いね! 強いよぉ~!」

「……ん。私は魔法も使えるから遠距離攻撃とかで敵を狙える。こういう闘いは得意!」


 フンス! と、ルリちゃんはドヤ顔で胸を張る。

 良かった。すごく楽しそうにゲームをしていて安心だよ。


「沙南、あそこに紋章がある!」


 見ると、奥の祭壇らしき所に紋章が二つ掲げられていた。

 私は二人でその紋章に触れてみた。


【沙南は水の紋章を手に入れた】


 やった! これで一つ目ゲットだよ! 確か四つ集めると地下四階に進めるんだよね。

 そうして私達は、無事遺跡の外へ出る事ができた。


「ふ~。ルリちゃんお疲れ様~」

「お、お疲れ様……あ、あの、沙南……」


 何やらルリちゃんはモジモジとしていた。


「ん? どうしたの?」

「あ、あの、えっと、次……その……あぅ……」


 あ、そうか。なんとなく言いたい事がわかったよ!


「ねぇルリちゃん。次の紋章も、このまま一緒に取りに行かない? もちろんパーティー登録はしたままで」


 私の方からそう誘うと、ルリちゃんの表情がパァっと明るくなった。


「う、うん! もっと、その……沙南と一緒に遊びたい……」


 あわわわわわ!? ルリちゃんがやっと私に心を開いてくれたよ!! 物凄く嬉しい!!


「私もね、ルリちゃんともっと一緒に遊びたかったんだ!」


 そう伝えると、ルリちゃんは顔を赤くして俯いてしまった。

 照れてるルリちゃん可愛い。

 そうして私達は、次の紋章を手に入れるために別のルートへ向かった。二人で魔物を蹴散らして、二つ目の紋章はあっさりと見つける事ができた。


【沙南は地の紋章を手に入れた】


 しかし、ここでそろそろログアウトしなくてはいけない時間だという事に気が付いた。


「じゃあルリちゃん、私はそろそろ落ちるね」

「……わかった。沙南が落ちるなら、私も落ちる……それで、その……」


 再びルリちゃんがモジモジし始めた。


「あ、明日……は……?」

「明日も今日と同じくらいの時間にログインするよ。ルリちゃんも入れる?」

「うん……また明日、沙南と会いたい……」


 なんだか捨てられそうな仔犬みたいな目で見つめられた。

 そんな風に見られたら、心配で放っておけなくなっちゃうよ……

 そうして私達は、手を振ってログアウトするのだった。


 ――ゲーム開始から三日目。


【沙南はガチャチケットを手に入れた】


 やったー! 今日のログインボーナスはガチャチケットだよ!

 初日は回復薬。昨日はゴールドだったけど、ガチャチケットは嬉しいよね!

 私はすぐに使いたいという衝動を抑えて考えた。これまで私は銀色のハズレしか引いていない。なんだかこのまま引いたらまた銀色が出そうな気がする。だったら地下三階をクリアして、チケットを二枚にしたらどうだろう? そうすれば、どっちかが銀でも、もう一つくらいは当たりが出そうな気がする。

 ……まぁ普通に運の問題なんだけどね……

 とりあえず私は貯めておくことにした。

 それにしてもルリちゃんがログインしてこない。昨日はこの場所、この時間で約束したんだけどなぁ。

 もしかしたら学校の宿題とかが終わらなくて、今日はインできないのかもしれない。だとしたら待っていても仕方ないので、私だけで地下三階を巡ってみようかな。

 ルリちゃんは風の紋章はもうすでに取ったって言ってたから、私もこの間に取っておこう。

 そう決断して、私は地下三階の風の紋章がある通路へと歩みを進めた。

【沙南は風の紋章を手に入れた】


 特に問題なく三つ目の紋章を入手できたよっ!

 残すはあと一つだけど、今日はルリちゃんインしないのかなぁ……

 そう思っていた時だった。


 ――ピコリン! ピコリン!


 何やら通知音が鳴り出した。

 コマンドを開いてみると、どうやらメールが届いたらしい。その宛先を見てみると、なんとルリちゃんからだった。

 私は急いで内容を開いてみる。


『ごめん。やっぱり私、このゲームもう辞める。昨日は本当に楽しかった。今までありがとう。……さようなら』


 衝撃で心臓が跳ね上がる。

 信じられなくて目の前がグニャリと歪みだす。

 それほどショックだった。意味がわからず、ただ固まって、体が震えていた。


「あ、ログイン状況!?」


 呆然としていても仕方がない。私は頭をフルに回して、フレンド登録をしていたルリちゃんのログイン状況を確認してみる。メールを出したという事は、少なくともその間はインしてきたという事だ。

 フレンド一覧に表示されたルリちゃんは、まだログインしている状態だった。

 私は慌てて個人チャットを開き、ルリちゃんにメッセージを送る。


沙南:ルリちゃんどうしたの!?


