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「男子がおしっこする棒の事なんだと思う」

「そういやアンタ、勉強苦手だったわね」


 頭を抱える私に、瑞穂ちゃんが簡単に言い放つ。

 うぅ。勉強もクイズもナゾナゾも苦手だよぉ……


「ここは瑞穂ちゃんにお任せするよぉ。答え教えて~」

「全く、仕方ないわねぇ」


 後ろで見守ってくれていた瑞穂ちゃんが石板の前に立った。


 『あなまたの まぼうまけん にひまかり あれま』

 マヌケなら読むことができるだろう。


 この文章をジッと見つめながら腕を組む。そして……タラタラと冷や汗を流し始めた。


「瑞穂……? どったの……?」


 ルリちゃんの呼びかけにも答えない。その表情は青ざめていた。


「ごめん。前に来た時は一緒の仲間が勝手に解いてくれたから覚えてないわ……」

「ええ~!?」


 という事は、自力で解かないとダメって事!? 自慢じゃないけど私は力になれる自信は全く無いよぉ!


「ほら、三人寄ればモンキーの知恵って言うし、なんとかなるわよ」

「……」


 何かが違う気がする。もしかして瑞穂ちゃんも勉強苦手なのかな……


「ほら沙南、アンタゲーム得意なんでしょ? 何か閃かないの?」

「え、えぇ~と……そうだ! この文章を英語にして、逆から読むんじゃないかな?」

「それはアンタのお父さんが使ったトリックでしょうが! 覚えた知識をすぐ使いたがる子供か!?」


 むぅ~……私子供だもん……

 そんな風に私が怒られていると、ルリちゃんが石板の文字をなぞりながらポツリと呟いた。


「あなまたの……。穴? 股? おしっこすればいいのかな……?」


 ゴーン……と、頭を衝撃を受けたような目まいがした……


「瑞穂、ちょっとここでおしっこしてみて」


 そしてルリちゃんが、とんでもない事を言い始める。


「なんでよ!? 意味わかんないし!! 答えを入力するウィンドウが出てるのに、なんでそんな事しなくちゃいけないわけ!?」


 瑞穂ちゃんは顔を真っ赤にして否定していた。

 ……当たり前だけど。


「ルリちゃん、女の子がそんな事を言っちゃダメだよ……」

「……? どうして?」

「どうしてって……はしたないからだよぉ」

「……? 沙南だっておしっこするでしょ?」


 ダメだ。ルリちゃんに時々見られる、常識の枠外らしい。


「大体最初の一節目だけで、お、おしっこ……だなんて早計すぎるでしょ!」


 瑞穂ちゃんの意見に、ルリちゃんは考え込みながら二節目をなぞり始めた。


「確かに……なら二節目は、まぼうまけん。……魔棒? 魔剣? あ、わかった!」

「おぉ!? 教えてルリちゃん!」

「あのね、この前クラスの男子が騒いでた。『俺の股間には魔剣が眠っている』って」


 ……え? それって……


「穴、股、棒、剣。きっとこれは、男子がおしっこする棒の事なんだと思う」


 違うー!! 絶対に違うよー!?


「アレなんて言ったっけ? ねぇ瑞穂、アレなんて名前だっけ?」

「えぇー!? い、いや、そんなこと言える訳ないし……」


 瑞穂ちゃんは顔を真っ赤にして、顔を背けていた。


「……? じゃあ沙南が教えて。男子がおしっこする棒の名前。アレなんだっけ?」


 ひぃ~!? これは正気なの!? ルリちゃん誰かに操られたりしてないの!?


「答えを入力しないと先に進めない。ねぇ沙南。アレなんて名前だっけ? ねぇねぇ」


 い~や~!! ルリちゃんが真顔で詰め寄って来るぅ!! ある意味魔物よりも怖いんですけど!!


