「び~すとふぁんぐってクランだったよね」
* * *
「さて、メンバーと合流するか」
クランチャットを閉じて、俺は目的地へ向けて歩き出した。
俺のプレイヤー名はJIN。みんなからは気軽にジンって呼ばれている。
最近になって地下ダンジョン攻略部隊に所属する事ができるようになった新メンバーだ。
こんなBIGなクランに入れるなんて、やっぱり俺って運がいいぜ!
俺がこんな超有名クランに入ったのには理由がある。それは、ゲームを楽してプレイしたいからだ。
地下ダンジョン攻略部隊に入れば、イベントで上位を取れること間違いなし! つまり、楽して上位報酬を貰えるってわけ!
たまにさ、ゲームばっかしてプレイ時間が凄い人とか、メチャクチャ課金している人とかいるじゃん? 俺ってそういうプレイスタイルが理解できないんだよね。ゲームってもっと力を抜いてやるもんっしょ!
楽して難易度の高いダンジョン潜って、楽して凶悪なボスを倒して、楽して報酬ゲッツする! そう、ゲームって俺みたいに頭を使ってうまくプレイしていくものなんだよ。
俺のレベルはやっと600になったばかりで、今実装されている最深部までストーリーを進めているけどさ、そんなに努力をした覚えはない。強いプレイヤーと友達になって助けてもらったり、いらなくなった強い装備を分けてもらったり、そうやって自分の利益になるプレイヤーと仲良くしていれば、自ずと楽できるってわけよ!
そんで今回、俺の実力を認めた地下ダンジョン攻略部隊が、俺のクラン入りの申請を承認してくれたんだよね。
「おい、あいつ地下ダンジョン攻略部隊だぜ!? やべぇ離れるぞ!」
俺を見て他のプレイヤーが逃げていく。
はーはっはっは!! こりゃあ愉快だ! 俺の簡易ステータスを見ただけでビビって戦いを挑もうともしない。これが最強クランに入った恩恵ってやつなんかね? こっから俺のビューティフルライフは加速する。精々楽してイベントの上位報酬を頂きますよってなもんだ!
けど、こういうのを『寄生』って言って、本来ならあまり喜ばれる行為じゃない。けど俺はそんな寄生しているなんて悟られるほど馬鹿じゃない。ちゃんとイベントには参加して、それなりにイベントポイントを稼いで貢献していますよって言うアピールは必須となる。
まぁこればかりは、必要最低限の労力ってことさ。仕方ない仕方ない。
「ん~みんな頑張って戦ってるねぇ。ご苦労ご苦労!」
目的地に向かいながら周りを見ると、バトルロイヤルらしく色んなプレイヤーが戦っている。
一人を複数で攻撃する者。障害物に隠れながら、遠距離攻撃を主体としている者、様々だ。
俺のレベルは600だから、このイベントを生き残ればボーナスとして600ポイントが手に入る。悪くは無いけど、出来ればもう少しだけ稼いでおきたい。
ん~、どっかに不意打ちできそうなカモはいないかねぇ?
【小狐丸が大技を使用した。絶技、縮地の法・鬼神斬】
――斬っ!!
ん? なんだ?
物音が聞こえたので見てみると、俺の隣には頭から狐の耳を生やしたちっちゃい子が刀を振り抜いていた。
は? いつの間に……?
その子は刀を鞘に納めると、何も言わずに走り去って行く。
え……? ちょっと待て、もしかして俺、今攻撃されたのか?
自然と戦闘ログに目を向ける。
【JINに512万9742のダメージ】
……は? いやいやなんだよこれ!? 不意打ち? ふざけんなよ! こんな事があってたまるか!
【JINはやられてしまった】
ま、待て、待ってくれ。俺、まだ何もしてないぞ!?
地下ダンジョン攻略部隊に入れば、みんな怖がって避けていくんじゃないのか!?
目の前が光りに包まれて、その光が治まった時には草原に立っていた。あの、イベントが始まる前に待機していた場所だ。
信じられねぇけど、俺は……本当にやられちまったんだ……
「ジン! お前も脱落が早かったな」
そう声を掛けられたので振り返ると、そこには同じクランメンバーのジークさんがいた。
「ジークさん!? え、ジークさんも脱落したんですか!?」
「俺だけじゃないぜ?」
するとジークさんの後ろから、ぞろぞろと顔見知りのメンバーが申し訳なさそうに姿を現した。
「え!? エクスさんに武蔵さん!? 幽玄さんにあやめちゃん!? って、こむらがえりさんやゼノさんまで!?」
ちょ、ちょっと待って!? ジークさんはレベル800を超えてるし、こむらがえりさんはもうすぐでレベル四ケタだぞ!? っていうか、ゼノさんなんて1000レベル超えてる。この人達がなんでもう脱落してんだよ!?