 急いでそう送信した。

 とにかくログアウトする前にメッセージを送りつけて足止めをしたかった。

 そして続けて文字を打ち続ける。


沙南:なにかあったの!? 今どこにいるの!?


 すると、一言だけ返信がきた。


ルリ:最初の街

沙南:わかった。すぐに戻るから!


 チャットを閉じて、私はすぐに転送装置の所まで走り出した。

 転送装置から街へ戻り、街の広場をグルリと見渡す。けれどルリちゃんはどこにもいない。

 もう一度ログイン状況を確認してみた。

 大丈夫、まだインしている。

 一体どこにいるんだろう。ルリちゃんは他のユーザーから拒絶されてから、誰かと接触するのを怖がっていた。だとしたら人の少ない所だ。いつもシルヴィアちゃんがいる路地裏!

 私はお店の間から路地裏に入る。その先は玄人が使うようなお店が並ぶ、人知れない場所。今日はシルヴィアちゃんがいない代わりに、ルリちゃんがうずくまっていた。


「ルリちゃん!!」


 駆け寄って、ルリちゃんの正面で膝を付く。


「……沙南……?」


 元気のない声で顔を上げたルリちゃんは、今にも泣きそうな表情だった。


「辞めるって何!? 何があったの!?」


 私が問いかけると、ルリちゃんは俯きながら少しずつ話し始めた。


「……今日ね、ここにログインする前に、ダンジョンクエストの事を調べてたの。どんな情報があるかとか、どんな書き込みがあるかって見てた。そしたらね、色んな掲示板の中に、『害悪プレイヤー晒しスレッド』ってのがあったの……」


 私は息を呑んだ。

 『プレイヤー晒しスレッド』。お父さんから聞いた事がある。気に入らないプレイヤーや、ゲームの邪魔になるプレイヤーを次々と載せていき、見ているみんなに注意を呼び掛けるスレッドだ。……ただし、かなり過激で、私怨や主観も含まれているらしい。


「ルリちゃん。もういいよ……」


 この時点で、大体の流れは予想できた。


「……そこに私の名前が載ってて、もの凄い悪口が書いてあった……死ねとか――」

「――もう分かったから!」


 私はルリちゃんを抱きしめた。そうせずにはいられなかった……

 そんなルリちゃんの体は震えていて、しゃくり上げるような吐息を感じた。


「ルリちゃん、そんな書き込みは気にしなくていいんだよ。掲示板ってさ、良くも悪くも、人の本心が出る所なんだってお父さんが言ってた。そしてね、中には過激な話題を好む人達もいるんだって。リアルじゃ口に出せない暴言を使って、刺激を求めたりするらしいの。ルリちゃんはそこに載ったかもしれないけど、これからちゃんとマナーを守って行けば大丈夫なんだよ?」

「……でも、ゲームの中でも怒られるかもしれない。悪口言われるかもしれない……そんなの怖いよ……」

「大丈夫。私がいるよ。ゲームの中にいる時は、ずっと私がそばにいてあげる。私はどんな時だってルリちゃんの味方だから」

「……沙南……でも、沙南は迷惑じゃない……?」

「迷惑じゃないよ。だってもう友達でしょ? 昨日も言ったけど、私ね、一緒にゲームをする友達がずっとほしかったんだ。だからルリちゃんと友達になれて凄く嬉しいんだ~」


 ルリちゃんは困惑していた。ちょっと恥ずかしそうに頬を染めて、それでもその手は私の服をキュッと掴んで離さない。


「……わ、私も、沙南と友達になれて嬉しい。もっと沙南と一緒にいたい!」

「えへへ。それじゃあこれから地下三階を攻略しよう! 大丈夫、心配しないで。ああいう掲示板を見ている人ってごく一部のプレイヤーだけだから」


 そう言って、私はルリちゃんの手を引いて再び地下三階へと向かう。


「……私、沙南と出会えてよかった……」


 周りの雑音にかき消されそうな小さな声で、そう呟くのが聞こえた。そんな言葉に嬉しく感じてしまう私だった。

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