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「久しぶり。元気だった?」

「久しぶり。元気だった?」


 私は拠点の近くでおしゃべりをしているメンバーに声をかけた。

 久しぶりと言っても、まだクランを抜けてから一週間も経ってないんだけどね。


「え……おわっ!? 瑞穂たん!? ひ、久しぶりだね~。どうしたの!?」

「ちょっと、マスターに話があって」


 元メンバーだったプレイヤーに軽く挨拶を済ませて、私は拠点へと向かう。

 ……そう。ここは前回のイベントランキング八位。『モフモフ日和』の拠点だ。

 私は中に入る前に猫耳カチューシャを装着する。このクランは動物好きが多いという事もあって、メンバーは誰であろうとケモミミアバターにしなくてはいけないという変わった決まりがあるからだ。


 ケモミミは仲間の証であり、クランの絆。

 動物好きに悪い人はいない。


 そんな事を常日頃から唱えるクランなのだ。

 そんなクランに私が入ったのは、今から数か月前。特に深く考える事も無く、動物が好きだという理由で入隊をした。


 あの頃の私はゲームで遊ぶというよりも、自分を見せつける事を目的としていた。

 リアルでは可愛い可愛いと言われて育ち、ああ、自分は可愛いんだなと、そう認識するようになった私は、このゲームを始めた時も、リアルの外見をそのままアバターにするというリアルアバターを選ぶ事にためらいなんてなかった。

 そうしてこのクランに入隊した私は、やっぱりここでも可愛いと言われてもてはやされる事になる。

 そこで私は、このクランでアイドルの真似事をやろうと考えた。テレビで見るアイドルを真似して、みんなから注目されたいと思った。

 可愛い声を出して、可愛いポーズを取って、可愛く笑顔を振りまいて、そうやって私は、このクランで確実に人気者になっていった。

 ……けど、そんな真似事を続けていくうちに、私の中では次第に疲労感が募っていくようになった。

 作りたくもない笑顔を作って、自分自身でも引くようなぶりっ子を演じて、それでもみんなが喜んでくれるからそのキャラを続けようとするけども、時がたつごとに私の心は疲弊していった。

 丁度その頃に、私はダンジョンの地下20階まで連れて行ってもらった。みんなは私に良い所を見せたくて、私を守るように必死に魔物と戦っていた。

 だけど結局私はみんなが戦うのをただ見ているだけで、ただ欠伸あくびが出そうになるのを堪えるだけの時間だと言えた……

 もちろんみんなが私のために何かをしてくれるのは嬉しかったし、可愛いと言ってくれるのも嬉しい。でもだからこそ、余計にみんなの夢を壊す訳にはいかないと思って、アイドルのような真似事を止めるわけにはいかなかったんだ。

 ……リアルのアイドルもこんな感じなのだろうか。みんなを喜ばせるために無理をして笑う。疲れてでも演じきる。

 それって、本当に凄い事だと思った……


 そしてついに私は、び~すとふぁんぐに出会う事になる。

 前回のイベント、デブピヨ討伐で私は卵を集める役を進んで申し出た。理由は単純。ただ暴れたかったから。

 一人だと心配だからと、一緒に行動したいと言うメンバーもいたけれど、私は何かと理由を付けてなんとか断る事に成功した。

 あの時はストレスが溜まっていたんだと思う。とにかくプレイヤーバトルで誰かをケチョンケチョンにしてやりたかった。派手に対戦をしたかった。何もかも奪い去ってやりたかった。

 そこに現れたのがルリで、私はあいつに敗北する事になる。

 何もかもが嫌になった私は、その時本気でこのゲームを辞める事さえ考えた。けれど、あいつは私に手を差し伸べてこう言った。


 一緒に遊ぼう、と。


 アイドルの真似事を続ける以外に選択肢なんて無いと思っていた私にとって、その誘いはとても魅力的で胸が高鳴るのを感じた。そして、このドキドキはイベントが終わった後も治まる事が無く、私を悩ませる事になった。

 だから私は思い切って、ルリをモフモフ日和に誘う事を決意した。あいつがいれば、このクランにいても何かが変わるような気がした。いや、変わってもいいような気がした。

 そしてその時に気が付いた。ああ、私はアイドルを続けるあまり、素の性格でみんなと触れ合うのが怖かったんだと。

 本当は素の性格で接したかった。ぶりっ子なんてやめて、普通に話し合いたかった。相手に気を使わずに、自分の言いたい事を言いたかった。

 けど、そうするのが怖かったんだ。アイドルから素の自分に戻った時、受け入れてくれるか不安だった。幻滅されるのが怖かった。

 だからあの日、小狐丸と一緒に勝ち抜き戦をしたあの時に、び~すとふぁんぐに自分と歳の近い子が多いと知ったあの瞬間、その誘惑に耐え切れず、私はモフモフ日和を抜ける事を決意した。

 クランのみんなは何も悪くない。悪いのは私。

 勝手にアイドルを始めて、勝手に疲れて、勝手に怖くなって、勝手にこのクランを抜けた……

 けど今は、もうここに頼る以外に選択肢はない。私ができる事と言えば、シルヴィアと同じように、このクランに頼み込んでび~すとふぁんぐと共闘してもらう事。

 大丈夫。決して私達の関係は悪くない。手を貸してくれる可能性は十分にある!

 私はそう自分に言い聞かせて、クランマスターの部屋を探すのだった。

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