いやそれだけじゃない。レベルは俺とそんなに変わらないエクスさん、あやめちゃんだって強力なスキルを持っている。みんなそう簡単に負けるはずないはずなんだよ!!
「な、なんで!? まだイベント開始してから三十分も経ってないのに、なんでみんなやられてるんですか!? 一体誰にやられてたんです!?」
しかし、みんな気まずそうにして口を開かない。
そんな中で、ジークさんが答えてくれた。
「実は、俺って誰にやられたか見てないんだ。背後から不意打ちされて、一撃で戦闘不能にされた」
「えぇ!? マジですか!? あのジークさんが一撃で!?」
すると武蔵さんも重い口を開いた。
「お、俺は遠くから魔法で狙撃された。気が付いたら大技を喰らってて、誰にやられたかは分からない」
次に、こむらがえりさんと幽玄さんも会話に入ってきた。
「俺達はゲームマスターにやられたよ。幽玄と一緒に行動してたんだが、油断しているうちに速攻で幽玄を戦闘不能にされちまってさ、ガチのタイマン張ったけど俺じゃ勝てなかったわ」
「び~すとふぁんぐってクランだったよね。まぁ、ギリギリでマスターには連絡できたし、きっと敵をとってくれるよ!」
ゲームマスターって、運営って事か!? 運営ってこういったイベントに参加するもんなの!? いや、っていうか、こむらがえりさんがガチ勝負で勝てないってどんだけ強いんだよ!!
「待って! そういえば、あたしが負けた相手も確かび~すとふぁんぐってクランだったよ」
あやめちゃんも同じクランにやられた!? これって偶然か!?
するとクエスさんが俺に話しかけてきた。
「ジン君。キミは誰にやられたんだい? 僕は普通に戦ってたんだけど、相手のクラン名までは見てなかったよ」
「俺も見てませんでした。いきなり斬りかかられて……狐耳の子供みたいな姿だけは見えたんですけど……」
すると今度は、今まで黙っていたゼノさんが口を開いた。
「いや~、まぁこれだけじゃ偶然かどうか分かんないッスね。もう少しイベントの流れを見てからでもいいんじゃないッスか?」
なんだかゼノさんは苦笑するような表情だった。どうしたんだろうか?
あれ? そういえばゼノさんは誰にやられたんだろう。どうせ暇だし、聞いてみようかな。
俺がそう思った時だった。奥の方で騒めきが起こって、俺達の意識はその方向へと向けられた。
「なんだコレ! こいつヤバくね!?」
「ここどんなクラン? 知ってる?」
「いや知らねぇ。新しく出来たクランじゃね?」
騒めきはイベントの経過を常時更新している、掲示物の周辺だった。
俺達も引き寄せられるようにそこへと向かって、人ごみをかき分けてその掲示物を見てみる。
現在のイベントポイントランキング(個人)
一位、沙南(び~すとふぁんぐ):2485ポイント
現在の討伐数ランキング
一位、沙南(び~すとふぁんぐ):18人
現在のイベントランキング(クラン)
一位、び~すとふぁんぐ:1897
「イベントランキングは終わってみたいと分かんないけど、この沙南って奴のポイントがでかいよな」
「ってか、イベントポイントって最高でも1000が上限だろ? なんでこの沙南ってプレイヤーはこんな稼いでんだ?」
「知るかよ。ルールよく分かって無くて、とにかく挑みまくってるんじゃね?」
「それか、もう上限に達したから、どこまで上げられるかチャレンジしてるとか?」
周りの憶測も気になるけど、確かな事はただ一つ。このび~すとふぁんぐってクランにうちのメンバーが何人かやられているって事だ!
もしこの沙南ってプレイヤーが、ジークさんや武蔵さんを不意打ちした犯人だとしたら、こんだけイベントポイントが高いのも納得がいく。
「あちゃ~……この調子じゃ、今回ばかりはイベントランキング一位は無理ッスかね?」
ゼノさんが諦めたようにそう言った。
そ、そうだよ! 俺、イベント上位報酬欲しさでこのクランに寄生したのに、なんで今回はこんな結果になってるんだよ!! 地下ダンジョン攻略部隊はここ最近のイベントは九連続一位の最強クランじゃなかったのか!?
そもそも、すでにメンバーの八人が脱落って、一体何が起きてるんだよ!?
そんな奇妙な出来事と、計算が狂って泣きたい気分が合わさって、俺は平静を保てないのだった……