「あ、思い出した! 確か、おちん――」

「わああああああああああああああ!!」


 私と瑞穂ちゃんが、同時にルリちゃんの口を塞いでいた。


「ルリちゃんダメだよ!! それも女の子が口にしちゃいけないんだからね!!」

「……? なんで?」

「それがマナーだからだよ!」

「……ふーん。沙南がそう言うならもう言わない」


 ふぅ。なんとか納得してくれたよぉ……


「じゃあ入力するね」

「いやしなくていいから! 絶対違うから!」

「むぅ……そんなの入力してみないとわからないもん……」

「わかるわ! 前に来た時はそんな卑猥な単語じゃなかったから! 普通に女の子同士でも話し合える答えだったから!」


 瑞穂ちゃんが必死に訴えるも、ルリちゃんは何故か納得しない……


「でももしかしたら、その時の仲間全員がマナーの知らない人達で、普通に男子のおしっこの棒を話し合えるメンバーだったかもしれないでしょ?」

「んなマナーを知らない下ネタ好きの女子なんてそうそういないわ!!」


 瑞穂ちゃん、ツッコミお疲れ様。ルリちゃんも悪気はないんだ。ちょっとズレてるだけだから。

 ……いやかなりズレてるのかもしれないけど……


「なんか疲れたわ。沙南、もう私達だけで考えるわよ!」

「う、うん。……この四節目の『あれま』っていうのは、あれまー!? って驚いてるのかな?」

「んなアホな……」


 そうして私達は暗号を考えた。

 しかし、こういうのが苦手な私ではどんなに考えても答えはわからない……


「うわ~、やっぱりルリちゃんも考えて。私じゃ全然わからないや」

「……マヌケ」


 ルリちゃんがボソっとそう言った。

 ……え? 今私に言ったの? も、もしかして、私があまりにも頭悪いから、愛想を尽かされたとか!?


「マ、マヌケでごめんなさい……」

「ち、違……沙南に言ったんじゃない!」


 ショックを受ける私に、ルリちゃんは慌ててそう言った。


「ここに書いてある。『マヌケなら読むことができるだろう』って」

「うん。つまり、マヌケな私なら読めるって事だよね……」

「そんな事ないよ!? 沙南はまぬけじゃないから!!」


 精神的にダメージを負った私の頭を、ルリちゃんは必死にナデナデしてくれていた。


「これってさ、『ま』を抜けば読むことができるだろうって意味なんじゃないかな?」


 ほへ? まさかそんな訳……。あ、あれ?


「あ~!? 本当だ!! この文から『ま』を抜くと、ちゃんとした文章になるぅ!!」


 凄いよ! 『あなたの冒険に光あれ』って読める!

 私はさっそく、そう入力をしてみた。すると奥の扉が開かれた。

 ようやく先に進めるよ。ここでどれだけ時間を使ったんだろう……

 私達は次のフロアへ向かうも、この階層は徹底的に謎解きをする階層らしく、どのフロアにもナゾナゾが用意されていた。


「二人は絶対に私が守る! 指一本触れさせはしない!!」


 私は魔物に飛びかかり、攻撃を仕掛ける。


「アンタ、仲間を守る正義の味方みたいなセリフ言ってるけど、ただ謎解きに参加したくないだけでしょ?」


 ……そ、そんな事ないもん。誰かが魔物と戦わないと、安心して謎解きに集中できないと思っただけだもん!


「私は悲しいよ! 瑞穂ちゃんが仲間を信じてくれないだなんてさ!」

「はいはい。じゃあ戦闘はアンタに任せるわよ」


 やった! 頭を使わなくて済む!

 そうしてまた、二人が謎を解き先へと進む。そうやって少しずつ奥へと入り込んでいった。

 道中、謎解きに成功すると隠しエリアへと通路が開かれて、私はその報酬に心を躍らせていた。


「何が貰えるのかな~♪」


 宝箱を開けようとすると目の前にウィンドウが現れて、そこにテキストが表示される。


『二匹のカバが逆立ちをして作るお菓子は何か答えよ』


 そうして再び答えを入力する覧が出てきた。

 ふぇ~……またナゾナゾだよぉ。


「うぅ~……ルリちゃんわかる? 今度は私も頑張って考えてみるね」

「……バカバカしい」


 ガーーーーン!! ルリちゃんにバカって言われた!?

 やっぱり私の頭が悪すぎるから、考えるだけ無駄だって事!?


「バカバカしくてごめんなさい……」

「え!? ち、違う。沙南に言ったんじゃないよ!?」

「いいんだ。本当の事だもんね。どうせ私なんてゲームしか取り得ないし……。ただのゲーマー幼女だよ……」


 床を指で弄る私を、ルリちゃんが必死に取り繕おうとしていた。


「本当に違うよ!? このナゾナゾの答えが『バカバカしい』だと思ったから……」

「へ? なんで?」

「二匹のカバが逆立ちをする。つまり逆から読むって事だと思うから」


 あ~……なるほどね。


「だよね!? 私もそう思ったんだ! カバを英語にして逆から読むんだよね!?」

「……アンタは英語から離れなさいよ……」


 そっか。ナゾナゾは大体が逆から読めば解決するんだね! 賢くなっちゃった!

 そうして私は答えを入力した。すると、宝箱は見事に開かれる。

 報酬は――


【沙南は新たなスキルを習得した。ソニックムーブ+1】


 あれ、これって……


「もう持ってるよぉ~!!」


 被っても構わないと心に決めていたけれど、苦手な謎解きで頭がいっぱいっぱいになっていた私は本音をさらけ出すのだった……

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