「『盾士』にだけは気を付けた方がいいと思います」
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「沙南ちゃん、これを渡しておきますね」
そう言って、シルヴィアちゃんは一枚のメモ用紙を渡してきた。
「あっ! これって!?」
「言われた通り、地下ダンジョン攻略部隊、全メンバーの詳細をまとめたんです。沙南ちゃんは基本時に誰が相手でもその攻撃力で圧倒できますから、特に相手を選ぶ必要はありません。それでも一応目を通しておいて下さい」
「うん、ありがとうね!」
「いえいえ、沙南ちゃんのためなら、これくらいお安い御用ですよ。うぇへへ~」
時々私を見る目が怖いけど、それでもシルヴィアちゃんは本当に良くしてくれる。今も嬉しそうにクネクネと奇妙な動きをしているんだけど、そんなシルヴィアちゃんに色々と聞いてみたい事があった。
「ねぇシルヴィアちゃん、私って本当にどのクラスとも戦えるのかな?」
するとシルヴィアちゃんは奇妙な動きを止めて、まじめに話し始めた。
「そうですね。もちろん簡単とは言いませんが、それでも沙南ちゃんはどの相手にも勝てるだけのスペックはありますよ。強いて言うなら『盾士』にだけは気を付けた方がいいと思います。けど地下ダンジョン攻略部隊には、その盾士がいませんから」
盾士っていうクラスが私と相性が悪いのかな? 後で詳しく聞いてみよう。
「それじゃあさ、お父さんが本気を出したら、私でもダメージを与えられないって言うのは本当の事だと思う?」
「そうですね……。シンギさんのクラスは剣士ですから、まぁ可能性はあると思います。剣士は攻撃力と物理防御力が抜きんでて強いクラスですから。そこに防御重視の課金装備を揃えられたら、もしかするかもしれません」
「課金装備ってそんなにヤバいのがあるの?」
「このゲームがリリースされてから一年以上経ちましたが、その間にアクセサリーを含めて五つの装備全てに『ダメージ半減効果』のある課金装備が実装されています。それら全てを揃えているとしたら、あるいは……」
お父さんは重課金してそうだったもんね……
そして私は、少しでも攻撃力を上げようと考えるのだった。
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「見つけた……」
イベント開始から色んなプレイヤーに狙われて、そのあと数分間捜索をしていた時だった。私の30メートルくらい前方にゆっくりと歩いている男性がいる。
『地下ダンジョン攻略部隊』。頭上の簡易ステータスには確かにそう書かれていた。
クラスは剣士。レベルは842と、かなり高い。
私は物陰に隠れながら彼を尾行していた。
な、なんだか緊張する! 暗殺者ってこんな感じなのかな……?
FPSだと不意打ちなんて当たり前だけど、VRだと全然違う。リアルな感覚なだけに変に意識しちゃうよ……
そんな事を考えていると、その男性が立ち止まった。
なんだか開いた画面を見つめたり、指をしきりに動かしている。
クランチャットでもやってるのかな? だとしたら、ここが待ち合わせ場所で、もうすぐ他のメンバーと合流しちゃうかもしれない!
やるなら今だ。今なら後ろを見せているから背後から攻撃できる!
【沙南がスキルを使用した。力溜め】
【沙南がスキルを使用した。ベルセルク】
【沙南がスキルを使用した。クリティカルチャージ】
【沙南がスキルを使用した。気功術】
相手は天下の地下ダンジョン攻略部隊。課金装備だってしているはず。
……出し惜しみ無しで全力で行くよ!!
【沙南がスキルを使用した。ソニックムーブ+1】
足音を立てないように飛び上がり、一瞬で相手の頭上まで移動する。そして頭から地面に叩きつけるように、この両手を叩きこむ!
【沙南が大技を使用した。絶技、獣神咆哮牙】
ズガアアアアアアン!!
地面が窪み、激しい音が響き渡る。
「がっ……はっ……」
【ジークに1801万3280のダメージ】
【ジークを倒した】
相手のHPゲージが無くなり、その姿が光りとなって消えていく。
やった! 倒せたよ!! しかもお父さんと同じ剣士にこれだけのダメージを与えられるって事は、お父さんだって十分倒せるって事なんじゃないかな!?
……まぁ今のは不意打ちで、防御スキルを使わせなかったからなんだけどね……
でも少しだけ自信ががついたよ! この調子でドンドン倒していこう!
そうして私は近くの瓦礫の陰に体を隠した。
あの人は誰かと合流しようとしていたに違いない。だとしたらここに隠れて待ち伏せをすれば、また不意打ちで倒せるかもしれない!
とりあえず待っている間に、自分のイベント覧を表示してみた。
討伐数5。
イベントポイント688。
これが相手からみた私の簡易ステータスになるはず。
私はまだレベルがそんなに高くないから、イベントポイントが増えやすい。
けど確か上限が1000だったはずだから、すぐ溢れる事になるかもしれないよぉ。
「そうだ、みんなに報告しよっと」
沙南:地下ダンの一人を討伐したよ! ジークさんって人。
そう送信をして返事を待つ。だが――
ザッ!
足音が聞こえたのでそっとチャット覧を閉じる。瓦礫の隙間から覗いて見ると、また一人の男性が周りをキョロキョロとしていた。
クラン名を確認すると、地下ダンジョン攻略部隊と表記されている。
当たりだ。連続で二人を狩れるなんて幸先が良い。あとはさっき使った絶技のリキャストタイムが終わったら、また同じように奇襲を仕掛けるだけ。それまでの間はここで隠れていればいい。
……それにしてもこの人、どこかで会ったような気がする。どこだっけ? ……あっ! 思い出した! このゲームでお父さんを見つけた時に、一緒に付いて来ていた人だ! 名前はゼノさんって言うんだね。これも何かの因果なのかなぁ。
そんな事を思いながら隙間から覗いていると、ゼノさんがじ~っとこっちを見ている事に気が付いた。
あ、あれ? 私隠れてるよね? なんでこっちを見てるんだろう……?
「そこに隠れてる人、出てくるッスよ」
ドキンと心臓が跳ね上がる。
な、なんでバレちゃったの!? あ、もしかして私の他に隠れている人がいて、その人に言ってるとか?
周りを見てみるけど、誰かがいる様子はない。また隙間から覗いて見ると、明らかに私の事を見ていた。
「出てこないなら、もう攻撃しちゃうッスよ~?」
あ、あれ? あれあれ? これってマズいんじゃない!? 確実に私に言ってるよね!?
なんだか予想外の出来事で、私の額からはタラタラと冷や汗が流れ落ちるのだった。




